一生に一度は味わいたい。“感動必至”のできたて和菓子とお茶のペアリングコース

料理や洋菓子の世界では一般的な実演スタイルのお店が和菓子の世界にも波及! 2024年11月、東京・六本木にオープンした菓子司〈九九九〉は、職人が目の前で仕上げた和菓子と全国各地から厳選した茶葉の旨みや香りを多彩なペアリングで楽しめる茶寮です。今回は、Hanakoラボメンバーと極上のペアリングコースを体験! 人生で一番おいしい!?感動の和菓子と出合える〈九九九〉の魅力をお伝えします。

ふじた・かいと。〈九九九〉和菓子職人。

もり・ゆうすけ。〈九九九〉茶士。
今回訪れたのは…

九九九
2024年11月、六本木にオープンした茶寮。12時から14時までは季節に即した良質な素材を用いた和菓子と茶のペアリングコースを、15時以降は和菓子や茶・茶酒をアラカルトで提供する。
貴重なアートや骨董も展示。没入空間で堪能する極上のひと時
〈国立新美術館〉のそばに建つビルの2階にオープンした〈九九九〉。出入口に看板はなく、隠れ家感が漂います。
お店の中と外を隔てるように閉ざされた扉を開けた先には、薄明りの空間が広がります。ここはレセプションとクロークにあたるエリアのよう。ここでふと、壁の奥に飾られている枝だけを挿した花瓶に目が留まります。
「実は、客席にアンディ・ウォーホルが描いた花の絵を掛けており、エントランスから続く体験として、あえてここには枝のみを飾っているんです」と森さんは説明します。


カウンターのみの客席は、茶室でたしなまれる茶会よりも気軽にお茶を楽しめる「野点(のだて)」(屋外でお茶を点てる茶会)のような雰囲気が感じられる創りに。
一方、奥の障子に面した空間は「茶室」をイメージし、千利休が愛した茶碗作りを継承する樂家代々の作品を展示しているほか、コース終了後にその日使用した器や茶碗も披露しています。
そして、気になる店名の由来について、藤田さんはこのように解説します。
「店名の〈九九九〉には、茶の湯文化を大成させた千利休への深い敬意が込められています。利休は、当時すでにあった茶の湯を日本文化の土台に押し上げた人。
自分たちも、すでにある和菓子の文化価値をもっと世界的に高めていけるような活動ができればいいなということで、千利休の『千(1000)』よりひとつ少ない『九九九(999)』と名付けさせていただきました」


また藤田さんは、作り立ての和菓子を提供する魅力をこう話します。
「もともと和菓子の文化というのは、自分が食べるためではなく、人に贈るための『贈答用』として成り立ってきた背景があるので、日持ちがするお菓子には砂糖が多く使われています。
我々が提供しているコースのお菓子には、日持ちさせるための甘さはいりませんので、和菓子としておいしいと思っていただける甘さのみで、お作りしております。
従来の和菓子とはまた違う、新たなおいしさを知っていただきたいという想いから、でき立てにこだわっています」
良質な素材にこだわった季節の和菓子とお茶のマリアージュに舌鼓
このお店が提供しているペアリングコースは、和菓子8品・お茶8杯・抹茶1服の「和菓子と茶のペアリングコース」と、和菓子3品・お茶2杯・抹茶1服の「和菓子と茶のミニペアリング」の2種類。
今回は、そのなかから「和菓子と茶のミニペアリング」をHanako特別コラボバージョンでご用意いただきました。
① 氷炉(ひょうろ)×薄荷茶

1品目は炭を使った氷菓、その名も「氷炉」からスタート。
「お茶室には必ずある炉を表現したお菓子です。ですので、通常のコースでも毎月必ず出すお菓子です」と藤田さん。

ロールアイスのようにかくことで、炭のような形に。それをまるで炉の中に組むように、器に丁寧に盛り付け、仕上げに塩をぱらりと振りかけます。食べる直前に、「炭油」という土佐の備長炭をごま油に入れて燻製感を出したオイルをかけていただきます。

ひと口含んだ瞬間から、口いっぱいに広がるオイルのスモーキーさ。氷菓自体は素朴な甘さで、オイルの風味を邪魔しません。溶けにくいようくず粉が入っているため、一般的なアイスクリームよりもとろりとした食感が新感覚です。

このお菓子に合わせるのは、冷たいミントの煎茶「薄荷茶」。ほのかなミントの風味が口の中をさっぱりとさせてくれ、再び初めて食べるような感覚で氷菓を味わうことができました。

②利休望(りきゅうもち)×小豆焙じ茶

2品目は、「利休望」と名付けられたクリーム大福です。
「こちらが当店のスペシャリテです。奥に展示している黒樂茶碗をイメージしていて、色は利休が好んだゴマを使って表現しています。茶器を表したお菓子なので、中には季節の食材が入っています。
また、茶器つながりで飲めた方がおもしろいんじゃないかということで、飲めるぐらい柔らかい大福となっております」と藤田さん。
このお菓子に合わせるのは、小豆の皮を焙じて作った「小豆焙じ茶」。和菓子作りの過程で、余ってしまう小豆の皮をどうにか生かせないか、という想いから生まれたと森さんは言います。
「あんこや羊羹を作る際に余ってしまう小豆の皮は、ほとんどが廃棄されてしまっているんです。そこで、我々が再利用というかたちで、余った小豆の皮を乾燥させて、煮出したり、焙じたりしたものを『小豆焙じ茶』としてお出ししています」

利休望は口に入れた瞬間、なくなってしまうような儚さがありながら、黒ごまの旨みの余韻もしっかりと楽しめるひと品。また、大福にはあんこは使われていないものの、小豆焙じ茶のおかげであんこを食べた気分にもなる、不思議な感覚も体験できました。
この利休望はアラカルトの時間帯にも提供しているということなので、気になる方はぜひお試しを。

参加者からは、「普段から和菓子が好きでよく食べるんですけど、甘さ控えめのじんわりおいしいっていう感じもでき立てならではで、また来たいって思いました」「大切な人の誕生日のお祝いに利用したいなと思いました」といった声が次々と。
③上生菓子×御抹茶あさひ

最後は、上生菓子とお抹茶で締めくくります。今回、特別コラボということで、Hanakoのロゴの一部である、オレンジを模した「o」の字をモチーフに作っていただきました!
その前に、奥の障子を閉め、さらなる没入空間を演出します。
「より一層野点の雰囲気を味わってもらえるよう、上生菓子をお出しするタイミングで、このような演出をしております」と森さん。

先ほどとはまた異なる雰囲気の空間で、藤田さんが上生菓子を作っていきます。まずは、「包餡(ほうあん)」という練り切りであんこを包む作業から。
「今回、Hanakoさんとのコラボということで、ロゴをイメージして、オレンジと白の練り切りを用意しました。練り切りには、私の地元である三重県が原産地の伊勢いもを使用。
あんこも自家製で炊いていて、練り切りに使用するこしあんは一般的に使用されるこし器よりも、網目がさらに細かい100メッシュのものを使用しています」

細かい説明も交えながら、器用に作業を進めていく藤田さん。包餡が終わると、次は「もみあげ」という表面を平らにして形を整えていく工程に移ります。その後、押し棒を使ってロゴのマークをかたどっていきます。

その間に、森さんがお抹茶を点てていきます。
「お茶事の席の場合は、上生菓子をすべて食べ終わってから、お抹茶をいただくという流れですが、当店ではそういった作法は気にせず、召し上がっていただければと思います」

「京都産の〈あさひ〉は、抹茶特有の苦みと渋みが抑えられていて、甘みさえ感じられるような味わいが特徴です」と森さん。泡をきめ細かく点てることで、より滑らかに飲みやすくしていると言います。
上生菓子は、こしあんの滑らかさにこだわっただけあり、口に入れた時の舌触りが均一。また、お抹茶も滑らかな口当たりが楽しめ、これぞペアリングの極みとも言えるような体験でした。
すべてのコースを終えて、大満足の皆さん。ここで、さらに〈九九九〉から参加者へ素敵なお土産のご用意が。
「〈こよみどら〉というどら焼きで、1か月ごとにあんこを変えて販売しています。2025年2月は、粒あんと金柑あんの2層仕立てとなっております。また、どら焼きの皮にもこだわっていて、もっと和菓子に寄せたいという想いから、米粉を使用しています」

カウンターの目の前で、トークを交えながら実演を披露してくれた藤田さんと森さんのお二人。お菓子やお茶はどれも絶品で、今までにない体験ができること間違いなしです。
今回、参加してくれた皆さんは「和菓子のコースというのは初めての機会だったのですが、ひと品ずつ丁寧に説明してもらいながら味わえたのがよい体験でした」「日常からちょっと離れて、心落ち着くひと時を過ごせて贅沢でした。心が洗われたような気がしました」など、絶賛する感想を口にしていました。
普段とは違う和菓子体験をしたい方はぜひ、お店に足を運んでみてください。
photo_Momoka Omote text_Mae Kakizaki