ハナコラボSDGsレポート 廃棄されるはずだった野菜などを染料に。ファッション業界から「食品ロス問題」の解決に挑む〈FOOD TEXTILE〉 SUSTAINABLE 2021.07.26

ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第35回は、ライターとして活躍する五月女菜穂さんが、ファッション業界から食品廃棄物を再活用するプロジェクト〈FOOD TEXTILE(フード・テキスタイル)〉を取材しました。

年間約632万トンともいわれる日本の「食品ロス」問題を、ファッション業界から取り組むプロジェクトがあります。カット野菜の切れ端やコーヒーの出し殻など、本来は廃棄されるはずの食品残渣を染料として活用する〈FOOD TEXTILE〉。仕掛け人である豊島株式会社、残渣を提供する国内の食品関連企業・農園、そして染め上げた生地を商品化するファッションブランドの3つがプレイヤーとして成り立っているプロジェクトです。
どのような想いで事業を始められたのか。豊島株式会社の社員で〈FOOD TEXTILE〉のプロジェクトリーダーである谷村佳宏さんにお話を伺いました。

SDGs 五月女さん

ーーまず、〈FOOD TEXTILE〉が始まった経緯を教えてください。

「私が勤める〈豊島株式会社〉は、1841年に綿花商として創業し、現在では世界各地から繊維原料の買付・販売や、アパレル製品の企画や納品などを行う繊維商社です。〈FOOD TEXTILE〉は、2015年2月に社内の新規プロジェクトのような形で始まりました。繊維業界ではよくあることなのですが、弊社は独立採算制をとっているので、1つの課が1つの会社のような働き方をしているんですね。〈FOOD TEXTILE〉もその1つとして立ち上がりました」。

ーー谷村さんはプロジェクト開始当初から携わっているのですか?

「そうですね。発起人という立ち位置です」。

ーー現状、〈豊島株式会社〉内でコアで動いてらっしゃるのは谷村さんだけなのですか?

「いえ、私以外に3、4人がメンバーとして働いてくれています。ただ、みんな兼任なんです。私もメンズのカジュアルブランドの担当をしています」。

〈FOOD TEXTILE〉プロジェクトリーダーの谷村佳宏さん。
〈FOOD TEXTILE〉プロジェクトリーダーの谷村佳宏さん。

ーーなんと、兼任されていたのですね!改めて〈FOOD TEXTILE〉の構想はどうたどり着いたのか、伺いたいです。

「繊維業界やファッション業界はすごく華やかな業界と思われるのですが、意外とアナログですし、閉鎖的なところもある業界で。トレンドに流されて、今日売れたものでも来年は売れなかったり、どんどん新しいものを出していかないといけなかったり。プロジェクトを始める少し前くらいから、その流れの早さは本当に重要なことなのか、何か業界を変えたいなという思いが芽生えていました。
それに、個人的な話ですけど、それまで『時間=売上』で、やればやる分だけ売上も取れたので、非常に夜遅くまで仕事をしていました。でも、時を同じくして子どもが生まれて、このままの働き方でいいのだろうかと疑問を感じていたこともあります」。

ーー業界としての閉塞感を変えたいと思うのと同時に、ご自身の働き方改革の必要性も感じられていたわけですね。立ち上げの当初の2015年は、今ほどSDGsの関心は高くなかったのではないかなと思うのですが。

「弊社は、サステナビリティに対していち早く反応していた会社だとは思いますが、現場としては『当たり前』というか、これからの時代には絶対に必要な観点だろうという感覚はありました」。

SDGs 五月女さん

ーーそうなんですね。食品業界とコラボレーションするというのはどのような発想から生まれたのですか?業界とのつながりは元々お持ちだったのですか?

「異業種交流会で、〈キユーピー〉さんと出会ったことが大きかったと思います。食品業界で困っていることといえば、フードロス。〈キユーピー〉さんも社内で『未利用部分をどう活用するか』ということを真剣に考えられていたタイミングでした。『衣・食・住』という言葉があるように、我々ファッション業界の『衣』と『食』品業界がコラボレーションすれば、きっと社会的なインパクトも与えられる活動になるのではないかと考えました。
〈キユーピー〉さんのほか、〈カゴメ〉さんや〈タリーズコーヒー〉さん、それから農園など、今では15社を超える企業とお取引しています」。

SDGs 五月女さん

ーープロジェクトを進めるにあたり、一番苦労した点は何ですか?

「僕らの一番の販路はファッションブランドを持っているアパレルなのですが、〈FOOD TEXTILE〉のコンセプトをプレゼンした時に『なぜキャベツで染めたTシャツを着なくてはいけないの?』と言われたんです。いや、その通りだなと(笑)。当時は社会的にサステナビリティもSDGsも当たり前でもなかったという背景もありましたし、コストを倍にしてでも、そのTシャツを売る価値があるのかどうか。そこを伝えることに苦労しました」。

ーーコスト面で言うと、やはり化学染料で染めた方が断然安く抑えられるのですか?

「そうなんです。残渣を回収して染める天然染色は手間がかかってしまいますし、日本でしか染色できないので。製品で言うと、約1.5倍〜2倍ぐらいの価格差になると思います」。

ーー日本でしか染色できないというのはどういうことですか?

「食材から成分を抽出して、染料を製造して、染色するという方法で特許をとっているんです。元々、弊社とお付き合いのあった企業が、天然物から天然染料を生み出す技術をお持ちだったんですね。その技術力を守りたいという思いもあって」。

SDGs 五月女さん

ーーなるほど。ネットワークを駆使して、ビジネスを掛け算していく商社ならではの発想かもしれないですね。ちなみに今、展開している色はどれぐらいあるのですか?

「50食品以上で500色以上ほどあります」。

ーー500色も!

「1つの食品でも部分によっていろいろな色が出るんです。例えば、赤かぶ。赤かぶの部位によって、赤かぶ本来の紫色が出たり、ちょっと青みがかったグレーが出たり、ブルーが出たり。おもしろいですよね。また、天然染料でありながら、色落ちしにくく、長く使用できるところも〈FOOD TEXTILE〉ならではの特徴だと思います」。

ーープロジェクトを始められてから、どんな反響がありましたか?

「最初は見向きもされなかったのですが、2、3年前くらいからメディアにも注目していただいて。そして〈CONVERSE〉さんのような大手ファッションブランドに〈FOOD TEXTILE〉の生地を採用いただいたことで、さらに色々とお声をかけていただくようになりました」。

SDGs 五月女さん

ーー〈FOOD TEXTILE〉の今後の展望を教えてください。

「1つ目は、海外展開に力を入れたいと思っています。実はプロジェクトを立ち上げて間もない2016年2月に上海の海外展示会に出店するなど初期から動き出していて。特に2019年のパリでは非常に好感触で案件も決まりかけていたのですが、コロナのパンデミックの時期と重なってしまって。これからラグジュアリーブランドにアプローチしていきたいと思います」。

ーーその海外展開というのは、海外の食品残渣を現地で染め上げるということですか?

「いいえ。あくまで日本の食品残渣を使って、日本で染め上げた生地や製品を海外へ輸出するということです。環境対策で先行する欧州への輸出・販売の条件に適合できるよう、廃棄されていた残渣であっても徹底した管理をしています。どのような流通工程を経たのか、原料から追跡ができるようにしているんです」。

ーー徹底されていますね!

「はい。2つ目は、ファッションだけではなくライフスタイルの領域にも事業を広げていくこと。カーテンや布団カバー、壁紙といったインテリアに活用して『衣・食・住』の分野をすべて抑えた商品展開をしていきたいと思っています。
そして、3つ目。これは少し先の話になると思いますが、現在のようなBtoBのビジネスだけではなく、直接消費者に販売をしていくビジネスモデルを構築していきたいです」。

〈FOOD TEXTILE〉

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