花井悠希の朝パン日誌 旅の1ページに訪れたい。三重〈山の下のパン屋〉のパンをテイクアウト
私の地元・三重県のパン屋さんはこれまでも何軒か紹介してきましたが、また一つお届けしたいパン屋さんに出会いました。素敵なお店に出会うとついつい全国の皆さんにお伝えしたくなっちゃうのは地元民の性。ましてや幼少期を過ごした「いなべ市」で、緑豊かで長閑な自然と共生するように存在するパン屋さんと出会ったのならなおさらです。
ニワトリとヤギとパンと。
そのお店の名前は〈山の下のパン屋〉。鈴鹿山脈の麓にある〈MY HOUSE〉さんの中で営業されています。〈MY HOUSE〉は「雑貨カフェ」「自然学校「野生鳥獣肉販売」「Work Shop」を手掛けるなど面白い試みを沢山していらっしゃる地元で話題のお店。
細い道を抜け車でお店に着くと、まず驚くのが絶景に加えてあちらこちらにいるヤギやニワトリ達!風の音に加えて聞こえるのは木の葉が揺れる音と、威勢よく声を上げるニワトリの合唱!予想よりもハリのある声量に少々びっくりします。賑やか!ヤギはヤギで、手で触れられる距離まで近づいてもマイペースに草を食んでいるんだから、もうこちらの目尻は下がりっぱなし。
パンのメニューは「パン・ペイザン」のみ!〈MY HOUSE〉でランチもしたので、パン・ペイザンと2ショットが撮れました。顔よりもずっと大きなお食事パン。プレーンとクルミ&レーズンを購入です。
ピチピチピチ。そう活きのいい音をたてクラストがパリリンと割れます。NOTバリリン。まるでパイのように薄く軽く、涼しい顔をして割れるのです。その先に訪れる内側は、もっちりとした引きで触れ方は柔らかく、柔軟に揺れてこちらを楽しませてくれます。
恵みの雨のように口内に染み渡る塩味、呼び水のようにそこから引き出される小麦の甘み。決してひけらかすことはなく、豊かに包む全粒粉の風味と香ばしい香り。その全てをちゃんとこちらが感じ取れるペースを見守ってくれているかのように深まっていく味わいや食感の移ろいに、身を委ねたくなってしまいます。歩幅が同じなんです。パンと私の無理をしない関係。こんな人(←パンね)と生涯を共にしたい(どうした)。
歯切れ良く聞き分けがいい子。皮からも内側からも隠せないほど、小麦が“ぶほぁ”と芳ばしく香るのに、決して雄々しく逞しさを感じさせるわけではないんです。むしろ小麦って甘いんだって開眼するほど、甘やかな風味と香りが広がってうっとりとしてしまいます。目を閉じて味わってほしい。そしてぜひ大自然の景色を頭の中で合成して食べてみてほしいです(妄想力が試されます)。
焼けばさらにピチピチピチ、ピキピキと軽やかな音を立てるクラスト。パイのようにパリパリと軽い食感はこちらもです。その先へと進むと、内側はこんなに水分を蓄えていたのね!って感心してしまうほど、にゅーっと伸び、もちもち、ひたひた。そこにホクホクのクルミが参上!これクルミだったっけ?って目視で確認したくなる程、じゃがいもみたいなほっくりとした食感で現れます。でも噛めばその香ばしさは間違いなくクルミ。レーズンの味わいは透き通り、みずみずしい。合わせるバターも雑味のないクリーンな味わいのものを選びたくなります。新潟の「佐渡バター」とかよく合いそう。
ぽこぽことあいた気泡にクルミや小麦、レーズンの香りが閉じ込められていたと思うと、この一つ一つの気泡さえも愛おしく思えてくるんだなぁ。気泡に愛しさを感じられるようになったら、またひとつ新しいステージ(何の?)に上がった気がするのは私だけでしょうか?
近くに駅はないしアクセスは悪くても、この雄大なロケーションも含めてぜひ味わってほしいお店。お店へ伺った後は裏山を散策したり、ヤギと意思疎通を図ったり、辺りを散歩したりするのも楽しいです。動きやすい服装で時間にゆとりを持ってお出かけするのをおすすめします。とは言っても、なかなかハードルは高め。インスタグラムではしばしばパンの発送の募集もしていらっしゃるので、気になる方はそちらのチャンスを伺うのも!