きゃりーぱみゅぱみゅの大人なLADYになるわよコラム
〜 第58回 お腹にBABYがいるわよ〜
きゃりーぱみゅぱみゅが「大人なLADY」を目指す日々を綴る連載。おかげさまで、話題沸騰です。今回は妊娠発表の舞台裏について。
第58回 お腹にBABYがいるわよ
皆さま、ごきげんよう。先日、妊娠を発表させていただいた、きゃりーぱみゅぱみゅです。
実は、そこに至るまでにいろ〜んなことがありました。
前回のコラムでは、自宅に引きこもって丸々2週間休養してた話をお伝えしましたが、実はその間「切迫流産」という状態が続いていました。
私のメンタルはずっとハラハラドキドキの連続で、感情のジェットコースターが凄まじかったです。
そこで今回は、発表までの経緯を改めて皆さんにご報告しようと思うのですが、ノンフィクションでありのままに綴っているので、多少デリケートな箇所もあるかもしれません。
ただ私としては、一度は流産宣言されたものの実は生きてる命があったことを身をもって体験したので、それをここでちゃんとお伝えできたらなと…。
でも、読んでて辛い気持ちになってきたりしたら、無理せず離脱してくださいね。
そんなわけで今回は少々長くなってしまいますが、どうかお付き合いいただけますと幸いです。
まず話は、生理がなかなか来なくて妊娠検査薬を使ってみたら、速攻でピシッと線が入ったところから始まります。
「これは間違いないっしょ!」
そう言わんばかりの堂々としためっちゃ濃い線です。
それを見てびっくりしたんですけど、すぐにうれしさがこみ上げてきました。
と同時に、一抹の不安も頭をよぎります。
私が妊娠とかしたら、みんなが応援してくれている“きゃりーぱみゅぱみゅ”はどうなるんだ?
そんなことを20代の頃からずっと考えていた私。
ソロで活動しているし、自分が止まってしまうとほんとに全部が止まってしまいます。
出産や育児とキャリアの両立って難しそうだし、妊娠がいざ現実になると実際どんな感じになるのか?
そんな漠然とした不安をずっと抱えていました。
とはいえ、妊娠検査薬で陽性が出たからといって、病院に行くまでは本当に妊娠したかどうかはわかりません。
で、そのときはもう夜中だったので、次の日開いてる産婦人科を検索。
すると翌日は、たまたまどこも休診日のところばかり。
開いてる産婦人科はほんの少ししかなかったんですけど、その中からそれほど遠くなくて良さげなところを選んで、そこに行ってみることにしました。
「うん、ちゃんと妊娠していますね。おめでとうございます」
お医者さんから、ちゃんと受精卵が子宮内にいてこのまま妊娠が継続できると聞いて、
「ついに自分もお母さんになるのか…」
自然と涙がこぼれ落ちてきました。
まだ自覚できる体の変化はなかったんですけど、出産に向けて本当に歩みだしたんだな〜と実感して胸が熱くなりました。
2週間後、再び産婦人科へ。
前回エコーで見たときは“胎嚢(たいのう)”という赤ちゃんのベッド的なものしか見えなかったんですけど、そのときはお豆ちゃんみたいな赤ちゃん本体がピコッピコッと動いているのが見えました。
「心拍もちゃんと動いています。そろそろ出産する産院を決めてくださいね」
画面を見ながら微笑んでいる先生。
お腹の中の赤ちゃんは順調にすくすく育っていると知って、私も安心していました。
しかしその数日後、出血。
その日はお出かけをしていて、けっこう長い距離を歩き回ってしまったんですけど、おそらくそれがよくなかったんだと思います。
しかも仕事とはいえ、妊娠判明からその日までの間にライブも何本かやってたんですよね…。
あまりジャンプしないようにするとか、自分でコントロールしながら気をつけてれば大丈夫だろうと思ってましたけど、小さな無理がチリツモになったのかもしれません。
膨れ上がる焦りと不安。
「妊娠初期 出血」で検索しても、「よくあること」とも「流産の場合そうなる」とも書いてあって、どっちなのかよくわかりません。
とにかく先生に診てもらおうと、次の日の朝、産婦人科に駆け込みました。
「ん…あれ? ちょっとぼやけてますね…」
先生は言いにくそうな雰囲気を出しながら、エコー画面を見つめています。
前回見えたはずのお豆ちゃんが見つからないようです。
私も画面を見せてもらいました。
子宮の中は真っ暗闇で、まるで『あつまれ どうぶつの森』の留守中のお部屋みたいな感じになっています。
怖くなった私は、単刀直入に「赤ちゃんいなくなってますか?」と聞いてみました。
「どうも流産しちゃってるね…」
先生の言葉を聞いた瞬間、堰(せき)を切ったように私の口から流れ出てきた「歩き回ったせいだ」「ライブをしてしまったせいだ」という後悔の言葉。
でも不思議と涙は出てきませんでした。
そんな私を見かねて、先生はけっこう強めのトーンで言いました。
「あのね、初期の流産はお母さん側が原因じゃないことが多いの。そこまでしか育たない赤ちゃんもいるの。だから自分を責めないで」
その情報は検索したときも出てきたので知ってました。
確かにこちら側では、もともとどうすることもできなかったのかもしれない。
ただ、全妊娠の15%と言われている流産が、まったく他人事なんかじゃなくて自分にも起きることなんだと強く思い知らされました。
そして出産まで行けるのは、ほんと奇跡なんだということを…。
流産宣告を受けたその日の夜に、なんとライブがありました。
用意されていた衣装は、ゆったりめの衣装と、いつも着ているウエストが締まった感じの衣装の2パターン。
もうお腹の赤ちゃんは生きていないし、とにかく通常モードへと気持ちを切り替えたいなと思ったので、いつもの衣装を選択。
そして普段と同じようにステージに立ちました。
私はまばゆい照明の下で楽しそうに歌って踊ります。亡くなった赤ちゃんをお腹に宿したまま。
その日のライブは、実になんとも言えない感覚でした。
みんなに夢を与えるきゃりーぱみゅぱみゅとしての私と、生々しい現実を抱えている本名の私。
あまりにギャップが開きすぎて、もう幽体離脱してしまいそうです。
ステージの上で歓声を浴びて、ああ、これが#芸能人なんだなあと思いました。
悲しい出来事があったのを知っているのは、自分だけ。
そんな私にスタッフさんはいつもと変わりなく接してくれたんですけど、それが本当に救いでした。
ライブを終えて帰宅。
夢のようなライブから一転して、今度は現実が押し寄せてきます。
トイレで生理のときくらいの量の出血がありました。
「これが流産か。ほんとに自分はそれをしてしまったんだ…」
手術は早いほうがいいと聞いていたので、寝る前に「明日、病院に行ってくるね」と夫の奨之さんに言ったら、健気に私を励まそうとしてくれました。
「いや俺、生きてる気がするんだよね」
うん、そうだったらいいけどね…。
そして翌日。
それまで通っていた産婦人科は手術の対応ができないとのことだったので、今度は大きな病院に行きました。
受付のところに問診票が置いてあります。
私はそれを埋めようと思ってペンをとったのですが、「通常妊婦健診」とかいろんな項目がある中で「流産手術」が見当たりません。
仕方ないので、「その他」のところに「流産しました」と書いて提出しました。
そして待合室の椅子に腰を掛けると、さすが大きな病院だけあって、順番待ちをしている妊婦さんたちがたくさんいることに気づきました。
お腹の大きな人から、まだお腹が大きくない人まで。夫とおぼしき男性と一緒に来ている人もいます。
そしてほとんどの人たちは、みんなうれしそうな表情をしています。
その様子を見て、私は心の底から願いました。
自分はこうなってしまったけど、どうかみんなは無事に元気な子を産んでほしいと…。
しばらくして私の本名が呼ばれました。
診察室の扉を開けます。
するとそこには、おじいちゃん先生がいました。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の“ドク”に似ていてクセ強です。
「あ〜、言われちゃった?」
前の産婦人科からもらった紹介状を見ながら、ドクは言いました。
「はい。言われました」
仕事もあるのでなる早で手術がしたいと私は伝えたのですが、「いきなり今日はできないな〜」とドク。
ちゃんと経過観察して、さらにパートナーのサインをもらって、日にちを決めて、それでようやく手術できるみたいです。
「じゃ、とりあえず診てみようか」
今の状況を確認するために、エコーを見てみることになりました。
ドクの眉間にシワが寄ります。
「どれどれ〜」
「いるいる! いるよ赤ちゃん!」
めちゃくちゃ大きな声が診察室に響きわたりました。
ドクが「ここ!」と指差したところを見てみると、胎嚢の中にピコピコしたお豆ちゃんの姿がかすかに見えます。
しかも前回見たときより、ちょっと大きくなってる!
「生きてる生きてる!」
それを聞いた私は、びっくりして、信じられなくて、うれしくてうれしくて、その場で泣き崩れました。
「昨日ライブで思いっきり踊ってもっと出血しちゃったんです😭 赤ちゃんごめんなさいいいい😭😭」
頑張ってしがみついてくれてたんだと思うと、なおさら泣けてきます。
あまりに泣きすぎて一回看護師さんに慰めてもらったほどです。
奨之さんの予感は本当だったんだ…。
あのときを振り返るたびに、やっぱり何かあったときはセカンドオピニオンというか、病院を変えてみるのが重要なんだな〜とつくづく思います。
別に最初の病院を非難するつもりはありません。
ドクいわく、プロでも見つけられないときがあるそうです。
機械だって完璧じゃないし、お医者さんだってミスをする人間だし、それに赤ちゃんというのはあっちをウロウロ、こっちをウロウロで「ずっとカメラのセンターにいるわけないでしょ」とドク。
だから今回の私みたいに、流産宣告を受けたけどやっぱり生きてたというケースもたまにあると言ってました。
ほんとお豆ちゃんは、いったいどこを散歩してたんだよ〜😭
ひとまず胸をなでおろすことができました。
とはいえ、今もなお危険な状態にあることに変わりありません。
ドクは続けます。
「あなたまだ出血してるんだよね? そしたら『切迫流産』という診断になります」
今は流産の一歩手前で、このまま出血が続くとほんとに流産してしまうかもしれないんだそうです。
その日から丸々2週間、自宅で安静にするように言われました。
転んだら危ないので基本的に家事もNG。仕事ももちろん全部キャンセルです。
「えええ、そんな迷惑かけられないよ…」
とっさにそう思った私。レギュラーの仕事とか、もう出演が決まってるイベントとかもあります。
しかしドクは「これ見せたらどんな相手でも必ず休ませてくれるから!」と診断書を書いてくれて、きゃりーぱみゅぱみゅ突然の休養がスタート。
この時点ではまだ流産する可能性も十分ありえたので、“妊娠”ではなく“体調不良”による休養という発表になりました。
というわけで、自宅で引きこもり生活をすること2週間。
その間、外出もせず、まったくと言っていいほどシャバの空気を吸いませんでした。
なるべく体にいいものを…と、食べ物も薄味で素朴なものばかり。
シャバらしいシャバといえば、一回だけマックを食べて「やっぱジャンク最高〜!」と半分白目になりながらぶっ飛んだくらいです。
そしてそんな生活を2週間続けたあとに病院に行くと、
「出血も止まって通常の妊娠に戻ってるね」
ドクはニコッと笑って言いました。
私は休んでいる間ずっとヒヤヒヤしっぱなしだったので、本当にホッとしました。
こんな精神状態が続いたら、そりゃ妊婦さんはマタニティブルーにもなるわという…。
何はともあれ、お豆ちゃんの状態はこれでいったん落ち着きました。
次は仕事のことを考えないといけません。
妊娠中のライブやテレビ出演をどう回していくか?
あと、妊娠発表をどのタイミングでするか?
事務所の社長に相談すると、健康を第一に考えて「ライブは全部キャンセルしよう」と提案してくれました。
ただ、その代わりに「来週には妊娠発表させてほしい」とのこと。
たしかに“体調不良”を理由に引っ張るのも限界があるし、それが長期間になればなるほど「重病か?」と心配されてしまいます。
だけど、ここでフラッシュバックしたんですよね。
奨之さんと両親とマネージャーさんに「流産しました」って伝えたあの瞬間が…。
あのとき、自分の心が傷ついていく音がリアルにしました。
今すぐ妊娠発表をするとして、もしそのあと流産になってしまったら、今度は世間に向けてその辛い報告をすることになります。
そんなこと私は絶対できません。
なので、
①“体調不良”で引っ張れるだけ引っ張って、妊娠発表は流産のリスクが減る安定期に入ってからにする。
②その代わり、もう決まっているライブに関しては、座ったままできる方法をどうにか考えることにする。
社長も納得してくれたので、これで行くことにしました。
もちろんドクにも相談。
「俺のカミさんだったらライブはさせないけどなあ〜」
ドクとしては基本的に“ダンス妊婦ダメ絶対”ではあるんですけど、「飛び跳ねたりしないで、座った状態で手踊りとかに留めてくれるんなら…」と許してくれました。
そんなわけで、まずは椅子探しです。
早速、スタッフさんが何個か見つけてきてくれたものの中に、いいやつがありました。
巨大なコーヒーカップ椅子です。
これを見た瞬間、ビビビッときました。
あ、これなら普段と違和感なく、『不思議の国のアリス』みたいな世界観でライブできるかもしれないぞと。
私はアリスになって、ダンサーさんはトランプとかウサギとかマッドハッターになってステージに出てくる。
衣装も締め付けのないもので行けそうだし、厚底の靴を履かなくても違和感ありません。
よっしゃ! これで行こ!
ものすごい勢いでセットのデザインとかライブ構成とか振り付けとかを考えて、座ってできる新方式を1週間くらいで急遽開発。
それでライブに臨みました。
思えば、唇をざっくり切ったときは“付けヒゲ”で授賞式に出て、沖縄で脚をぱっくり切ったときは“傷くん”をMVに登場させてきた私。
今回も切迫流産で大変だったけど、それを逆手に取って新たな挑戦ができたんじゃないかなと思います。
やっぱりピンチを乗り越えてこその、きゃりーぱみゅぱみゅですからね〜。
なお、勘のいい人はこのライブで妊娠に気づいてたっぽいです。
でも、いきなりゆったりした服を着て、座ったままライブを始めたらそりゃバレバレかw
正式発表はこの1カ月後くらいにしました。
ほんとはもっと早くに皆さんにお伝えできたらよかったんですけど、こんなジェットコースターみたいな経緯があったのですっかり遅くなってしまいました。
それか、長〜い沈黙期間を経て…
リアーナとかビヨンセみたいに急にお腹がドーン!と大きくなって、ドーン!とステージに立つ!
…みたいな形での発表も一応考えてみたんですけどね。
でも出鼻をくじかれていきなり“体調不良”のニュースを出してしまったんで、それも叶わず。
いや〜、妊娠ってほんと思うようにいかないものです。
そんな十月十日の神秘体験、楽しんでいこうと思います。