『ご近所物語』に憧れて。洋裁教室の先生や友達に教えてもらいながら作った洋服|前田エマの、日々のモノ選び。#17
30代という年齢は、“モノを選ぶ眼”が育ち養われてくる年齢ではないだろうか?流行りものやブランドものではなく、自分が心地いいモノを選びたい。生産の背景を知り好きになるモノだったり、多少値が張っても人生をかけて大切にしたいと思えるモノだったり…。そういった視点でモノを選ぶ前田エマさんが、ご自身の私物とともに「モノの選び方」について綴る連載です。第17回目は“自分で作った服”について。
幼い頃から、服について想像するのが好きだった。
毎週のたのしみは、アニメ『カードキャプターさくら』を観ることで、放送が終わるとすぐに落書き帳を取り出し、さくらちゃんが着ていた衣装を描いた。
このアニメは、主人公のさくらちゃん(小学4年生)が、災いをもたらすカードを集めるために奮闘する物語なのだが、彼女がバトルの際に着用するコスチュームは、幼馴染の知世ちゃんによって手作りされていた。
その服のなんと可愛いこと! セーラー、魔法少女、チャイナ服など、さまざまなコスチュームに身を包むさくらちゃん。「服って自分の手で作れるんだ!」と、私は興奮した。
その後、小学校中学年になり、モーニング娘。に夢中になった私は、歌って踊る彼女たちの衣装を細かく覚えて、スラスラと落書き帳に描いた。一人ひとりの個性に合わせて、絶妙に異なるデザインが毎回楽しみで仕方がなかった。
大学生になった私は、なぜかそのタイミングで漫画『ご近所物語』と『パラダイス・キス』にハマった。この漫画は、服飾学校を舞台にした青春物語なのだが、矢沢あい先生の描く魅力的なキャラクターたちとファッションは、小学生のころに抱いた服に対してのキラキラした気持ちを私に呼び起こした。
いてもたってもいられなくなった私は、服飾学校に通おうかと調べ始めた。夜間や土日に開校しているところがいいなと思った。しかし「ブランドがやりたいわけじゃないし…」「他にもやりたいことや行きたいところがあるし…」「自分のために服をつくりたいだけなのに…」などと、ウダウダと考えはじめた。
そんなとき、アルバイト先(飲食店)の店長が「そこの洋裁教室に通えばいいんじゃない?」とポロッと言った。
アルバイト先から歩いて5秒のところにある洋裁店。店主はバイト先の常連のAさんだった。
Aさんは、私の祖母より少しばかり年下の女性で、くるくるヘアー。アニマル柄の服を着ていることの多い、とても元気で明るい人だ。すぐに歓迎してくださり、私は週に一度のペースで通うことになった。授業のたびに手作りのヨーグルトを食べさせてくれて、いつもTBSラジオが流れていた。
最初の1ヶ月は、さまざまな縫い方やボタンの付け方などの基礎を習った。それらをまとめた「縫い方見本帳」のようなものを作り終えると、次はスカートを作ることになった。スカートは、いちばん簡単に作ることができるアイテムなのだそう。
サスペンダーが取り外せるスカートがいいなと思い、デザイン画を描いてAさんに見せ、一緒にパターンをひいた。
縫っている途中、私の不注意でスカートに穴を空けてしまうと、Aさんと相談して、裾に細いリボンをグルリと巻き付け、穴を上手に隠すデザインにした。
大満足のスカートが完成し、「次はワンピースがつくりたいです!」と話して店を後にした数日後、Aさんが倒れたと娘さんから連絡をもらった。身体が思うように動かず、店を続けるのは難しいらしく、洋裁教室はそれきりになってしまった。
どうしてもワンピースをつくりたい。Aさんが教えてくれたことを、ちゃんと何か形にしたい。そこで連絡したのがひとみさんだった。ひとみさんは、姉妹で食と衣のモノづくりのユニット「olive」をやっている。お姉さんのさんが食、妹であるひとみさんが衣服を担当されている(この連載にも過去にひとみさんの作った洋服が登場している)。
私は2、3回ほどひとみさんのお家にお邪魔して、パターンの引き方や縫い方などを教えてもらいながら、黒いワンピースを作った。
裾がぽわんと膨らみ、程よいギャザーの入った、シンプルな1着は、普段使いはもちろん、お出かけの際も重宝する。
なんでも簡単に手に入る世の中だし、安くて可愛いものもたくさんあるけれど、こうやっていろんな思い出を引きずりながら着られる手作りの服を、これからも少しつ増やしていきたい。
1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。6月20日に韓国カルチャーガイドブック『アニョハセヨ韓国』(三栄)を刊行。
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