”死者の書”や猫の神様…神田伯山ならこう見るね! 『古代エジプト展』の面白がり方、神田伯山が教えます!
ベルリン国立博物館群のエジプト・コレクションの名品を紹介する「国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話」(以下、「古代エジプト展」)が11月21日より〈江戸東京博物館〉でいよいよ開催。その見所は? 東京展のオフィシャルサポーターを務め、「最もチケットが取れない講談師」として話題の六代目・神田伯山さんにインタビュー!
〈江戸東京博物館〉で開催される「古代エジプト展」では、長さ4メートルを超える『タレメチュエンバステトの「死者の書」』や装飾が美しい「タイレトカプの人型木棺(外棺)」など100点以上が日本初公開される。
古代エジプトでは、王に仕えた神官たちがエジプトの歴史を文字に記して残し、また、永遠に存在し続けるために遺体をミイラにして残してきた。一方で、500年以上前に日本で生まれた伝統話芸・講談を後世に残すため活動を続ける神田伯山さん。”残す”ということに対する意識、講談人気を復活させた自身の活動との共通点なども聞かせてもらった。
古代エジプトと日本、実は似てる!?
Q.日本の歴史物を語り伝える神田伯山さんが「古代エジプト展」のオフィシャルサポーターを務めると聞いて意外な組み合わせだなと少々驚きました。引き受けた理由をぜひ教えてください。
「単純におもしろそうだと思ったんですね。古代エジプトのことは正直あまり知らなかったけれど、これを機に興味を持っていろいろ調べてみようと。それで好きになれたらいいなと思って。それが引き受けた素直な理由です」
Q.実際に調べてみて、伯山さんが感じた古代エジプトの魅力はなんでしょうか?
「まず一つは、神様に対する考え方。古代エジプトではさまざまな神が信仰されていた。“八百万の神”の概念を持つ日本ととても近しいと思いました。たとえば、古代エジプトには猫の神様がいると信じられていて、動物の神様に親しんでいる日本人の感覚に通じるものがあるなと。ちなみに猫の神様はかわいいので、ぜひHanako読者に観てほしいですね」
「二つ目は文字を作ったこと。文字がないとやっぱり伝わらないんですよね、後世に。そういうところは講談に似ていると思いました。私たちは文字があるからこそ、昔のことを知ることができる。古代エジプトの人たちが思っていたことを、絵だけではなくて、文字で残し、言葉として受け取れるというのは偉大だなと思います。
そして、三つ目は死生観。古代エジプトの文化には当時の死生観が如実に出てるんですよ。今回は4mぐらいの長さの《死者の書》が展示されています。死者の書とは、死後の世界に行くためのガイドブックのようなもので、当時のエジプトの人々は脳ではなく、心臓で物事を考えると信じられていた。そういう興味深いことも書かれている。そして、死んだとき、心臓と女神・マアトの羽根を天秤にかけて、心臓が羽より重いと二度と転生できなくなると信じられていた。昔はそうやって死を受け入れていたんだなと思うと興味深いですね。
死者の書が作られたということは、死そのものに対する恐怖があるからだと思います。今を生きる人にとっても死は当然怖いし、避けられないものです。だから、死に対する恐怖は古代エジプト人とほとんど違わないと思いました。人って数千年前も今もそんなに変わってないんだと思ったらなんだか気持ちが楽になるというか、死に対する解釈はそれぞれ違うけど、みんなそうやって生きてきたんだなって」
残すために現代で戦う
Q.古代エジプト人はミイラやパピルスなど形を残して文化を繋いできました。伯山さんは講談という伝統芸能を語り継いでいる。“残す”ということに対して意識していることはありますか?
「講談という芸能は、いつなくなってもおかしくないんです。残す方法は一つだけで、今の時代に生きる人たちにおもしろく思っていただけるかどうか、そこにかかっている。現代のお客様に講談の魅力が伝わらなければ、どんなに素晴らしいものでもあっけなく滅びてしまう。特に講談は後継者問題もあるし、今年はコロナで寄席や興行ができなくなってしまって、危機感は増しています。だからこそお客様に、この古いけれどもとてもいい物語たちをどうやって伝えられるかということをいつも考えています。たとえば、先人たちのテクニックに加えて現代の感性をどう掛け合わせていくかとか。
たとえが的確かどうかわからないですけど、デパートの催事でたまに売っている芋なんてすごいですよね。高い値段なのに次々と売れていく。冷静に考えるとただの芋なんですよ。うまいんでしょうが(笑)。あれはやっぱり見せ方やブランディングがきちんとできているからだと思う。それは現代に向き合うことの表れなんだと思います。
講談は漫才やコントより格式が高いと思われがちですが、エンターテインメントという点においては同じだと思っています。でも、漫談は歴史物を扱うから、学校教育に取り入れれば歴史の勉強になる。じゃあ、子供たちにどうやっておもしろいと思ってもらえるか。そういったことを考えることも“現代で戦う”ということの一つだと思う。だから常に攻めて、講釈を広げていこうと感じています。古代エジプトとの共通点でいえば、技術を高めてよりよくしていこうとしているのは似ているかなと思います」
Q現代と向き合うという意味においては、伯山さんは舞台の上だけではなくて、テレビやラジオに出演したり、YouTubeを始められるなど現代的なメディアを使ってさまざまな発信をされています。
「メディア出演は戦略を練ってやったわけではないんですけど、結果的にこういう形になったというか。ラジオは私が昔から好きだったので、始めてみたらあんな番組になっちゃって(笑)。でも、やりたいことをやっていたら伝わるかなって思うんです。その方が視聴者や読者にも楽しんでいただけるんじゃないかと。だから、どんな活動も名刺代わりにやっている感じです。
講談はまだまだ一般の方にあまり知られていないので、私が“講談のアイコン”みたいになっているのですが、当たり前だけど私だけじゃなくていろんな講談師がいますから、そういった方を知っていただいて、”あの人いいな””この人好きだな”と思っていただくまでが私の役割かなと思っています。
正直なところ、私は講談だけをやっていたいと思うこともあるんです。たまに『伯山さんはいろんなメディアに出て、華やかな場を経験していて羨ましいです』といってくるヤツがいるんですけど、私はちっともそう思わない。もちろんどれも光栄なお仕事なんですけど、講談をやっている時間が自分の人生の中で一番華やかだと思うんですよ。だから、今回は「古代エジプト展」の素晴らしさを広めると同時に、講談の楽しさも広めたいと思っています」
Q 古代エジプト人はミイラや彫像にして残すことをしていましたが、伯山さんが残したい人やモノはありますか?
「CDやDVD、本などで、私の講談は残したいですね。まぁ、こういう人もいたんだというくらいの気持ちで(笑)。伝統芸能はバトンを渡していくものだから、自分が名跡を継げばそれが後世に伝わっていくし、たとえ継がなかったとしても、後輩に教えることで自分のやってきたことは残せます。もちろん残さない美学もありますしね。ピラミッドを作った多くの奴隷たちの名前なんて一人も残ってないけど、今の時代にピラミッドがあり続けることで、そうした名もなき人たちのことを想像できる。それはミイラに通じると思います」
Q逆に残したくないモノはありますか?
「新人のときは、前座仕事は辛いなぁと思ってたんです。でも、時が流れて、見事に考えが逆転しました。この世界に入ってきたばかりの新人は天狗のようになっていることが多いんですが、前座仕事をすることで理不尽を経験します。そこから、“人はどうやったら喜んでくれるか”とか学ぶことがけっこうある。『あの師匠は濃いお茶が好きで、この人は薄いお茶が好き』といったことを少しずつ覚えていく。でも、それが天候や体調で変わることもある。すると『おい、違うじゃないか』って怒られる。すごく理不尽ですよね。だけど、そこでくじけるんじゃなくて、どう対応すればいいかということを考える。それも修行だったなって。当時は嫌だなぁと思っていたけど(笑)、人の心を読むという修行だったと思います。そういうことを続けていくと、遠くから足音を聞いただけで『あ、あの師匠だ』ってわかるようになるんです。すると、この人は何を思ってるのか、相手が言葉にしなくてもなんとなくわかるようになる。そういったことはお客様と対峙した時も活かせることかなと思いますね」
■特別展「国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話」
会期:2020年11月21日(土)~2021年4月4日(日)
会場:東京都江戸東京博物館 1階特別展示室(東京都墨田区横網一丁目4番1号)
電話番号::03-3626-9974(代表)
開館時間:9:30~17:30 ※入館は閉館の30分まで
休館日:毎週月曜日(ただし2020年11月23日、2021年1月4日、11日、18日は開館)、11月24日(火)、12月21日(月)~1月1日(金・祝)、1月12日(火)
公式サイト:https://egypt-ten2021.jp