復興のその先へ。 クリエイティブディレクター・箭内道彦さんが思う、復興のこと。『約束したのは、広告と音楽の力で一生支え続けること。』

LEARN 2021.03.20

故郷の危機をきっかけに行動を起こした人、チャリティ活動をする人。全員に共通するのは、“ずっと続けていく”という気持ちでした。今回ご紹介するのは、クリエイティブディレクター・箭内道彦さん。福島への愛を込めた歌にはじまり、復興イベントや農産物のPR活動など、さまざまな形で故郷を支援している箭内道彦さん。長年磨いたクリエイティブの力を携え、10年ともに歩み続けてきました。

「外からの“発見力”も復興のパワーになる」

箭内道彦さん

故郷が震災に遭って、最初はとても動揺しました。駆け付けようとして「今来られても困る」と言われ、寄付をするために銀行に1億円借りに行って断られ。そんな時、一緒に猪苗代湖ズというバンドを組む山口くん(サンボマスター・山口隆)が言ったんです。「あの歌がある」と。それが「I love you & I need you ふくしま」です。震災の半年前からロックフェスで歌っていたこの歌をすぐにレコーディングして3月20日に配信リリース。ジャケットを作ってCD化して、メディアで取り上げてもらえる仕組みをあれこれ考えて。支援としてはこれが最初の活動。売り上げは全額福島に寄付しました。

僕は約束が大嫌いですが、震災直後、県民へのメッセージを地元のテレビ局から求められて「一生支援します」と言いました。原発事故もあり、先がまったく見えない時に、ささやかでも約束することに意味があると思ったからです。「故郷への恩返し」とかではなく、単純に自分の大切な人たちを笑顔にするにはどうしたらいいか、その思いだけで10年やってきました。必要なことや足りないことを地元の人に直接聞き、補う仕組みや表現を考えて、またみんなの声を聞いて軌道修正していく。その繰り返しですね。

福島県のクリエイティブディレクターになってからは、行政と県民の間に立って双方の力を重ね、光と影の両面がある“福島のいま”を丁寧に発信する取り組みに力を入れています。いつも頭にあるのは、その時々にできることより、もう少し無理をすること。復興はマイナスからの出発も多いからこそ、普通なら無理だろうというレベルのことを実現していく「オーバークオリティのスーパークリエイティブ」が欠かせないと思っています。そして、外の力も重要です。例えば、外から来た人が「これおいしい!」「これカッコいい!」と、魅力を発見してくれることが現地の大きなパワーになるんです。その町に興味を持ち、実際に足を運んでみる。そうした気楽な関わりでも、復興に貢献できるはずだと思います。

【箭内道彦さんの活動】

箭内道彦さん

震災の半年後に県内6カ所で開いた「LIVE福島」は、絶対無理と言われるなか実現。「みんなで泣きながら歌って笑って。ひとつになる力を実感しました」

箭内道彦さん

清野菜名さんや福島県民が出演するショートミュージカルムービー『MIRAI 2061』を制作。「原発が廃炉になった50年後の未来を、期待を込めて描きました」

箭内道彦さん

クリエイティブディレクターとして監修する県の公式ポスター。「実際に来てもらって感じることは確実にあるので、このシリーズは何年も続けています」

Profile…箭内道彦(やない・みちひこ)

福島県郡山市出身。リクルート『ゼクシィ』などの広告を数多く制作、『月刊 風とロック』の発行も手がける。2015年には福島県のクリエイティブディレクターに就任。同郷のミュージシャンと結成した「猪苗代湖ズ」のギタリストとしても活動する。

(Hanako1194号掲載/text : Asami Kumasaka)

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