ボロボロだった20代。毎朝4時起きのヘルシーな40代へ変わった今、ボルダリングでもっと自信がついた
コラムやエッセイ、Web小説など連載多数。雑穀スーパーフードマイスターやスーパーフードエキスパート、野菜・果物など食に関する資格を複数所有し、ヨガと合わせて身体の内外からのアプローチを得意とする。Instagram:@saori_takagi
一番簡単なレベルですらヘトヘト…。刺激的な出合いで夢中になったボルダリング
目の前にそびえ立つのは、高さ4.5mにもおよぶ岩壁。ホールドと言われるゴツゴツした壁の突起物を手足の力だけで上へ上へと登っていくボルダリングは、東京2020オリンピックでも「スポーツクライミング」として競技種目に追加されたのが記憶に新しい。
つま先が狭く、底にカーブがある専用のシューズを履き、手汗止めの液体チョークを塗りながら登るコースの全体を確認。手足をホールドにかけて体を勢いよく引っ張りあげれば、テンポよく踏み込んでいく。登る後ろ姿を見ると、努力で培われたであろう筋肉美を背中や腕に携えていた。
この日訪れたスタジオでは、基礎を学べば小学生でも登れるという7Qから始まり、上級者向けの1段まで難易度は8段階。角度120度越えの急勾配な岩壁を含む5種類の壁が立ちはだかる。高木さんは4Qを挑戦中だった。
「4Qに挑めるのはもっと先かな〜と思っていたんですけど、スタジオに通っているベテランの方たちからのアドバイスもあり、早々にトライできることになりました。
このスタジオでは道具選びなどのアドバイスをしてくれるスタッフはいますが、テクニック的なことを教えてくれるコーチはいないんです。基本は自分で体のバランスを見ながら登るコース取りを考えて、時には会員さん同士で教えあったり、励ましあったり…交流しながら取り組んでいます」
ボルダリングを始めたのは、2023年の9月頃。インストラクターをしているヨガスタジオの隣にある施設が気になり、意を決してレッスン終わりにビジターとして寄ってみたという。
「道具を借りて7Qをやってみたんですが、小学生でも登れると聞いていたのにまったく上に進めなくて(笑)。体の可動域や筋肉の使い方が、ヨガとは違ったんですよね。結局15分くらいしかやっていないのに、指や足は痛いし、腕はプルプル震えてコーヒーマグも持てないくらい。
でもこのファーストタッチが、私には久々の刺激的な出合いでした。インストラクターとしてヨガを教えているときは、生徒の見本として動きながら進めているので、自分の体が整ってスッキリするわけではないんです。教えながら体を動かす、そのバランスやもどかしさを何となく抱き始めた時期でした。
なので、純粋にプレイヤーとして挑めるボルダリングが余計に楽しく感じたのかと」
この出会いから、まずは週1日、レッスン終わりにボルダリングをするルーティンが始まった。通っていくうちに7、6Q は自分の力で順調に登りきれたが、傾斜があり、体の向きや角度を変えて登るなど、テクニック要素が増え始めた5Qでつまずきはじめる。
「ボルダリングは基本、それぞれの課題に集中して黙々と登っている印象があり、同じ会員の人に話しかける雰囲気ではなかったんです。でも5Qを登りきるには自分の力だけじゃ難しいと感じて、勇気を出して声をかけてみたんです。
すると、皆さんとても親身になって教えてくれました。「シューズはこれを使うといいよ」とか「登っている様子を見てあげるから」とアドバイスをくれたり。このタイミングで新しいコミュニティに出会えたというのも、ボルダリングを続ける大きな糧になったと思います」。
仕事では感じられなかった、目に見える小さな成功体験
ボルダリングを続ける理由は、他にもある。これまで得られなかったという、自分で自分を褒められるような目に見える達成感と成功体験だ。
「自己肯定感が元々低くて、仕事でも趣味でも“よく頑張った!”と自分を褒められるような瞬間が少なかったと思います。頑張って当たり前だし、頑張ったレベルに達してても認められない自分、そもそも自分を褒められるレベルはどこ? とうまく落とし込めないことにモヤモヤしていました。
でもボルダリングを始めてみると、びっくりするぐらいシンプルに、目で見える達成感を発見できて、自己肯定感の低さを払拭してくれました。
スタートとゴールはこの場所で、ホールドは何秒以上、とルールが確実に決められた中で登りきった時、自分よく頑張ったな! と自分を褒める気持ちがストンと心の中に落ちてきたんです。ひとつ達成感を得て、またやってみようという気持ちの繰り返し。これが小さな成功体験を積み重ねているようで嬉しかったですね」
達成感は簡単に得られるものではない。そもそも自分にはまだ無かったものだと、この時初めて気づいた高木さん。小さな成功体験を得られてからは、気持ちの変化も見えてきた。
「ヨガはリラックス、リフレッシュのような体の内側を整えるような目的がありますが、ボルダリングはアプローチ方法が少し違いました。登る時のコースを覚えてルートを決めて、手足の置く場所と使い方をイメージトレーニングして…と思考をめぐらせながら目の前の課題に向けて集中する時間が増えた気がします。
上級になるほど高い集中力を発揮しないと、コースに迷いが出て体力が続かず、うっかり下に落ちてしまうんです。最近はそのゾーンに入ったようで、気づくと6時間経っている日も(笑)。いま挑戦中の4Q の合格点レベルは高いですが、達成した時の高揚感は倍になることを覚えたので、毎回楽しく登っています」
成功へと導く体づくりと、ゲン担ぎのおにぎり
4Qに入ってからは、練習でできなかった動きにつながる筋肉を調べ、可動域を保つための筋トレも自宅でするようになったという。合わせて、食事の面でも健康的な体づくりへの余念がない。
20代は航空会社のグランドスタッフとして充実した日々を過ごしながらも、不規則な生活習慣を顧みず、無我夢中で走り続けていた高木さん。その当時は、あらゆる不調を抱えていて、それを改善するためにさまざまな健康法を模索した。
40代になった現在も、発酵食品ソムリエ、雑穀スーパーフードマイスターやスーパーフードエキスパートなど食に関する資格を生かし、その日のコンディションにあった食事の献立を毎日考えている。
「何を食べるかではなく、何を食べないかを考えるようになってから、自然と体質に合わないものは摂取しなくなり、調子が良くなりました。
食事は毎日1.5食〜2食。4時起き生活5年目の朝ごはんは、必ず雑穀米のおにぎりにしていて、その時の体調で補いたい要素の雑穀をブレンドして作っています。
サプリやプロテインには頼りたくないので、ボルダリングを終えた後はエネルギー補給としてタンパク質を摂って、なるべく夕食は14時を目処に済ませるのが目標です。10時間以上のプチ断食と、自分の稼働時間に合わせた食事と睡眠のバランス。40代になって、ようやくベストなルーティンが見えてきました」
4時:起床
5時:朝食(おにぎり+お茶。空腹時はオーツミルクラテを)
6時〜:ライター業の原稿執筆など
9時〜:ヨガのレッスン、終わり次第ボルダリング
14時:帰宅、夕食
16時〜:自由時間(仕事、筋トレ、読書など)
21時:就寝
少しでも自由な時間を作って、健康的な体づくりを通して自分との付き合い方を考える──それが高木さんにとって、いま楽しくボルダリングを続けるために導いた答えだ。
「何事もネガティブな考えをいきなり直すことは難しいので、何をして自分は落ち込むのか、モチベーションがどう上がるのか、自分を分析してルール化しておくと、ピンチの時にストレスなく過ごせるはず。
その切り口が、私は食で整えて体を動かすことでした。これだけ頑張っておけば、その他は気を張らずに過ごせればいい、みたいなメリハリだけでも十分だと思います。私もボルダリングに関してはまだまだ経験浅ですが、ヨガインストラクターやライター業とうまくバランスを取りながら、でも目標は高く持ってこれからも向き合っていきたいですね」
「ヨガスタジオ」「ボルダリング」「地域の公園」「地域の自然」を融合した、自然調和型の会員制クラブ。
住所:埼玉県八潮市大瀬1-1-3 フレスポ八潮2F
HP:https://communitypark.info/yashio/
photo_Hikari Koki text_Ami Hanashima