まちをつなげるパン屋さん by Hanako1189 【鎌倉】ハワイのパンが勢揃い〈KOMOPAN〉へ。湘南に、南国の風を感じるあたたかなパン屋がオープン。
パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まちをつなげるパン屋さん」を掲載。新しい生活様式の導入とともにパンをめぐる景色も変化してきました。そこで今回は、映画の中に飛び込んだようなベーカリー〈KOMOPAN〉をご紹介します。
ハワイの日常のパンが湘南にやってきた。
パン屋を巡ることは旅だ。そこにパン屋がなければ行くこともなかった町を発見する小さな旅。さらにイマジネーション次第で、海の向こうのリゾートや、映画に出てくる町にだって行けるだろう。江ノ電に揺られ、腰越で降りる。駅前には漁港と海水浴場。観光地めいたところはあまりなく、ゆっくりとした時間が過ぎている。残暑の日差しと、海風も手伝って、あの映画の風景に似ている気がした。ハワイの田舎町ホノカアを舞台にした真田敦監督の映画『ホノカアボーイ』。
小森俊幸さんは妻の圭さんの夢を叶えた。大好きな『ホノカアボーイ』に出てくる古い映画館みたいなパン屋を作るという夢を。クリーム色に塗った板張りの外壁、パイン材の堂々たるカウンター。そこには、バスケットに盛られたマラサダが置かれる。倍賞千恵子扮するビーが揚げていた(実際には料理家の高山なおみが作っていた)マラサダはおいしそうで、映画を見た人なら必ず食べたいと思うだろう。小森さんは、同レシピをもとに、もちもちで再現している。
小森さんは、連載第1回で登場した、横須賀の〈soilby HOUTOU BAKERY〉のシェフを務めていた。地元の農業を盛り上げようと、野菜をたくさんのせたパンで話題になったが、ここでは封印。具材より、パン生地自体を味わってほしいと、腕をふるう。たとえば、サワードゥ。手作りの発酵種で作る西海岸発のこのパンを、栃木の自然栽培生産者・上野長一さんの小麦を自家製粉、穀物をまとわせて「ANOANO」(ハワイ語で「種」の意味)というパンに仕立てた。全粒粉の香りがココアのように甘く、素敵に感じられる。
多くのパンに、ハワイ語の名前がつけられ、ハワイで実際に食べられているパンも、ブリトーやスパムサンドなど数多い。そんなパンといっしょに、瓶のドリンクも買って、腰越海岸へ行こう。『ホノカアボーイ』で吹いていたやさしい風を、頰に感じるかもしれない。
〈KOMOPAN〉
江の島の隣の腰越に、8月20日にオープン。内外装のイメージはハワイ。マラサダやブリトーなど、ハワイで食べられているパンが中心。
■神奈川県鎌倉市腰越4-9-4
■0467-55-5142
■8:30〜17:00(売り切れ次第終了)日月休
池田浩明(いけだ・ひろあき)/パンラボ主宰。パンについてのエッセイ、イベントなどを柱に活動する「パンギーク」。著書に『食パンをもっとおいしくする99の魔法』『日本全国 このパンがすごい!』など。 ■パンラボblogpanlabo.jugem.jp
(Hanako1189号掲載/photo:Kenya Abe)