蓮と睡蓮の咲く池に誘われ地下の本堂へ。 建築を見ることを目的にお寺へ。安藤忠雄が手がけるお寺〈本福寺 水御堂〉

LEARN 2022.01.22

美術館を訪ねるような気持ちで、建築を見ることを目的にお寺へ。 その存在に感じ入る、建築ファンの間でも有名な名作をご紹介する。今回ご紹介するのは、安藤忠雄が手がけるお寺〈本福寺 水御堂〉を訪れました。

水御堂に通じる、2 枚のコンクリートの壁に挟まれ白い玉砂利が敷き詰められた空間は、聖と俗をつなぐ中間帯だという。先に何があるかまだ見ることはできず期待が膨らむ。
水御堂に通じる、2 枚のコンクリートの壁に挟まれ白い玉砂利が敷き詰められた空間は、聖と俗をつなぐ中間帯だという。先に何があるかまだ見ることはできず期待が膨らむ。

平安時代から続く大阪湾を一望する古刹の墓地を通り、茂みを抜けると、そこに突然現れるのはコンクリート造りの壁。中へ足を進めると次に姿を見せるのは池。まるで池に吸い込まれるように階段を下りていくと本堂が現れる。水をたたえ、蓮の花を咲かせる池が屋根となった本堂だから、その名は水御堂。

いかにも安藤建築らしいコンクリート造りの御堂が建てられたのは1991年のこと。現在、淡路島に安藤作品は3つあるが、ここが最初の作品だ。田畑に囲まれた、のどかな寺の本堂らしからぬ建物ができた経緯はこうだったという。本福寺の檀家の一人が三洋電機創業者の井植歳男さん。会社が大きくなったら寺を建て替えると約束するものの、果たせないままに亡くなってしまう。

あとを受けた息子の敏さんが安藤忠雄に相談したことをきっかけに、安藤が初めての寺院建築を手がけることとなった。もちろん屋根が池というユニークな建築は当初、住職をはじめ檀家全員の反対に遭ったが、敏さんの努力で実現に至ったというわけだ。コンクリートの無機質な外観から一転して、御堂は朱色の空間。寺院の内陣とは思えない、陽の光が降り注ぐ。西日を受けて輝き、光に浮かぶ薬師如来像を目にすれば、神々しさに心が震えるに違いない。

5~9月は次々と花の咲く池が屋根に。

〈本福寺 水御堂〉

屋根は 30×40mの楕円の池に。夏には約 2,000年前の地層から発見された大賀蓮と、色とりどりの睡蓮が花を咲かせる。池の中心にあるのが地下の本堂へ下りる階段。

一転して朱に染まる本堂と、囲む回廊。

〈本福寺 水御堂〉

地下に広がる本堂と回廊は朱色の空間。回廊の外は真西に設けられた光庭があり、西日が差し込む。御本尊の薬師如来像の背後はガラス張りになっており、内陣まで陽が入る。

Profile…安藤忠雄(あんどう・ただお)

1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、1969 年安藤忠雄建築研究所設立。代表作に「光の教会」「ピューリッツァー美術館」「地中美術館」などがある。1997年から東京大学教授、現在、名誉教授。

〈本福寺 水御堂〉

〈本福寺 水御堂〉

京都の真言宗御室派総本山仁和寺の末寺として平安後期に創建された真言密教の寺院。水御堂は 1991年の竣工。
■兵庫県淡路市浦 1310
■0799-74-3624
■9:00~17:00
■400円

(Hanako1204号掲載/photo : Yoshiko Watanabe, Shinnosuke Yoshimori text : Mako Yamato, Yuko Watari)

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