まだ見ぬパン屋さんへ。 小さいが個性的でハイセンス! 幡ヶ谷〈ケノヒパン〉&〈steppin’〉/池田浩明のまだ見ぬパン屋さんへ。
パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まだ見ぬパン屋さんへ。」を掲載。上原から北へと移り、小さいが個性的でハイセンスな店が次々とオープンする幡ヶ谷エリア。ワインバーやカフェ、そしてパン屋も注目店のオープンが続く。
1.〈ケノヒパン〉パリの味が東京でも。 商店街に活気を再び!
新宿・渋谷からほど近いエリアに、こんな昭和な商店街があったなんて。ゲートをくぐると、まるで定休日のように、シャッターを閉めた店がそこかしこ。そんな街を盛り上げようと、若いパン職人の夫妻が、閉店したパン屋の跡地に飛び込んだ。陳列棚にピザパンやホットドッグが並ぶありふれた街パン屋...おやっ? と思った。その横には、「ロデヴ」や、自家培養したルヴァン種で醸す「カンパーニュ」など本格的ハードパンがあったのだから。
13年間パリのブーランジュリーをたかし渡り歩いた鈴木崇志(たかし)さんと、惜しくも閉店した下町の名店〈ロワンモンターニュ〉で腕を磨いた鈴木美影(みかげ)さんが4月にオープンさせた店。
「ロデヴ」は、北海道産小麦「キタノカオリ」を高加水で仕込んだ平べったい食事パン。ぷるぷるの生地がじゅわーっと溶け、キタノカオリならではの華やかな甘さが広がる。「カンパーニュ」は、信州上田の〈なつみ農園〉の在来種、「黒小麦」を使用。そのおかげで、皮のロースト香が群を抜いている。美影さんが丹精込めたルヴァン種が発するすがすがしい酸味と、いいコンビネーションだ。
名物のチョコパンは、街の人みんなに食べてほしいと100円。取材の日も、小学生が百円玉を握り締めて買いにきていた。大人になって、子供の頃食べていた国産小麦・高加水生地のそのパンは、彼の深い部分に影響を与えずにはおかないだろう。おしゃれな街できらびやかな店を営む実力をもった人が、あえて〝ケ〞(日常)の街で、〝ケノヒノパン〞を焼くことの尊さを思う。
〈ケノヒパン〉について
〈ケノヒパン〉
住所:東京都中野区南台3-13-121 │地図
営:10:30〜18:00
休:木曜、水曜不定休
4月開店。パリと東京で経験を積んだ夫妻が、商店街で「ケノヒノパン」=日常のパンをリーズナブルに提供。
2.〈steppin'〉美しい形が目立つ、繊細なパンの数々。
2回目に訪れたとき、
「今日のクロワッサンはいい出来です。このまえ来られたときは、〝ほろっと感〞が出てなかったので」
と、店主の市村学びさんに言われたが、どこがちがうのかわからなかった。少し小ぶりで、いかにもざくざくとした鋭角なツノを持つこのクロワッサンはいつだって、〝すこぶる〞うつくしい。ざっくりと歯がよろこぶ砕け方をし、中身はまんじゅうを思わせるほどやわらかなもっちり感。ひとつのクロワッサンの中に、こんなにも異なる食感を両立させる腕は並大抵ではない。
他人には見えていないような細かいポイントまで見通しているからこそ、この食感が表現できるのだろう。たった人で、製造と販売を担う。パンと向かい合い、お客さんの顔を見てパンを手渡し、食べ方を説明する。それでやっと針の穴を通すようなピンポイントの感動が食べる人に伝わるというように。
壁にかけられた「古物商」の札。骨董を愛し、陳列に使用する家具や食器はすべてヴィンテージ。パンを見通すのと同じ繊細な視線で選ばれたものだ。この空気感、食感に再会したいばかりに、何度も足を運ぶことだろう。
〈steppin'〉について
〈ステッピン〉
住所:東京都渋谷区本町6-37-101│地図
営:8:00〜売り切れ次第閉店
休:水・木曜、ほか不定休あり
4月開店。裏通りの古民家で店主が1人で製造、接客。小麦の個性を生かしたパンと焼菓子を提供。
Navigator…池田浩明(いけだ・ひろあき)
「パンラボ」を主宰しながら、ブレッドギークとして、日本全国のパン屋さんを巡り情報を発信する。いち早く国産小麦にも注目し、日本のパンの未来をみつめる。
■パンラボblog:panlabo.jugem.jp