30代は一番いいとき。もっと自由に羽ばたいて。植物療法士・森田敦子さん


日本における植物療法の第一人者。「ルボア フィトテラピースクール」主宰。フランス国立パリ第13大学で植物薬理学を学ぶ。帰国後にサンルイ・インターナッショナルを設立し、植物療法に基づく製品とサービスの提供、医療とのコラボレーション、セミナーなどで活躍。デリケートゾーン&パーツケアブランド「アンティーム オーガニック」やトータルライフケアブランド「Waphyto」も手がけ、植物療法の普及に努める傍ら、人生100年時代を見据え、産前産後や介護の現場を通じて女性の健康をトータルにサポートする可能性を追求する。ラジオ番組「森田敦子のまずは自分から♡」をPodcast、Spotifyで配信中。著書に『潤うからだ』他多数。
「ストレス」という言葉のない時代。体を壊して逃げるようにフランスへ
――大学卒業後は大手航空会社に就職され、客室乗務員として働いていた森田さん。しかし、ストレスや過労から体を壊してしまったとか。当時は、その後のキャリアや人生についてどんなふうに考えていたのでしょうか?
森田:25歳のときにダストアレルギー気管支喘息を発症し、入院しました。気管支拡張剤やステロイド剤など薬漬けの日々で、髪の毛にも影響があり、顔はパンパンに膨らんで、気づけば生理もずっときていない。医師には「子どもは諦めてください」と言われていたし、見た目も心もボロボロの状態でした。毎日が「明日死ぬかもしれない」という状況の中で、正直これからのことなんて何も考えられなかったですね。
当時はバブルの絶頂期で、「ストレス」とか「ケア」なんて概念はそもそもありませんでした。みんな夜遅くまで働いては、朝まで踊ったり飲んだり……思えばそれがストレスの発散だったのかもしれません。しかも、女性は29歳で結婚していなければ、「売れ残ったクリスマスケーキ」なんて言われる時代ですから、ある程度働いたら寿退社するのが当たり前。“女性は使えない”とされている中で、体を壊すような弱い人間には、誰も手を差し伸べてはくれませんでした。

――26歳で退職した後、フランスへ渡り、「パリ13大学」の医薬学部植物療法学科へと留学した森田さん。そもそも植物療法に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
森田:私はもともと中国語を学び、テーマを漢方にしていたこともあり、退院後は食事を見直し、玄米菜食に、味噌などの発酵食品を摂るなど、少しでも体質の改善につながるようなことをあれこれ試みていたんです。そんななか、フランスに暮らしていた友人が教えてくれたのが、「植物療法(フィトテラピー)」でした。薬による治療に希望を見出せずにいた私は、藁をもすがる思いで渡仏しました。
ただ、「留学した」と言うと、かっこよく聞こえるかもしれませんが、正直、逃げたんです。薬の副作用でお化けのような見た目になってしまって、仕事もできず、周りから「敦子、終わったよね」と声が聞こえるようで……そんな日本から、誰にも見られない場所へと逃げてしまいたかったんです。
フィトテラピーとセクソロジーと出会い、真の健康について考えた
――当時の森田さんの苦しさが伝わります。大学では、どんなことを学ばれたのでしょうか?
森田:当時の日本では、ハーブやエッセンシャルオイル(精油)はあれど、どこか「怪しいもの」という見方も強かったと思います。一方、フランスの病院では、西洋医学と並行して薬草を処方しますし、街のあちこちには、エルボステリアと呼ばれる薬草専門の調剤薬局があり、不調があればそこでハーブを調合してもらうのが当たり前。日本との違いに驚きました。
私が通ったパリ13大学の薬草学は、医薬学部の専門課程に位置付けられていて、植物の構造だけではなく、それが人体にどのように作用するのか、人体の細胞や血液、筋肉や臓器、ホルモンはどのように動いているのか、などを総合的に学ぶことができました。その中で、「性科学(セクソロジー)」に出会い、衝撃を受けました。

――日本ではまだ耳慣れないセクソロジーですが、フィトテラピーとどんなつながりがあるのでしょうか?
森田:日本では「性欲」というと、恥ずかしいとか、いやらしい、汚らわしいといったイメージがありましたが、フランスでは、性欲やパートナーシップについて語り合うことに抵抗を持っていない人が多く、はじめはその感覚にびっくりしました。でも、そもそも健康とは、食欲・睡眠欲・性欲のバランスが整っていて成り立つもの。性欲はどのように湧くのか、デリケートゾーンの仕組みや性欲とのつながりについて学ぶことは、人の体や健康を知る上でとても重要なことなのです。
中でも膣は、女性独自の体の構造であり、おりものや経血を出したり、パートナーとのセンシュアルな関係性を育んだり、新たな生命を産むための産道でもあります。まさに、女性の体と心を支える最重要器官とも言える場所なんです。そのためフランスでは健康管理の一つとして、デリケートゾーンケアも当然のこととして受け入れられていました。
不調を軽く考えない。30代こそデリケートゾーンのケアを
――森田さんは現在「アンティームオーガニック」や「Waphyto」を通じて、植物療法やデリケートゾーンケアの力、大切さも発信されています。特に30代女性が、セクシャリティやデリケートゾーンケアに向き合う方がいい理由は何でしょう?
森田:もし、今自分が30代だとしたら、やっぱり生きにくいだろうなと思うんです。TikTokだのYouTubeだの、常に膨大な情報に触れ続け、どこにいてもメールや電話に追いかけられ続ける。常に新幹線に乗っているような日々の中で、心身の健康を保つというのは本当に大変なことだと思います。実際、むくみや頭痛、生理不順やPMS(月経前症候群)といった不調に悩む女性が多いのは、このストレス社会と深く繋がっていると感じます。
特に、デリケートゾーンは非常に繊細で、心身のストレスに影響されやすい場所です。女性は「プレ更年期」とも呼ばれる35歳あたりから、女性ホルモンが変化し、膣の乾燥や萎縮といった、デリケートゾーンのトラブルも起こりやすくなってきます。放っておけば40代になってから、性交痛やGSM(閉経関連尿路生殖器症候群)に悩まされる可能性も。ちょっとした不調を軽く考えないこと、そして日頃から意識的にデリケートゾーンをケアして整えておくことが、今後の健康に大きくつながります。

――デリケートゾーンケア初心者は、具体的にどんなことから始めてみるといいでしょうか?
森田:基本は清潔にすることと、保湿です。特に膣口や陰核付近には尿やおりものによる、恥垢という特別な垢が溜まっているので、デリケートゾーン用のソープで丁寧に洗い、ジェルやオイルで保湿をしてあげましょう。ふっくらと潤いのある膣は、健康の証。今後のためにも、30代のうちからぜひケアを習慣づけていただきたいですね。
――植物療法・セクソロジーとの出会いは、森田さんの体、心、人生観などをどのように変化させましたか?
森田:31歳で帰国して、最初はやっぱり鬱々していたんです。すぐに何もかもが変わったわけではありませんでした。でも、その不安や苦しさが自分を痛めつけるのだと、大学の先生は教えてくれたじゃないか、とハッとして。まず自分を慈しむこと、女性の体をきちんと理解し適切なケアをすること、愛のあるパートナーシップを築くこと……そうした教えを胸に、これまでの考え方をガラッと変えてみたんです。
例えば、「~ねばならない」とか「~するべき」とか、周りによく思われなきゃいけないとか、人に評価されなきゃいけないとか、これまで自分を追い詰めてきた感情をすべて手放し、「全部関係ない。まずは自分だ」と、腹を決めました。そうして自分のケアに集中するうちに、止まっていた生理が戻り、肌も髪も、体の調子もだんだんとよくなり、さらには43歳で突然自然妊娠したんです。
何よりもまず自分。「ケ・セラ・セラ」の精神を身につける
――30代は、「結婚するか・しないか」「産むか・産まないか」と言った人生の大きな選択を前に揺れる人も多いと思います。心は決まらずとも確実に年齢は重ねていく中で、「選択肢を残す」ことを森田さんは勧められていますね。
森田:世間では、「30代はつらい」「40代からは更年期に苦しむ」「50代で閉経したら女も終わり」だとか、いろんなことを言うけれど、そんなふうに年齢や体のことで、自分の生き方を決めつけたり諦めたりしないでほしいんです。大切なのはどんな生き方をしたいのか、あなたがチョイスできるのだということ。私自身、40代で妊娠出産をしましたが、選択の幅を広げるためにも体を整えておくことが本当に大事だと実感しています。30代の今からきちんと自分をケアすれば、長い人生、まだまだ選択肢は広がっていくはずですよ。

――日々忙しさに追われ、自分のことをおざなりにしがちな30代女性は少なくないと感じます。明日からできるケア習慣や心がけがあれば、ぜひ教えてください。
森田:植物療法を取り入れるのもいいし、ピラティスを始めるのもいい、デリケートゾーンケアのアイテムだってたくさんある……。でも、最初にしなければならないのは、「何よりも自分」と思える心を持つことだと思っています。それにはある意味、覚悟も必要かもしれません。
仕事じゃない、夫でも彼氏でも、上司でも、両親でもない、まずは自分。結婚しようがしまいが、産もうが産まなかろうが、関係ない。そんな「ケ・セラ・セラ」の精神でいられるようになれば、自分の心の声にも、ちゃんと耳を傾けられるようになります。「何かきつい?」「何が痛い?」「何がつらかった?」と、一つひとつの声に耳を傾け、自分を抱きしめてあげてほしいんです。それこそがセルフケアだと思います。
30代は一番いいとき。もっと自由に羽ばたいて
――気を遣い、神経を遣って生きていると「何よりも自分」と思うのは、なかなか簡単なことではないかもしれません。何かコツやヒントがあれば教えてください。
●コップいっぱいに自分の好きなものを満たす
森田:常に周りのことばかり気にしていても、自分の器の中身が空っぽだったら、何も与えることはできません。イメージしてほしいのは、自分というコップ。そこに好きなもの、嬉しいこと、ハッピーな気持ちをどんどん注ぎ込んでください。そしてそのコップを大事に守ってあげること。自分を守れるのは自分しかいません。目に見えないヴェールでそっと包んで、嫌なことや意地悪な人は遠ざけましょう。コップが一杯になれば、コップの底がパカっと空いて、無理しなくとも自然に周りに与えられるようになります。
●自分と向き合うセレモニーとして、コーピングノートを作る
森田:日々降りかかってくる情報に、惑わされたり焦らされたりすることもあるでしょう。1日だけでいいから外からの情報をシャットアウトして、自分と向き合うセレモニーをしてみるのはいかがでしょうか。
カフェでも、公園でも、どこでも構いません。自分が一番落ち着く場所でノートを広げたら、自分の好きなこと、ほっとすること、喜ぶこと、癒されることを全部書き出してみるんです。それは、自分だけの「コーピング(※)ノート」。自分の頭の中を整理できるだけでなく、ストレスを感じたり落ち込んだりしたときそれを開けば、きっと自分を取り戻せるはずです。
※コーピング…ストレスに対処するための具体的な行動や方法
●ご機嫌取りのお気に入りを持ち歩く
森田:自分のお気に入りを持ち歩くことも、一つのコーピングです。私の場合は、このゴリラのぬいぐるみ。名前は「巌」と書いて、がんちゃんです。夢に向かって頑張っているときって、やっぱりつらいことも多いんですよね。そんなとき、がんちゃんに話しかけていると、なんでも小さいことに思えてくるんです。そしてまた「頑張ろう!」という気持ちになる。こうやって自分のご機嫌を取る術を持っておくと、安心材料になります。

――30代を不安に考えている人も少なくないと思います。これからの日々を心地よく生き抜くために、人生の先輩である森田さんから、背中を押すような一言をいただけたら嬉しいです。
森田:私は30代って、一番いいときだと思っているんです。ケアしてあげれば体はまだまだ動くし、新しいことにもどんどん挑戦できる。「ケ・セラ・セラ」と唱えながら、自分のコップをどんどん満たし、「これがあれば自分は大丈夫」だと、知っておけば、この先の40代、50代を必要以上に不安に思わなくて済むはずです。今は、女性が自由に羽ばたける時代。もっともっと楽しまないと。
text_Renna Hata photo_Mikako Kozai edit_Kei kawaura