書く、通う、見守る…
あなたはどんなとき、“美しい”と感じますか? |
#2 イラストレーター、コミック作家・カナイフユキ
SNSに飛び込んでくる大量のビジュアルやテキストに「いいね」と「やばい」と「スルー」のリアクションを反射的に返し続ける毎日。ふと思ったのは、「美しい」ってなんだろう? ということ。この言葉には何か別格というか、乱用してはならない崇高な気配すら漂う。知りたいのは辞書や教科書的な答えではなく、あの人やこの人がそれぞれの「美」について考えるプロセス。
第二回のゲストはイラストレーター、コミック作家のカナイフユキさん。普段使いのノートや馴染みの喫茶店など身近なところから、冬の秋田、初夏の広島と各地で感じた美について考えてくれた。
小学生の頃に連絡帳ってありませんでしたか? あれを書くのが楽しみだったのですが、今も変わらずになにかを書くことは好きです。日記というほどの頻度ではないけれど、一度書き始めるとしばらく机に向かい続けていますね。今は連絡帳からアップデートして(笑)、〈淡いの間〉の手帳を使っています。
こうして考えをメモする時間は贅沢だなと。なにかを書く時間があるということに贅沢さを感じるんです。ひとりの時間を持てることがポイントなのだと思います。そうした時間があることで、美しさを感じる余裕もできるというか。
昨年度末に行った、秋田のホテルでの1枚。すごくいい気分だったことを思い出す1枚でもあります。秋田公立美術大学大学院の卒業制作展のポスターをデザインしたんです。学校でのトークイベントに呼んでいただき、現地を訪れました。トークをして夜はオファーしてくれた学生のかたと夕食できりたんぽ。取ってくれたホテルの部屋は広々していて1人でゆったり過ごせました。オファーしてくれたことはもちろん嬉しかったし、現地での交流も含めてとてもいい思い出になりましたね。それにこの写真、改めて眺めると「カーテンを開いて〜」とユーミンの世界みたいで、実際の記憶よりも美しく感じます(笑)
喫茶店〈ルポーゼすぎ〉にはかれこれ6年ほど通っています。気取ってない、なんなら部屋着でも来れるくらい落ち着く場所で、もちろん食事も美味しいんです。当然このサインドイッチも何度も食べています。でも、これは思い出の一食。
昨年の夏頃、個展の準備がひと段落したときに食べにきたんです。ひと月ほどマラソンのように制作し続けていたので久しぶりのゆっくりした食事でした。改めて、好きなカフェで時間を気にせず過ごせる時間っていいなとしみじみ。開放感と喜びも手伝って、一層美しく見えた瞬間です。
初夏の広島を映した2枚。ひとつは大学のときの友人の結婚式で生口島に行き、その帰りのフェリーで撮ったもの。久しぶりで会えた友人もたくさんいて、しんみりした気分でした。
もうひとつは翌日に歩いた尾道で。そのレトロな街並みはもちろん美しい。それに『時をかける少女』をはじめとする大林宣彦監督の尾道三部作の街でもあって、なにか不思議なことが起こりそうな雰囲気も。祝祭的なムードに浸った2日間でしたね。
昨年、挿画を描いた絵本『ゼペット』が刊行されました。それを記念して刊行元の〈トワイライライト〉さんで原画展を開催した頃に、美しい瞬間がいくつもあったように思います。友人から花をもらったり、この直後に『ゼペット』をイメージした手作りの陶器の花瓶をもらったり。気持ちも込みで嬉しいですね。ちょっと話はずれるけれど、この2、3年、30代に入って少し経ったころから一層友達のありがたみを感じている気がします。わいわい集まるだけでない、大人同士のちょっと遠くから見守るくらいの距離感がかけがえのないものだなって。
原画展中にはお店で特別メニューのリンゴのタルトが出ました。〈ルポーゼすぎ〉同様、好きなお店でゆっくりお茶できるのは幸せなことですね。