言いたいコト、書きたいコトバ…混じり気ナシ! 弘中綾香の「純度100%」~第27回~

LEARN 2020.05.29

ひろなかあやか…勤務地、六本木。職業、アナウンサー。テレビという華やかな世界に身を置き、日々働きながら感じる喜怒哀楽の数々を、自分自身の言葉で書き綴る本連載。2月に訪れた初インド旅行、滞在3日目で訪れた美術館での体験とは?

「インドに行ってきた」(その6)

 3日目はBさん(編集部注:今回のインド旅に同行させてもらった旅好きAさんの上司で、インドに5回以上も行ったことがあるというツワモノ)の提案で美術館に行こうという話になった。美術館と言っても、絵画や彫刻ではなく、布や工芸品が展示してある美術館だ。インドと言えば綿織物だろう、と大抵の方はピンと来るかもしれないが、恥ずかしながら私は不真面目な学生生活を送っていたため、インドで布?はい?という感じだった。しかも布の美術館なんて何を飾るの?と思いながら行ったら、驚いた。この国は本当に予想を超えてくる。

 展示されていたのは、気が遠くなるくらい細かな刺繍がされた大きなタペストリーや美しい装飾がなされたサリーの数々。冴え冴えとしたエメラルドグリーン、赤やピンクなど鮮やかな色をした生地に、ビーズや金糸でかたどられたモチーフや花柄が躍る。あまりの細かさに展示ケースとおでこがぶつかるくらい顔を寄せて見入ってしまう。この5センチ四方にどれくらいの時間と労力がかかっているのだろうと思うと、ため息が出る。生地ももちろんだが、ガーグラチョリーというトップスとスカートに分かれた服(ベリーダンスの衣装みたいな感じをイメージしてほしい)は、体のラインを綺麗に見せるためのカッティングがとっても上手にされていて、ものすごくなまめかしい。トルソーじゃなくて生身の人間が着てダンスしている姿を見たいなあ、と思ってしまうくらい。はるか昔から「布の宝庫」とヨーロッパに言わしめたインドに脈々と受け継がれている技術の高さ、ここにあり!という感じだった。
 
 面白かったのは、地域によって染色の仕方も違えば装飾に使われているものや織り方も違って、まったく味わいが変わるところ。日本で言う西陣織のようなうっとりしてしまう鮮やかで豪華絢爛な布もあれば、ヤギか羊か分からない動物が刺繍されている何とも味のある素朴な布もあったりして、千差万別。
  幾万通りものカレーがある食文化もしかり、この国の気持ちよさはこういった多様性だったりする。ひとくくりにカテゴライズ出来ない。ひとつの国に多民族・多言語・多宗教の人が入り交じっているから、隣の人と見なりが違うのも、文化が違うのも、はたまた考え方が違うのも、当たり前。それが普通。人と自分が違うことを、おそらくこの国の人たちは、空が青い、と同じような感覚で受け入れている。受け入れる土壌がそれぞれにある。ドメスティックな価値観でがんじがらめの世界から抜け出そうと必死な人から見ると、それがどれだけのギフトであるか。私も持ち合わせた人でありたいけど、こう思っている時点で無意識には出来ていないことが皮肉にも証明される。日々、努力するしかない。

 美術館を出てすっかりメイドインインディアの布に首ったけになってしまった私たち一行は、興奮冷めやらぬままお土産を買いに行くことにした。道中、Bさんがなぜあんなに大きなキャリーケースで来たのかを理解することになる。ブロックプリント(布に手彫りの木版で柄をつけていく。ハンドメイド感がたまらないのと、いかんせん柄がめちゃくちゃ可愛い)に魅せられてしまった彼女は、以前クッションカバーを7個携えて帰国したことがあるとのこと!布製品は可愛いけどかさ張るということで、余裕をもって大きなバッグで来たという。いやいや、さすがに、と話を聞いているときは思った。けれども、連れて行ってもらったお店に入ってみたら、もう、アドレナリン大爆発。獲物を求めて、目がランランと光りだす。コットンだから洋服はとにかく着やすそうだし、ベッドリネンは肌触りがいい。夏に活躍しそうなワンピースや派手可愛いパジャマ、お土産用のトートバッグやポーチなどを爆買いした。一つ一つが日本よりもずっと安いので気軽に買えてしまうのも嬉し恐ろしいところ。その流れでインテリアショップにも行って、クッション3つとべッドカバーも購入。何も買うものはないだろうと思い込んでいた自分を深く反省する。
 インドには本当に何度も裏切られてばかり。いい意味で。
 
次回:6月12日更新予定

photo:moron_non
photo:moron_non

【弘中のひとりごと】
人が作ったご飯の方がおいしく感じるのはなぜだろう。

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