「奇跡のお弁当」とSNSでも話題! 一躍人気料理家に!1日100個の弁当「chioben」を作る、山本千織さんとは?
モデルや女優のSNSに登場し「ウワサのロケ弁」と話題の「chioben(チオベン)」を手掛ける山本千織さん。そんな一躍人気料理家となった彼女の、気になる仕事観に迫ります。Hanako創刊30周年特別企画『働くことと、生きること。46人の、転機と決断。』「「食べる」と生きる人。」よりお届け!
料理経験ゼロで飲食店をスタート。
山本千織/2011年に「chioben(チオベン)」を開業。現在は、撮影弁当、ケータリング、雑誌や広告等幅広く活躍。近著に『チオベンの弁当本』がある。www.instagram.com/chiobenfc
おいしいものが好きな人だったら、きっと「chioben」という名前に聞き覚えがあるだろう。モデルや女優のSNSに登場したことから、〝ウワサのロケ弁〞として徐々に広まり、雑誌やテレビ番組にも度々出演。見た目の美しさと、それを凌駕する味で多くの人を魅了している。
人気の春巻は皮を2枚巻くことで、サクサクとしたパイのような食感が楽しめる。撮影の弁当は、見た目はキレイなのにガッツリ。働く人のことを考え、肉、魚が両方入り、必ず揚げ物を入れる。スタミナたっぷりな弁当。
チオベンこと山本千織さんは美大出身。大学時代はイラストレーターやデザイナーという職業に憧れた。しかし、ひょんなことから山本さんの料理人生が始まることになる。
「美大卒業後、料理人の夫と結婚して札幌で店を始めて、夫は料理、私はサービスを担当していたんですが、1年半くらいで夫が家出。仕方なく私が厨房に入ることになったんです」
未経験から突然飲食の世界に入ってしまった山本さんだが、これが結構性に合っていたのだという。
「子どもの絵の先生をやったこともあるんですが、全然向いていなくて。でも、飲食の仕事は時間を気にせず働いていられるし、次から次へと何を作ろうって24時間考えていられる。ゼロから生み出せて、さらに誰かに食べられてなくなってしまう。飲食の仕事は、すごく自分に合っているなと思いました」
その後、いくつかの飲食店で経験を積み、妹の千春さんが同じく札幌で営んでいた食堂〈はるや〉のキッチンに入ることになる。〝美人姉妹の店〞として人気で、お客さんの足は絶えなかった。ここから、春巻やタコめしなど、今でも続くたくさんのレシピが生まれた。あっという間に12年が経ち、順風満帆かと思いきや、突然東京に来ることになる。それが、2010年のことだ。
食器がないという理由で始まった「チオベン」。
「〈はるや〉を続けることで安定は見えてたんですが、その先の人生が予想できちゃうのがつまらないなと思って。そこに東京行きの話が来て、この年で上京するなんて笑えるし、人生面白くなるかもと」
山本さんの判断基準は、「笑えるかどうか」なのである。結局、最初に来た飲食店の話は頓挫してしまい、知人の紹介で別の飲食店で働くことになる。その店もしばらくして退店することになるが、近所のバーの店主が昼間の時間に店を貸すから、使ってもいいよと声を掛けてくれた。まさに、渡りに船。
「バーなので食器がないから、弁当を売ったらいいんじゃない? って言われてやり始めたのが〝チオベン〞なんです。これまでの人生、何でもそうなんですが、がむしゃらに自分でやりたいことを見つけ出そうっていうのではなくて、誰かがきっかけを与えてくれて、それに乗ってきたところが大きくて。友だちに恵まれていて、仕事運があるんだと思う」
かくして「チオベン」は誕生した。バーの場所は代々木上原。土地柄、お客さんは雑誌の編集者やフリーランスの人たちが多く、「また食べたい」と撮影のロケ弁を頼まれたりする機会が増えていった。時を同じくしてSNSが広がり、「チオベン」の名は各方面で知れ渡ることになる。「予約がとれない」「奇跡のお弁当」なんて言葉が飛び交う状況だが、本人はいたって冷静。
「流行によって過剰に評価されてるところもあるんじゃないかなと思う。でも、結局は〝味〞で淘汰される。飲食店での経験や、今でも〝1日に弁当100個作ってるんだ〞っていうことが自信に繋がっています。これからの仕事ですか?もう年なので(笑)、自分が面白いと思えることをやりたいですね。笑いが共有できる周りの友だちに『バカじゃないの?』って笑われるようなことを」
やっぱり山本さんの判断基準は「笑えるかどうか」なのだ。
Hanako『46人の、転機と決断。』特集では、働く憧れの女性を多数ご紹介しています。
(Hanako1159号掲載/photo : Tomo Ishiwatari text : Keiko Kamijo)