柔らかい心が少しでも残っていれば、また、新しくチャレンジできる。 HANAKO PEOPLE story#8 吉岡 里帆

LEARN 2023.01.30

もうすぐ30歳を迎える俳優・吉岡里帆さんは、20代を締めくくるこの一年間を悔いなく走り切ると決めていたという。せわしないラストスパートの真っ最中ながら、彼女が挙げたキーワードからは、ユーモアに満ちた好奇心、そして飾らないありのままの日々が窺えた。

Keyword1:もちもち食感

このインタビューを受けるにあたって、まず考えたのは「今、私は何が好きなのかな?」でした。思い浮かんだのは、昔から大好きなグミや〈鈴懸〉のちっちゃいどら焼き、お餅……。“もちもち”しているものへの愛情がことさら強いことを再確認。好きな食べ物の共通項が、とにかく歯ごたえがあって、かつもちもちしているものだとこの年齢になってわかってきました。もちもちしているだけでこんなに幸せな気持ちにさせてくれるって、素晴らしい。好きすぎて、もはや“もちもち”の言葉さえも愛おしくて、絵本の『モチモチの木』も好きなんです(笑)。

その素晴らしさに開眼したのは、振り返ってみると小学生のときの餅つき大会。つきたての熱々のお餅を手でちぎって、そのままきな粉をまぶして好きなだけ食べていいという夢のようなイベントがあって、それが目覚めです。だから“蒸したて”“つきたて”っていうフレーズにすごく弱いんです。地元・京都にある今宮神社の参道にあるあぶり餅はソウルフードです。私事なんですけど京都観光大使に就任しまして、これをきっかけに、育った京都をまたちゃんと知りたい欲求が高まっています。上京してきているので、大人になってからは京都を探検できていないですし、今見る京都はまた多分違っているはず。オフも連休でとってマメに京都に帰りたいと思っています。もちもち系のスイーツもめっちゃ増えているらしいので楽しみです。

好きなものを言葉にしていると、例えばそれがグミであっても(笑)、“もちもち”が私のもとに押し寄せてくるという不思議な現象が起こるんです。自分が大人になってリサーチ力が上がっていることもあって、好きなものを的確に調べたり、短距離でたどり着けるようになってきました。自分の「好き」を自覚しながら生きていると、それをキャッチする五感が鋭くなる。比例するように幸せや充実感も高まるんですよね。

HANAKO PEOPLE 吉岡 里帆

Keyword2:絵を描く人

今のようにSNSが発達してよかったと実感するのは、イラストレーターさんや画家さん、その他アートに携わる人たちとの素敵な出会いが日々訪れること。それが生活の中での楽しみの一つです。もちろん一方的に作品を見るだけですけど、世の中にはこんなに素晴らしいアーティストさんがいらっしゃるんだ!と、毎日探すのが楽しみですし、そういう人たちの絵を見ているだけですごく満たされる。というのも、私自身は絵が全然得意じゃなくて、絵が描ける人への憧れやリスペクトがとてつもなく強いんです。来年発売する写真集では、好きなイラストレーターさんに実家で飼っている犬と猫たちのイラストを描いてもらったんです。特に公表はしていませんでしたが、去年から今年にかけてペットたちが立て続けに亡くなってしまって。年を重ねていくとペットたちとの別れもあるんだなと悲しみに暮れていたんですが、亡くなったペットたちがイラストとして存在してくれていることで今もそばに感じられる。絵によって救われる経験をしました。

来年30歳になるので、自分の誕生日プレゼントとして絵を2つ買いました。ひとつは大岡弘晃さんというアーティストの方で、その作品たちは、悩んでいたり、苦しんでいた過去の自分に、光を当ててあげるために描かれたものだそうで、友人から個展に誘われて見に行ったんですが、ビビっときてしまったんです。不思議なんですけど、絵から「わぁ、あったかい」と光やぬくもりを感じられたんです。「これが欲しい!」って一目ぼれでした。もう一点は、西山寛紀さんの作品。前からすごく好きなアーティストなんですが、偶然訪れた代官山のカフェで個展をされていたんです。絵はもちろんですが、やはりテーマに心が惹かれました。西山さんは日々の日常を全肯定する――。例えば、顔を洗う、水を飲む、音楽を聴くとか、誰にでもある何気ない日常をちゃんと捉える。そのときの私自身がすごく必要としてる感覚だったのかな? 心に響いたんです。
 
新しい出会いといえば、この前、台湾のアーティスト、ガオ・イェンさんをラジオのゲストにお迎えしました。台湾在住の女性なんですが、日本のカルチャーにリスペクトを持っている方で、高校生のときに、はっぴいえんどの『風をあつめて』を聴いて、細野晴臣さんを大好きになったそうです。それから日本語を頑張って勉強して、村上春樹さんの難解な小説を日本語のまま読めるくらいになって、村上春樹さんの小説の表紙を描くようになったり。そして、憧れの細野さんとも一緒にお仕事ができたそうです。彼女の“引き寄せ”の力を目の当たりにしつつ、でもその裏には日々の努力とか、一生懸命好きなものに近づこうとする情熱とか、いくつも積み重ねられた過程がある。その話を聞いて、改めて丁寧に努力していくこと、好きなものを好きと思い続ける力の大切さを痛感しました。私は絵を描く人から学ぶことがたくさんあるし、絵を購入するからには、その絵に込められた想いを大切に共有したい。絵を描く人のように、もし一番好きと思える世界観を具現化できたらどれだけ楽しいんだろう?と胸が高鳴る。小さい頃から絵が大好きだけど、それが年々高まっています。

Keyword3:植物

2022年は20代最後の一年。今までで一番仕事をしたと言える年にしようと決めていました。仕事への向き合い方も、より真摯に集中的に臨もうと徹底していった結果、やることだらけでパッツパツな毎日。お芝居以外のジャンルにも挑戦させてもらって、自分の仕事の全部が好きだ!と夢中で駆け抜けました。そして気づいたら、ここ数年ずっと大事に育てていたレモンの木に初めて実ができなかったんです。毎年、秋をすぎると緑色の実ができて、だんだんと黄色に色づいて、プリップリの実がたくさん収穫できていたのに、今年は一つもできていなくてショックを受けちゃって。そのカリカリに枯れ細っている木を見たとき、私の身代わりのように思えたんです。今年は体調を崩さずに、お仕事を乗り越えてきたので気づかなかっただけで、実は私自身もカラカラになってるのかもしれないと。「私たちを丁寧にお手入れするぐらいの休日は取ってね!」とレモンの木に言われた気がしました。京都に帰ったときに、家族ぐるみで仲良しの植木屋さんがいるので、そこのお父さんに「何とか元気にならないですか?」と木の写真を見せてみたんです。「この子、たぶん厳しいと思うよ」と言われたけど、「下の方に1枚だけ葉っぱがついてるんです」と伝えると、「枝を切ってごらん。もし、枝の真ん中に柔らかい芯がちょっとでも残ってたら可能性があるから」と。今まで育てた木を全部切って、またイチから育て直す方法を教えてもらいました。意を決してどんどん切っていくと、柔らかな芯がまだあったんです。そのときの私、レモンの木にめっちゃ感情移入していたんでしょうね。「どんなに疲れて、ダメだと思っても、柔らかな部分があれば、もう一回やり直すこともできるし、新しいチャレンジにも踏み出せる」。そんなメッセージ性を感じて、グッときちゃったんです(笑)。目前にした30歳に向けて、もう少し人生を丁寧に見直して、ギアチェンジをしていく時期なのかもしれない。それを植物が教えてくれた気がします。

吉岡さんの直筆サイン!
吉岡さんの直筆サイン!
吉岡さん衣装:ブラウス63,800円、ワンピース70,400円、ピアス40,700円(全てMame Kurogouchi|Mame Kurogouchi Basics https://www.mamekurogouchi.com/)/リング 太101,200円、リング ダイヤ154,000円、リング68,200円(全てSHIHARA|Shihara Lab 103-3486-1922)photo : Mariko Kobayashi styling : Hiromi Chiba hair & make : Ai Inuki (agee) text : Hazuki Nagamine

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