ROUND TABLE OF ART 【アートの円卓】『バチェロレッテ・ジャパン』の杉ちゃんの絵を観に行こう!/杉田陽平 個展『眩しい煌めきと色彩の言葉達』
毎回、編集の大池明日香さんがアーティストと会って作品のことなど四方山話をします。本誌連載『アートの円卓』よりお届け。
本日のアーティスト…杉田陽平(すぎた・ようへい)
1983年生まれ。武蔵野美術大学在学中から受賞を重ね、画家活動に専念。2020年、Amazon primeの婚活リアリティ番組『バチェロレッテ・ジャパン』への参加で話題。
大池:ミニ四駆が原点で、ものづくりの世界に広がったと聞きました。
杉田:絵ではなく、工作の方が先でしたね。普通は、お絵描きが上手だったり手先が器用で、プラモデルが好きになるという順番だと思うんですが、僕は逆で、ミニ四駆を買ってもらってコースを作って競争したり、勝つために工夫するようになってから、手先が器用になって、絵を描き始めたんです。
大池:しかも、ミニ四駆ジャパンカップで準優勝するほどの、本気のハマり方だったとか。
杉田:そうですね。小学校低学年の時に『爆走兄弟レッツ&ゴー!! 』というアニメがあって流行ったんですけど、2〜3年でブーム自体は去ったんです。というのも、お金と技術力を持った大人が上位に入賞してくるようになって、子どもが飽きてしまって。そんななか、自分は子どもならではの工夫やアイデアで、大人に混じって同等に戦うことができたんですよね。
だから今でも、小さな国で他国のビッグマネーに対してどれだけ対抗できるのか、どうやって欧米のアートに抗えるかを考えた時に、アイデアひとつで戦えるんじゃないかなと思っています。むしろ、コンディションが悪いからこそ生きるアイデアもあるし、そうして努力して成し得ればすごく充実したものになる。ミニ四駆と同じことを、アートでもやっているんだと思います。
大池:美大に入って、どのように自分の表現を見つけましたか?
杉田:未だに自分の表現を見つけようと、右往左往している感じなんですよね。美大で絵の授業中にふと、1ヶ月かけてがんばって描いた作品よりも、無造作に置かれたパレットの方が綺麗だということに気付いてしまって。無意識に置かれた色やかたちが、どうして美しいんだろうと。もしかしたら、自分の無自覚さみたいなものが、実は本当の魅力なんじゃないだろうかと疑い始めました。
そこから、アトリエに転がっている、自分がアートだと思いもしなかった何気ないものが、もしかしたらアートの原点だったりモチーフなのではないかと、パレットに付いた絵の具を剥がしてコラージュしたり、布状にして巻きつけたり、みんなが捨ててしまうような絵の具の残骸を作品化するようになりました。
大池:それは発見だったと同時に、すごい挫折でもありますよね。そこからアーティストを目指したきっかけはありましたか?
杉田:そんなに高尚な目標はなくて。単に働きたくなくて、できれば自分が興味のあることで暮らしていきたかったんですね。作家さんって、有名なギャラリストやメガコレクターに見初められて高額作家になるなど、シンデレラストーリーの人も多いんですが、僕はコンペ上がりの作家なので、そういうのが全くないんです。どうしたらお客さんが感動してくれるのか、とにかくひたむきにトライ&エラーを重ねた。
そこでも、ミニ四駆で技術力もお金もない時に工夫してきた経験が生きるんですよね。ブログに展覧会に向けての気持ちや日常のことを書いたり、お客さんや気になってくれている人たちと共有して生きてきたことが、積み上げられてきて今があるんだと思います。
大池:絵の具やキャンバスの概念を超えるようなシリーズの一方で、すごくオーソドックスな絵画があったり、抽象画があったり、それぞれで表現したいことは違いますか?
杉田:キーワードは“遊び心”と言っていて、面白いなと思ったら作品化してみる、自分には美しく見えて仕方がないものを世に出していく、大いなる実験なんですよね。いくつかラインはありますが、気持ちとしては遊園地を作っているようなイメージ。ジェットコースターだけでなくパレードがあったり、夜は違う景色が見られたり、いつ行っても新鮮でどんなことができるのかなぁという感じで。
メリーゴーランドをつくって有名になったら、メリーゴーランドしかつくらない人も多いですが、僕の中では自分の世界を表現するために全部必要なものです。
共通しているのは、絵の具の美しさを見てみたいということですね。そもそもの絵の具だけで美しいというのは、すごいことなんだと言いたいんです。
大池:ピュアにものづくりを楽しんでいるのが伝わってきます。
杉田:絵画の始まりには諸説ありますが、僕が好きなのが、ギリシャ時代に夫婦が洞窟でご飯を食べていて、旦那さんが明日戦争だからと出て行こうとするというもの。戦士だから止められないけれど行って欲しくなくて、火に映る旦那さんの影を枝で写したのが起源と言われているんです。そもそも絵画は愛のかたちであって、発明で、最初はこれが絵画になろうとも、美しいものでもなかったと思うんですよね。そういう、すごく個人的なひとつの行為だった。
だから、自分自身も初心を忘れず、いつも白紙のまっさらな状態から決めつけずに取り組みたいと思っています。そもそもなぜキャンバスなのか、どうして絵の具である必要があるのか、いつもいろいろなことを疑いながらつくっています。未知なる絵画がたぶん、残っていくべき作品で、そうなると、こういう作風になるんですよね。
大池:『バチェロレッテ・ジャパン』に参加して、人生変わりましたか?
杉田:『バチェロレッテ・ジャパン』に出る前は、彼女や誰かのために作品を描いてプレゼントすることなんてありませんでした。だって、喜ばれないと思ってるから。元にブランド物の方がいいって言われたこともあったし。誇りがないわけじゃなかったけど、遠慮がちに生きてたんですよね。だけど、僕が番組に出たことで感動してくれて、それがきっかけになってアート作品を買ってくれる人も増えて。芸術家って社会にとって魅力的な存在なんだなと、初めて気付かされました。
『バチェロレッテ・ジャパン』は結婚相手を見つけに行くリアリティショーだから、自分を演じることなく、本音で向き合うしかない。自分は破天荒でもアヴァンギャルドでもなく、コツコツ型で真面目なタイプなので、普段通り真剣に語ったところでめちゃめちゃつまらない。そんなでいいのかなと思いながら自然にやったら、相手も素敵だったので、それがたまたま注目された。それまで、つまらないと思っていた自分の振る舞いや、どこに行ってもなんだか浮いていて、どの飲み会でも誰も話をあまり聞いてもらえないような感じだったのが、番組に出てからみんなすごく僕の話を聞いてくれる。だから全く変わりましたよね。
大池:アーティストとしての心境の変化などはありましたか?
杉田:世の中の画家や芸術家のイメージって、大変そうとか、先行き不安とかで、例えば、野球選手やお医者さんを見る目とは違うと思うんですよ。そういう社会的なイメージを変えたいですね。展覧会にもなるべく自分が行って、自分の言葉で伝えて、ひとつでも多くの種を撒くことで、アートを好きになってもらいたい。アーティストが夢を見られるようにしたいですね。
大池:〈大丸東京〉での展示は、どのようなものになりそうですか?
杉田:新作3点と活動の一端を掲示する7月のプレ展示からスタートして、8月に作品を増やして個展をすることになりました。全部新作です。いつも個展の際などにお客さんやファンの方にいろいろいただくんですが、最近は食べ物やお酒ではなく絵の具をくださいと言っていて。今回の作品は、その絵の具で描いたものなんです。みなさんからいただいた見えない感謝を、僕が普段は買わないような色も使って描いていますので、ぜひ注目してください!
杉田陽平 個展 『眩しい煌めきと色彩の言葉達』
7月7日から13日まで、〈大丸東京〉1階イベントスペースで3点のみのプレ展示の後、11階催事場で8月4日から10日まで、約10点の新作を展示。
■東京都千代田区丸の内1-9-1
■03-3212-8011
■10:00〜21:00 無休
Navigator…大池明日香(おおち・あすか)
編集・執筆・展示など。東京の東と、酒が好き。編集を担当したタナカカツキ著『新・水草水槽のせかい』が発売中。