伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第19回

LEARN 2022.05.27

アイドルとしてはもちろん、ラジオパーソナリティとしても大活躍。乃木坂46の山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを、自由に綴ります。

(photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Tamago)

「誰かのための料理」

料理をしていると、食べている時よりも、作っている時の方が何かを味わっているんじゃないかと思う。食べるのが好きというよりは、食材の特性を学んだり、調理の手順を踏んでいくのが楽しい。

食材のおいしさが引き立つ組み合わせには全て理由があって、紐解くとロジックだらけで面白い。ほんの一手間で味や食感が変わるし、出来上がりにも違いがちゃんと表れる。たとえば、豚肉は刻んだキウイに漬け込むと、酵素の働きでやわらかくなる。ハンバーグのつなぎに砕いたお麩を使うと、肉汁をたっぷり吸い込んでジューシーに仕上がる。米の研ぎ汁で大根を下茹ですると、研ぎ汁の中のデンプンが大根のアクを吸着して、繊維の中に戻るのを防いでくれるので、甘みが増す。

外食先で食べる料理も、買ってきたお惣菜も、時間をかけて自分で作った料理も、等しくあっという間に食べ終わってしまう。でも、ひとつひとつの手順の意味を理解しながら作れば、ただ食べるだけでは得られない満足感につながると思う。一度聞いたらやってみたくなる豆知識は、世の中にはまだまだたくさん転がっている。それらを試して上手くいった時なんかは、学校の授業でやった科学実験を思い出して、ひとりでホクホクしている。

とはいえ、自分のためだけのごはんなんて、それっぽい味になれば正直なんでもいい。頻繁に自炊するようになったのは家計と健康に配慮して生きるためで、食費と塩分とカロリーを何となく気にしつつ、ちゃっと作って腹が膨れれば満足。スケジュールに余裕がある時に大量のおかずを作っておけば、冷蔵庫を開けた瞬間にただようわずかな匂いだけでも、ぐったりして帰ってきた日の安心材料になる。ちなみに、多少失敗しても、もったいないから食べる。

でも、人にごはんを作るとなったら、まるで話が変わってくる。創作意欲が俄然湧くのである。自画自賛みたいで気持ち悪いけれど、誰かのために作った料理というのは、自分で食べても段違いでおいしいと思う。相手が喜んでくれるかもって思ったら、下ごしらえが明らかに丁寧になるし、いつもと全然違うものを作れる。見た目も楽しめるようにと選んだお気に入りの食器に、一汁三菜を盛り付けて、一人メシの時にはまず出さないような可愛い箸置きも添える。おいしそうに食べてくれようものなら、完成度は何倍にもはね上がる。それくらい、一緒に食べる相手が喜んでいるかどうかは味に影響するから、結果として自分のためにもなっていて、それもまたうれしい。

25歳になる前日、我が家に母を招いた。私が仕事現場でいただいた特大のケーキを、一緒に食べませんかと誘ってみたのだ。思えば、何年も前に実家を出てから、私が母の手料理を食べる機会も、その逆も、パタッとなくなってしまった。「ちょうどごはん作ってあるから、それも軽く食べて〜」と追加連絡をして、スーパーに向かった。春キャベツを煮込みながら待つ時間はなんだかとても愛おしくて、母が作る「名もなき料理」の匂いを、記憶の中に探していた。

山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」
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