花井悠希の朝パン日誌 vol.56 秋到来!仙台と京都のベーカリーで「芋・栗・かぼちゃハント」…〈A DEMAIN〉の〈pan nochi hare〉
秋の涼しさが本格的になってきましたね。前回の記事の最後にちらりと呟いた芋栗かぼちゃハントをしたいという呟き。この度しっかりとその想い、果たしてきましたよ!仙台と京都で。あぁ、東京はないんかーいというツッコミが聞こえてきます。でもここで、このタイミングで出会っちゃったんですよ。仙台と京都の地で、芋栗かぼちゃさんに。恋愛だって結婚だってタイミングとかよく言うじゃないですか?それです(そうなの?)。もうこれは従うしかありません。芋栗かぼちゃで繋がる仙台と京都の名パン屋さん。いってみよー!
テラス席で朝パンはいかが?…〈A DEMAIN〉
秋の始まりに毎年私が訪れているのが仙台。仙台クラシックフェスティバル、通称せんくらに毎年出演させて頂いており今年も行ってきました。今年仙台で果たしたかった事といえば、去年はちょうど定休日でいけなかった〈アドゥマン〉さん。仙台の街中ではない立地だったようなと思って調べてみたら、なんと今回演奏する〈イズミティ21〉の近くではありませんか!合間にしゅるりと行ってきました。
ずらりと並んだパン達はどの子も、食べて食べてとニコニコ顔でアピールしてくるので、その眼差しを振り切って選ぶのはつらいところ。この子は目が合った瞬間に、絶対美味しい!というひらめきを強烈に感じさせてくれたカリスマ性(って古い?)がありました。今にもこぼれおちそうなベシャメルソースはつやつやと輝いて、ほうれん草のグリーンを美しく映えさせます。
温めてもらってイートインで。二つ重ねのハムにこの黄色いチーズがたまらんのです。チーズのねっとりしたコクが、ハムに、パン生地に、ベシャメルソースに人懐っこく絡みつく度ガシッとハートを持っていかれること間違いなしです。パン生地からはそよそよと小麦の香り。ベシャメルソースのとろける口溶けの中ではほうれん草が爽やかにそよそよ。中にも上にもほうれん草入りのベシャメルソースが贅沢に使われていて、その旨みとコクとなめらかな口溶けを存分に味わう事が出来ます。うっとりとするひと時を約束してくれますよ。
持ち上げると軽い!そのままぱくりと一口いけば、さくっとまでいかないけどなんとも爽快な歯切れです!その瞬間に鼻腔を走り抜けるピスタチオの風、小麦の風が心地よくって、この生地いくらでも食べられちゃうやつ認定です(専門家ではありません)。軽やかだけど、生地にしっかり旨みがあって、でも後味はあっさり。なんなんだこの絶妙としかいえないバランス感覚は。だからとてもしっくりと、元々こういうペアで10年くらい活動してますみたいな様相でピスタチオペーストとナイスタッグをみせています。つぶつぶとしたピスタチオがコリコリ弾ければ高貴な味がして、さらに華やかな世界が広がっていきます。
季節のベーグルと書かれたポップを見て、深く考えずお姉さんに何が入っていますか?ときいたら「芋栗かぼちゃです。」と。ん?思わず耳を疑うよりも先に被せ気味に「え、それ全部入っているんですか?芋も栗もかぼちゃも!!?」と聞いてしまいました。そんな完全に芋栗かぼちゃファン感ダダ漏れな私に、「そうです」と答えてくれたあの日の笑顔を、私はきっと忘れないでしょう。(←こわいわ)
鬼まんじゅうのような、もちもち生地。ベーグルというよりも和のテイストの方を感じます。しっとりと湿度を保ったもっちり生地に、あっちには栗、こっちにはかぼちゃ、そっちにはさつまいも。これはあかん(突然の関西弁)。この小さな1つの集合体にぎゅうぎゅうに詰まった、芋栗かぼちゃの大収穫祭!と言わんばかりの大豊作っぷり。実りの秋の到来です。
それぞれが本当に、ちょうどいいとしか言いようがないくらい絶妙な甘みと素材本来の味の活き方で、芋栗かぼちゃ好きも大納得なイキイキした素材感。芋栗かぼちゃって強めの甘みを足してしまい素材の味が後ろに下がってしまうものも多いのですがこれはそんな心配ご無用。ご安心ください。(芋栗かぼちゃ評論家か!)ベーグルの、んぐっと喉にくる圧迫感が全然ないのはこれだけたわわに具材が入っていることと、生地のしとっと滑らかな口溶けのおかげだろうな。だから大福のような福々とした幸福感に包まれるのです。あぁもう一個食べたい。
個性豊かな街のパン屋さん…〈pan nochi hare〉
今度は京都へびゅーんと移動しましょう。〈ぱんのちはれ〉だなんて、お店の名前からして心惹かれますよね。期待に胸を膨らませ行ってみると、たくさんの種類のパンがずらりと並び、且つどんどん焼かれていて、近所の方もたくさん来店するであろう街のパン屋さんらしい活気にも満ちています。こだわりを持って丁寧に作られたパン達は一つ一つハツラツとしていて、近づいて見れば見るほどどの子もオンリーワンな魅力ばかりです。
たっぷりのアーモンドクリームと大きなバナナを下顎でぐいっと抱えているようなルックスが可愛い。クロワッサン生地のしっかりと焼けた部分がサクサクっと軽やかに音を鳴らせばバターのコクと脂がぶわりと花開きます。
そこに登場するのがバナナ。ねっとりと甘さが広げられたバナナは酸味も華やいで、アーモンドクリームで甘さの準備はオッケーなお神輿に担がれ絶対的センターの貫禄を放ちます。誰がなんと言おうとこのパンの主役はバナナ。異論は受け付けません(←誰)。
バゲットにコロコロのっかっているさつまいもと目が合って、芋栗かぼちゃファン代表としていてもたってもいられなくなったこちら(いつから代表?)。「どんなタルトレットですか?」と聞いたら、「安納芋ペーストにマスカルポーネクリームを重ねて、さつまいもを乗せて、上からチーズをかけて焼いています」と言われ、想像するだけでその美味しいの重ね技にクラクラ来てしまいました。危うく膝から崩れ落ちるところでした(本当か?)。
バゲットの焦げ目がついた所はカリカリと香ばしく、そこにさつまいも欲にも答えてくれる濃いサツマイモのペーストが伸びやかに広がると、マスカルポーネがまろやかさを一押しして舞い上がった私の心をじっくりと満たします。トップでコロコロ楽しそうな角切りのお芋たちは皮も残り歯応えも活きているから芋らしさをきっちり主張して、そんな子たちのお姉さん的な優しさでタオルケットのようにかけられているのがチーズ。
このチーズの量がいいんです。多すぎず薄く均一にかけられているから、甘じょっぱさが前に来るというよりコクが引き出され味に奥行きをつくる役割を担っていて、こんなチーズの立ち位置もあるのかとキュンとしてしまいました。チーズってもっと主役にしかなれないものだと思っていたよ。想像だけでノックアウトされていたのに、ひたすらに畳み掛けてくる好みテイストたちの重ね技はノックアウトを通り越し昇天レベルの脳内幸福度でした。
どや!!個性豊かなパンのラインナップの中でも群を抜いて異彩を放っていたのは間違いなくこの子です。私は焼きそばパンが小さな頃からあんまり得意ではないので普通なら選ばないチョイスなのですが、これは出会ってしまったら最後。連れて帰らざるをえないインパクトに負けてお持ち帰り。結果、大当たりでした!隙間なくぎっしり入った麺の整列の美しさにまず見とれてしまいますが、その大きなブリトーのようになった厚みに、あごを外す手前まで大口を開けて挑むと(よくやる技)、ん?これパンなの!?と衝撃の感覚が襲います。
薄くくるりと焼きそばを包む生地はもっちもっちで甘さがなくナンのようでもあり、焼きそばと一緒に食べるとパンというより広島焼きのよう。ソースの味もしっかり届くのにその焼きそばの麺がとても細い上にべとつきがなくさらっとしているから、なおさら広島焼きのようなイメージが浮かぶのかもしれません。表面にたくさんまぶされた桜えびは香ばしく、鰹節は香り高くソースを格上げし、紅生姜で屋台の焼きそばのジャンク感も匂わせつつ、サラサラな細麺ソース焼きそばがもちもちの白いパンと握手。パンとしっくりよく馴染んでいます。見た目のインパクトよりもずっと洗練されていて、味もくどさがない。昭和の焼きそばパンを想像したら全然違います。言うなればこれは「令和の焼きそばパン」なのでは!?
どちらも小さく可愛らしいパン屋さんですが、パン好きな方たちが続々とお店を訪れる名パン屋さん。そんなパン屋さんが作る芋栗カボチャはそれぞれに個性が光って、美味しいだけじゃなくなんだかとても楽しい気持ちになるパンたちでした。遊び心と探究心に食べて触れることができるって幸せですね。胃袋があと三つくらいあったら(欲深いんです)、かぼちゃ系のパンや栗系のパンもそれぞれあったのでトライしたかったなぁ。おそらく今の時期が1番豊作な芋栗カボチャパン。みなさんもハントしにいってみてくださいね。