初めてのお灸体験へ。「なんとなくの不調」から解放されたい | ゆるめる23時

HEALTH 2024.06.25

一日はあっという間に過ぎていく。起きて、仕事して、合間にごはんを食べて、息をつく間もなく眠りについて。気づいたらカレンダーがどんどん次の日にめくれていく。やるべきことをこなしたり、やりたいことに夢中になったりする時間も大切だけれど、ふと一息、ぴんとはりつめた自分をゆるめる時間をどこかに取り入れられたら。たとえば、眠る前の23時だけでもそんな時間がつくれるように、日々のなかで取り入れられる「ゆるめる」方法をme and youの竹中万季さんが探しにいく体験型のコラム連載です。今回は、初めてのお灸にチャレンジしました。

梅雨の時期は本当に苦手だ。前世、湿気に極めて弱い生物だったんじゃないかなと思う。なんとなく不調な日、みんなどうやって過ごしているんだろう。体調が悪いというほどではなく、なんとなくパッとしない感じのとき。気圧のせいなのか、湿気のせいなのか、生理のせいなのか、はたまた悩みごとのせいなのかとあれこれ考えつつも、わたしは結局そのまま放っておいてしまうこともある。でも、放っておくと身体も心もどんどん落ちていくことも知っているから、どうにかするための手段はなるべくたくさん知っておきたい。

お灸に関心があるというHanako編集部のKさんと話して、今回は銀座にある「せんねん灸お灸ルーム」の「お灸教室」に行ってみることにした。お灸といえば、まさになんだかよくわからない不調に効くイメージ。けれど、熱いものが苦手で、不注意のかたまりのようなわたしには不向きなのでは? と思い、これまで手を出していなかった。

せんねん灸お灸ルーム

事前にせんねん灸のWebサイトの「はじめての方へ」というコーナーを覗いてみたら、「お灸は古い!」「お灸はアツイ!」「お灸はコワイ!」「お灸ってメンドウ!」という、まさにわたしが抱いていた疑問に対し、しっかりと答えが書かれていた。お灸=熱い・やけどするというのは昔の話で、せんねん灸で販売されているお灸は紙パルプの台座によって肌に火が触れないので安心だそう。

さらに、お灸にはなんと2000年をこえる歴史があるらしい。レントゲンもMRIもなかった時代に、身体の中で起こる症状がやわらぐポイント「ツボ」が試行錯誤のなかで中国で発見され、それが奈良時代に日本に伝わり、漢方と共に長く日本の医療を支えてきたそうだ。

せんねん灸お灸ルーム

頭にせんねん灸のお灸を乗せた「お灸くん」に誘われて、お灸ルームへ。ここでは、今回体験するお灸体験のほか、お灸治療も行っている。

せんねん灸お灸ルーム

本日教えてくださるのは、せんねん灸の鍼灸師、髙木さん。持参したお灸がしやすく動きやすい服に着替え、まずは配られた問診票に記入していく。

せんねん灸お灸ルーム

身体のつらい部位をマークしたり、現在かかっている病気について記載するほか、アンケートには「お灸に対してどんなマイナスイメージがありますか?」という項目もあった。「火を使うのは難しそう」「難しそう」「自分にはできない」など、次々と丸がついていく。目の前にはお灸や点火器が並び、かなりの不器用の自分にも果たして扱えるのか、この時点ではちょっと心配だった。

せんねん灸お灸ルーム

問診票を書き終えたら、参加者一人ひとりが自己紹介していく時間に。お灸の経験や、今日の目的について話していく。わたしはお灸の経験はなく、この日は具体的に痛い場所はないけれど、自律神経が崩れやすく、よくわからない不調が起きやすいことを伝えた。「体験のなかでこういう不調があったなと気づくこともあるので、お灸をして変化を実感してもらえたらと思います」と髙木さん。

せんねん灸お灸ルーム

目の前にはずらりとお灸と葉っぱがならぶ。「このふわふわしたものはもぐさと言います。何からできていると思いますか?」

せんねん灸お灸ルーム

答えはよもぎ。古くから身近な薬草として使われてきて、乾燥したよもぎは生薬として身体を温め、さまざまな症状に効果があるとされてきたそう。もぐさはなんと、よもぎの葉の裏側をびっしり覆う白く光る綿毛からつくられている。この部分をお灸に使うことをいつ誰が考えたのかはわかっていないようで、2000年という長い歴史を思った。

通常のお灸では、このふわふわのもぐさを小さくまとめたものを肌に乗せ、その上に火をつけるけれど、せんねん灸では誰でも使いやすいように、安全なつくりのお灸を販売している。

せんねん灸お灸ルーム

シールのついた台座の上に、もぐさが詰まった筒が立っている。筒に火を付けるから、肌に触れる部分は熱くないし、準備も安全に行うことができそう。

せんねん灸のお灸は「火を使うタイプ」「火を使わないタイプ」が2つある。温熱レベルも5段階あって、皮膚が薄いところにはレベルが低いものを使うなど、使い分けするのがよいらしい。香りもいろいろで、アロマの香りがするものや、にんにくやしょうがを包み込んだお灸もある。滋賀で1949年に生まれ、現在も滋賀に本社を構えているせんねん灸。「竹生島」や「琵琶湖」などの名前がついた商品もあり、地域に根ざした名前をつけているそうだ。

せんねん灸お灸ルーム

はじめに、正しい使い方を教えてもらった。裏面のシールを剥がして片手の指につけて、点火器で火をつけて、煙があがったらゆっくりとツボの上に乗せていく。乗せたあとはシールで肌に張り付くので、多少動いても離れないので安心だ。温熱時間は約5分で、台座が冷めたらおしまい。

せんねん灸お灸ルーム

少しでも熱い! と思ったら外す。血行が改善しないと熱さを感じづらいようなので、その場合は、いったん外してからもう一度別のお灸を据えてもいいそうだ。連続3回まで同じところにお灸を据えてもいいとのこと。

せんねん灸お灸ルーム

次に、お灸を据えるポイントであるツボを見つけていく。「お灸向けのツボは、血行不良が起きているところです。血色がいい赤ちゃんのぷりぷりした肌を想像してみてください。血行が悪くなってくると、ハリがなくなってきて、たるみやへこみが出てきます。また、水分が少なくなって、乾燥してきます。まめやたこ、古傷もツボになります」と髙木さん。ツボというと誰もが同じ場所にあるようなイメージがあったので、触りながら見つけるものなのか、と驚いた。身体の中の内臓などの臓器や、心で起きている不具合、トラブルが、肌にツボとなって反映されるということらしい。

まずは腕のあたりで、滑りが悪いと感じるところを探す練習を行った。初めてだと、なかなか難しい。そもそも日常のなかで、腕をこんなにも撫でたことも眺めたこともないから、新鮮な気持ちになった。先生のアドバイスを受けながら、ペンでマークをつけ、そのうえにお灸を乗せていった。

せんねん灸お灸ルーム

お灸はじんわりと温かく、乗せる場所によってすぐに熱く感じる場所もあれば、熱さをなかなか感じづらい場所もある。先生がお話していた、「血行が改善しないと、熱さを感じづらい」という話を実感した。乗せる場所が間違っていたとしても何か問題があるわけではないとのことなので、あれこれ試しながら、そのときの自分に合ったツボを見つけることができそう。

せんねん灸お灸ルーム

この人形には、ツボとツボをつなぐ経絡(けいらく)という線が描かれ、経路ごとに臓器の名前がついている。東洋医学では身体中が繋がっているという考え方をするので、ここがツボかな、と肌を触りながら見つけた場所から、どの臓器に不調があるかを見つけられるようだ。例えば同じ腕でも、もう少し内側に置くと呼吸器のツボだったり、ほかの臓器のツボだったりするらしい。

せんねん灸お灸ルーム

胃腸の働きを高め、全身の血液循環をスムーズにして老廃物の代謝を促すという「足三里」や、骨盤と背骨を支える腰回りの筋肉のバランスを整え、腰の重だるさや痛みを緩和する「三陰交」という場所など、お灸を据えるのにぴったりな場所もいくつか教えてもらった。こうした場所を覚えておけば、思い立ったときに手軽にお灸を据えることができそう。

せんねん灸お灸ルーム

背中や首の裏、肩など、お灸を据えづらい場所で便利に使えそうなのが、「火を使わないタイプ」のお灸だ。「せんねん灸太陽」という名前の商品は、上の面のシールを剥がすと中の発熱剤が温まり、下の面を剥がすともぐさがシート状に入っているので、それを肌に貼り付けるだけでツボを温められる。じんわりと気持ちよくて、カジュアルに使うことができそう。

せんねん灸お灸ルーム

最後に、鍼灸師である髙木さんが身体に触りながらツボを見つけてくれる時間もあった。家で手軽に行える「せんねん灸」をより活用するためにも、お灸治療で一度じっくりと身体を診てもらうのも役に立ちそう。

せんねん灸はお風呂やごはんの前後を避ければ、いつでも使って大丈夫。「身体が悪くならないように使うものなので、元気がないときだけではなく、元気なときに使うのもいいですね」と髙木さんがお話されていた。不調を感じているけれど病気ではない段階を「未病」というそうだけれど、「なんとなく不調」というときに頼れるものをいくつも持っておきたい。

せんねん灸お灸ルーム

髙木さんがお話されていた、「お灸は自分の身体を見つめる時間です」という言葉が記憶に残っている。自分のツボを見つけるために身体を撫でで、5分間、煙を見つめながら過ごす。火を使うから、お灸を据えている間は、他のことをすることができない。ながら作業に慣れ、たった5分であっても「もったいない」と思ってしまいがちな生活のなかで、ぼんやりと、何も考えない時間はどれくらいあるだろう? 心と身体を休ませる理由をつくるためのものは、いくつあってもいいはずだ。

text&photo_Maki Takenaka edit_Kei Kawaura

Videos

Pick Up