夏子の大冒険 〜ちいさな美術館を巡る旅〜 縄文時代へタイムスリップ!埋蔵文化財調査センターへ。「なんで、なんで、なんで」編
ちいさな美術館を巡って、作品から思いを馳せるこちらの連載。第8回目の舞台は、多摩ニュータウンにある964ヶ所の遺跡から発見された出土品を展示している〈東京都立埋蔵文化財調査センター〉。隣接する遺跡庭園「縄文の村」を歩けば、気分はすっかり縄文人に。
縄文時代に身をおいて。
多摩センター駅に降り立つと、商業施設が立ち並び、買い物も食事も、映画を観ることだってできる、なんとも便利で清潔な街が広がっています。小さい子どもが駆け回り、ベビーカーを押すお母さんたちが井戸端会議をする、そんな微笑ましい街を背に歩くこと5分。そこには鬱蒼とした緑が広がる「縄文の村」が現れるのです。タイムスリップしたかのような空間に身をおいた時、私の中で沸々と込み上げる疑問たちのことを思い出しました。
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「なんで、なんで、なんで」
「なんで?」は突然やってくる。朝、手に持ったパンを見て、なんでこれを食べるんだっけ? 鏡に映った服を見て、なんでこれを着ているんだっけ? そもそもなんでこんな服持っているんだっけ? 私の「なんで?」はまだまだ続いていく。
携帯を眺めながら、大きなスピーカーを買いそうになる。部屋に3つもスピーカーがあるのに、なんで新しく買うんだっけ? 劇場に芝居を観に行く。舞台ってなんで誕生したんだろう? 人は何を求めて劇をつくり、舞台に立ち、それを観に集まったんだろう? 人間ってなんだっけ?
そんな私の「なんで?」に対する答えはあらかた、歴史の教科書の冒頭5ページくらいに集約されている。縄文時代。そこには、「なんで?」の始まりが書いてある。
初めて見た土器は美しかった。人間が生きるためだけにつくられたようだった。生きるために、食物を煮て、貯蔵するためにつくられた器だった。その模様は、機能と神事のために装飾したに違いないが、物凄い生命力を持って、生きるために表現されている。
土器を作った人たちは、その土器が役目を終えた時、神様にお返ししていたそうだ。大地から受け取ったものは、大地に返す。「なんで?」の隙間も見つからない。
ありあまる富に囲まれて暮らしていると、時々意味を見失ってしまう。「なんで?」が溢れて身動きが取れなくなった時、「生きるために行動すればいいんだ」と、縄文時代の土器たちは教えてくれていたのかもしれない。
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今回訪れたのは…〈東京都立埋蔵文化財調査センター〉
この連載で訪れた〈岡本太郎記念館〉をきっかけに、もっと知りたいと思ったのが縄文時代でした。竪穴式住居や土器などの美しさに触れる度、「縄文時代って “美術” なんだ!」と気づかされます。部屋に飾っている土偶のレプリカたちが今日もひっそり、「なんで?」にがんじがらめになった私を見守ってくれています。
〈東京都立埋蔵文化財調査センター〉
■東京都多摩市落合1丁目14-2
■042-373-5296
■無休
■9:30~17:00
■無料