年末に参拝の意味がある「納不動 (おさめふどう) 」。今年のモヤモヤを整理して新年を迎えよう。
右手に煩悩や悪縁を断ち切る利剣(りけん)、左手に迷える人々を正しく導く羂索(けんさく)をもち、不浄を焼き払う火焔(かえん)を背負って、なにものにも動じない心を表す磐石(ばんじゃく)に座る不動明王(ふどうみょうおう)。激しい忿怒(ふんぬ)の表情で、人の心に潜む悪を制するのだといいます。
お不動さまにゆかりのご縁日は毎月28日で、この日に参詣すれば普段よりご利益ありとか。特に12月のご縁日は「納不動(おさめふどう)」とも呼ばれ、1年を締めくくるのにぴったりです。迷いやわだかまりを振り切って、新しい年にのぞむ良い機会です。
その一 【薬研堀不動院(やげんぼりふどういん)】 開創430余年、江戸名所図会(えどめいしょずえ)にも描かれたお不動さま。
はじまりは戦国時代真っ只中の天正19(1591)年。豊臣勢に攻められて炎上した紀州の根来寺から不動明王尊像を守って東国に逃れ、隅田川畔に堂宇を築いて像を安置したと伝わります。

江戸時代には江戸三大不動のひとつとして知られ、多くの信仰を集めて「江戸名所図会」にも紹介されました。

その頃、江戸各地の八幡さまや観音さま、天神さまの境内や参道に、師走のご縁日ともなると正月用品や縁起物などを商う歳の市が立ちましたが、そのラストを飾ったのが薬研堀。納不動の時期にはどっと人が繰り出しました。今も納不動に合わせて「納めの歳の市」が開かれ、正月準備を急ぎ人で賑わいます。

納不動の12月28日は、特別大護摩供修行が行われます。お焚き上げの炎は美しく、ありがたみが感じられて自然に頭が下がります。山あり谷ありだったとしても、無事に年末を迎えられたことに感謝の念が浮かびます。

東京都中央区東日本橋2-6-8
https://www.yagenborihudoin.com/
その二 【成田山深川不動堂(なりたさんふかがわふどうどう)】 元禄の昔から江戸っ子が押し寄せた“深川のお不動さま”
成田山新勝寺の別院、成田山深川不動堂の開創は元禄16(1703)年。江戸幕府が開かれてちょうど100年が経った頃と伝わります。成田山新勝寺のご本尊が特別に江戸で出張公開されたことが始まりなのだとか。

江戸っ子が熱狂した歌舞伎役者、市川團十郎が成田山新勝寺に深く帰依し、お不動さまのご利益を題材にした芝居を打ったこともあり、成田詣は一大ブームに。江戸での出張公開である出開帳もたびたび行われ、大いに賑わったといいます。

しばしば、その出開帳の舞台となったのが、現在成田山深川不動堂がある場所。成田山新勝寺の不動明王御分霊が正式に遷座され、成田山深川不動堂となりました。ここで行われる護摩供は、実に荘厳。大勢の僧侶が真言を唱える中、護摩木が炎にくべられて人々の願いを天に届けます。

年末最後12月28日のご縁日、納不動には1年間でお世話になった御札や御守りを納めようと参拝者が続々と訪れます。祭壇に山と積まれた様子は壮観。晴天のもと粛々と特別の法要がいとなまれます。
お参りを終えたら、来る年の開運を祈って新たに御札やお守りをいただくべし。これで新年の準備は万全です。

東京都江東区富岡1-17-13
https://www.fukagawafudou.gr.jp/
その三 【等々力不動尊(とどろきふどうそん)】 武蔵野の面影を残し、清らかな水が湧き出す渓谷の霊場へ。
等々力不動尊が祀られる等々力渓谷は、東京23区で唯一の渓谷。澄んだ湧水が至る所から湧き出し、武蔵野の面影を宿す樹林が広がっています。
平安時代後期、真言宗中興の祖である興教大師が夢のお告げによってこの地に辿り着き、お不動さまを祀ったのがはじまりだとか。


駅からのんびり歩いて10分ほど、緑の中にある山門はどっしりと重厚で歴史を感じさせるもの。緑の息吹に満ちた境内に足を踏み入れ深呼吸すると、生き返った気持ちになります。ここは忙しい日常を忘れたい時にぴったりの場所です。


等々力不動のご縁日は毎月15日と28日。この日に参詣すれば14時からのお護摩に参列できます。特に12月28日の納不動はこの1年に感謝を捧げ、新たな1年を迎える日。お不動さまにお参りして迷いを振り払い、背筋を伸ばして2026年を迎えましょう。
東京都世田谷区等々力1-22-47
https://www.manganji.or.jp/
text_Mutsumi Hidaka














