伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第6回

LEARN 2021.10.15

アイドルとしてはもちろん、ラジオパーソナリティとしても大活躍。乃木坂46の山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを、自由に綴ります。

(photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Kiwa Inaba)

山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」

「大人版・夏休みの自由研究【中編】」

そういえば、とあるモデルさんが休日に陶芸のワークショップに参加しているのを、Instagramで数日前に見かけた。いかにも丁寧そうな暮らしに憧れて調べてみると、工房は都内の駅から歩いて10分もかからない、アクセスの良い場所に立地していた。陶芸体験ができるのは温泉地や旅行先、というイメージがあったので、身近にできるところがあるなんて知らなかった。そこでせっかくの休みを丁寧に過ごすべく、すぐに工房のホームページを開いて予約を取り、ろくろを挽くことに決めた。

ろくろを「回す」ではなく「挽く」と言うだけで手軽な玄人感が手に入りそうだが、決定的にプロと違うのは、私は作った物には興味がないということだ。かつて旅先でも陶芸教室を訪れたことがあるが、焼き上がった器が家に届いたときも、ろくろを挽いているときほど高揚が持続しなかった。観る番組に密着型が多い「ドキュメンタリーオタク」としては、地位や名声といった結果よりも、そこに至るまでの経緯に関心がある。相手が器であろうと惹かれるポイントに変わりはないので、創作に興味があっても自分が作った物を自分で使ったり眺めたりすることには意味を感じられなかった。結局何を作るか全く思いつかないまま、ワークショップ当日になってしまった。

最寄り駅に着くと、母から「もうすぐ敬老の日だけど、どうするの〜?」というLINEが届いた。誰からも好かれる母は、誰よりも礼節を重んじる。近しい人の誕生日や記念日にはよく贈り物をするし、お世話になっている人に会う前には必ず近所の洋菓子店に立ち寄って、クッキーやサブレなどの詰め合わせを買っていた。それを手渡すところまでの一部始終を私は近くで見て育っているはずなのに、全然いらないものをあげてしまったら迷惑だろうか、相手も気を遣ってしまわないだろうかと人様へのプレゼントに躊躇してしまう。そんなことに悩んでいるうちに仕事に追われて渡すべき日に間に合わなくなるよりは、当たり障りのない物でもちゃんと当日までに渡したほうが気持ちがいいのに。

改めて「敬老の日 プレゼント」と検索してみたところで、父の誕生日のほうが早くやってくるのを思い出してますます焦った。とはいえ、こんなタイミングでろくろを挽くこともないだろうからと、両親へ夫婦茶碗を作ることにした。親孝行に聞こえるけれど、もちろん誕生日プレゼントはまだ買っていなかったし、これから参加するワークショップで作りたい物も思いつかなかったという不純な動機であることを、ここにお詫びしたい。
いいから早く作れよ、という読者の声が聞こえてきそうなので、時を進める。実は私も書きながらそう思っていた。文字に起こすと改めて自覚するが、やっぱり日頃から一つの物事に対してあれこれ考えすぎなのだ。

工房に着くやいなや、壁一面の飾り棚が目に入った。人の気配がなかったのでとりあえず辺りを眺めていると、変わった形ばかりが並んでいることに気づいた。ひょうたんのような形をした一輪挿し、草間彌生を彷彿とさせる水玉模様の花瓶、モチーフがよくわからないオブジェ……こんなにも独創性に満ちあふれた作品に囲まれていながら「お茶碗を作りたくて」とベタなことを言ったら、先生にガッカリされないだろうか。私が何を作ろうとしても先生はプロとしてちゃんと教えてくれるだろう。でも、せめて申し込みフォームの「経験あり/初心者」の欄は、嘘をついてもいいから「初心者」に丸をつけるべきだったかもしれない。

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