至極の一杯に早変わり!いつものコーヒーが格段に美味しくなる方法
日本を代表するコーヒーメーカー〈UCC上島珈琲〉が、20~30代向けにコーヒーのおいしさを伝えようと2022年に設立した新会社〈COFFEE STYLE UCC〉。UCC独自のフレッシュキューブ(小容量真空パック包装)を採用した〈CAFE@HOME〉ブランドの展開を中心に、「Food with Coffee」や「Life with Coffee」などと題して、スイーツやグルメに合わせたコーヒーや1日のなかのシーンに合わせたコーヒーの提案を行っています。今回は、そのなかから焼き菓子とのペアリングについて教えていただきます。
〈UCCコーヒーアカデミー 東京〉講師
ふじわら・ゆう/UCCコーヒーアカデミー 専任講師。東京校での各種セミナーの他に専門学校や企業向けセミナー業で活動中。保有資格:UCCコーヒーアドバイザー、(アメリカ)CQI認定Qロブスタグレーダー
コーヒーの味わいの違いはなぜ生まれる?
会場に集まった10人のコーヒー好きの皆さんと、まずは簡単にコーヒーの基礎知識を学ぶことからスタートです。藤原さんから、コーヒーができるまでの流れやコーヒーの味の違いがなぜ生まれるかといったお話を紹介していただきました。
「皆さんが普段飲まれているコーヒーがそもそも何なのかというお話なのですが、植物学上はコーヒーノキというアカネ科に属している植物になります。それが白い花を咲かせるのですが、その後に実が成って、コーヒーチェリーと呼ばれる真っ赤な状態になります。その中にある種の部分がコーヒー豆になります」
コーヒーとひと口に言っても、酸味や苦味など味わいはさまざま。その違いは、どのようにして生まれるのでしょうか? 藤原さんは、違いが生まれる要因を栽培品種、生産国(栽培環境)、加工処理(精製方法)の3点が大きく影響していると説明します。
「全体で200品種ほどあるのですが、メインで流通しているのは2大栽培種と言われるアラビカ種とカネフォラ(ロブスタ)種です。アラビカ種の味の特徴は、甘味やフルーティーな酸味。一方のカネフォラ種は、味と香りが独特なこともあり、ブレンドやインスタントコーヒーにアクセントとして使われることが多いですね」

また、生産国の環境もコーヒーの味にそれぞれ個性を出します。
「コーヒーの木は、コーヒーベルトと呼ばれる赤道を中心とした南北緯25度のエリアを中心に、世界70か国ほどで栽培されています。温暖で、標高の高い山の中で育てられているんですね。
大きく3つのエリアに分けて紹介すると、コーヒー原産国のエチオピアに代表されるアフリカエリアは、ラズベリーやクランベリーのような甘酸っぱく上品な味わいが特徴です。そして、インドネシアなどの東南アジアエリアは、パッションフルーツのような酸味やスパイス感があり、重厚な味わいが特徴となっています。
中南米エリアは、オレンジのような透明感があり、爽やかでシャープな味わいが特徴なのですが、同じエリアでも国によって味わいにまた違いが生まれます。基本的に、コーヒーの木は標高の高い場所で栽培されているのですが、そのなかでもブラジルは他の国に比べて低い位置にあるので、寒暖差が少ない分、酸味が強く出ないというのが特徴としてあります。一方、コロンビアは標高の高い場所で栽培されているので酸味が出やすいのが特徴ですね」

加工処理による違いとは、コーヒーチェリーを収穫してから乾燥させる段階の違いによって、さらに味わいが変わるというもの。コーヒーチェリーをそのまま乾燥させてから、コーヒー豆となるパーチメントを取り出した場合、赤ワインのような濃厚なコクを感じられ、余韻を長く楽しめる味わいに。
一方、果肉をむいてミューシレージと呼ばれる粘液質まで取り除いた状態でパーチメントを乾燥させた場合は、白ワインのようなすっきりとした味わいになると言います。最後に、パーチメントのまわりに果肉やミューシレージが残った状態で乾燥した場合は、赤と白の両方の特徴を併せ持ったロゼワインのように、風味が豊かでクリアな味わいになるのだとか。
栽培種や生産国と違って、商品表示などからなかなか知ることのできない精製方法の情報。確認の仕方について、藤原さんはこのように教えてくれました。
「一般的に、コーヒーチェリーをそのまま乾燥させたものは『ナチュラル』、果肉・ミューシレージを除いて乾燥させたものは『ウォッシュド』果肉・ミューシレージが残った状態で乾燥させたものは『セミウォッシュド』と呼ばれています。コーヒー専門店の店員さんに聞いてみたら、教えてくれると思いますよ」
ドリップコーヒーのおいしい淹れ方のポイントを紹介
コーヒーができるまでの知識を学んだあとは、実際にドリップコーヒーを淹れてみましょう。おいしい淹れ方の3つのポイントを藤原さんは、このように教えてくれました。
「まずは、お湯の温度です。92~96℃をおすすめしています。なぜかというと、この温度が一番苦味や甘味といったコーヒーのおいしい成分を抽出するのに最適だからなんですね。とは言え、ご自宅で温度を測ってというのが手間という場合は、沸騰したお湯を注ぐ用のポットなどに移し替えていただくと、ちょうどこのくらいの温度になります。
続いてのポイントは、蒸らしですね。約20秒をベストとしています。この工程はとても重要で、お湯の通り道を確保するというのと、粉に含まれているガスを抜く役割があるんです。コーヒーの粉をドリッパーにセットしたら、一度平らにならすと均一に蒸らすことができますよ。この工程を省いてしまうとコーヒーのおいしい成分が抽出できないので、皆さんにはぜひやっていただきたいと思います」

「そして、3つめがお湯の注ぎ方です。お湯は、静かにゆっくり注ぐというのが全体を通してのポイントになります。続いて、お湯を注ぐタイミングですが、蒸らしのあとに3回に分けて注ぐ3投式をおすすめしています。
1杯分のでき上がりを140ccとして、お湯は160cc用意してください。まず蒸らしで20cc、次に1投目で80ccのお湯を注ぎます。お湯がコーヒーの一番上の高さから1/3程度減ったら、2投目で40ccを注ぎます。コーヒーの粉に少しくぼみができたら、3投目に入ります。残りの20ccを注いでください」
その後、4つのグループに分かれて、代表者1名がドリップコーヒーを淹れていきます。時折、不安そうな声やフォローする声が聞かれるなか、藤原さんからちょっとしたポイントやコツを教えてもらいながら、賑やかに時間が過ぎていきました。


選び方でこんなに違う! ペアリングの基本を学ぶ
続いては、皆さんお待ちかねのフードペアリング体験の時間です。自宅などでも楽しめる、基本の考え方から学んでいきます。
「そもそもフードペアリングとは何かといいますと、コーヒーと食べ物を一緒に食べて、相乗効果でよりおいしく味わいましょうという考え方になります。どう合わせたらいいのかという基本の考え方としては、同質を合わせていただくというのと、同じ強さのものを合わせていただくという2点が代表して挙げられるかなと思います。
例えば、しっかりとしたコーヒーには甘いチョコレートを合わせていただくというのは、強さを合わせるところに当てはまりますね。また、フルーツタルトを食べたいなと思ったときに酸味のあるコーヒーを選んで、酸味と酸味で同じ質を合わせるというのは同質に当てはまるかなと思います」

次に、ペアリングのコツとなる成功しやすい組み合わせとして、3つの例が紹介されました。ひとつは、先ほど説明があった同質のものを合わせる「同調・増幅」の考え方です。
ふたつめは、互いに補うものを合わせる「補完」の考え方。
「例えば、チョコレートのような甘いお菓子とビターな苦味のあるコーヒーを合わせていただくことで、甘味と苦味で補完し合って、それぞれ別に食べるよりも味わいに奥行きが出るような効果が感じられます」
最後が、人間の条件反射や錯覚を利用した「錯覚」の考え方です。
「スイカやトマトに塩をかけて食べるように、塩だけを口にするとしょっぱいとなるはずなのに、なぜか甘く感じてしまうという、人間の錯覚を利用した組み合わせです」
また、NGパターンもあり、対照的な味同士を合わせることは避けた方がよいと藤原さん。
「先ほど、補完の考え方で甘味と苦味を組み合せるということをお伝えしましたが、強すぎる味と正反対の味を合わせてしまうと、それぞれのよさが相殺されてしまうことがあるので、そのような組み合わせは避けた方がよいかと思います」
以上の知識を頭に入れて、早速ペアリングを体験していきます。コーヒーは〈CAFE@HOME Food with Coffee シリーズ〉6種セットのなかから4種類を、合わせる焼き菓子はすべてシャトレーゼのプレミアムブランド〈YATSUDOKI〉から提供いただきました。

① フィナンシェ・ブール・ノワゼット × CAFE@HOME with ブレッド

まず1品目は、ナッツの香りを活かしたフィナンシェと、パンと楽しむためにつくられた〈CAFE@HOME with ブレッド〉という、「同調・増幅」の効果を狙った組み合わせ。
フィナンシェに使用されているアーモンドプードルとヘーゼルナッツプードル、そしてコーヒーに主に使用されているナッツやカカオのような風味が特徴のブラジルの豆。この同じような要素を持った香りを合わせることで、お互いの風味に広がりが生まれると言います。

よりペアリングの効果を感じられる味わい方として、コーヒーをひと口飲んでから焼き菓子をひと口食べる。それから焼き菓子を咀嚼して、口の中に残っている状態で、もうひと口コーヒーを飲む方法が藤原さんから紹介されました。
実際にその方法で味わってみると、まずコーヒー自体は酸味と苦味のバランスがよく、角のない飲みやすい印象。続いて、フィナンシェをいただいてみると、バターの風味のなかにナッツの香ばしさが口いっぱいに広がります。その後、再びコーヒーを飲んでみると、先ほどのように別々に味わったときとはまた違って、それぞれの香ばしさがより引き立ち、バターやナッツの風味にも奥行きが出たような感覚を味わえました。
② 北海道発酵バターバウムクーヘン ピレネーショコラ × CAFE@HOME with チョコレートスイーツ

2品目は、カカオの風味豊かなチョコレートバウムクーヘンと、チョコレートのお菓子と楽しむためにつくられた〈CAFE@HOME with チョコレートスイーツ〉という、こちらも「同調・増幅」の効果を狙った組み合わせ。
とは言え、こちらはバウムクーヘンに使用されたカカオパウダーと、コーヒーに主に使用されているナッツやカカオのような風味が特徴のブラジルの豆という、質が似ているもの同士を合わせることで味が重なり合い、お互いの味わいが広がる感覚を楽しめるのだとか。

こちらは、しっかりとした苦味を感じられるコーヒー。バウムクーヘンはチョコレートの深いコクが特徴的です。そこに、再びコーヒーを飲んでみると、チョコレートの風味がコーヒーの酸味によって際立ちます。
「コーヒーの苦味とバウムクーヘンのカカオが持つ苦味が組み合わさることで、上質なカカオの印象に変わります。また、コーヒーの持つ酸が加わることで、ハイカカオチョコレートのような味わいも感じられませんか?」と藤原さん。
③ ケーク・オ・フリュイ × CAFE@HOME with フルーツスイーツ

続いては、ドライフルーツとナッツがたっぷり入ったパウンドケーキと、フルーツを使ったお菓子と楽しむためにつくられた〈CAFE@HOME with フルーツスイーツ〉という、こちらも「同調・増幅」の効果を狙った組み合わせ。
パウンドケーキに使用されているドライフルーツと、コーヒーに使用されているコクと乳酸系の酸味が特徴のコロンビアの豆という、酸味同士の組み合わせで味の重なり合いや、お互いの味わいが広がる感覚を体験します。

こちらは、心地よい酸味を感じるコーヒー。パウンドケーキは、ドライフルーツの酸味のなかに洋酒の香りやスパイスの風味も感じられる贅沢な味わいです。再びコーヒーを飲んでみると、お互いの酸味が合わさって、口の中全体にフルーティーさが広がっていくよう。
「ドライフルーツがコーヒーの持つ酸味を引き立て、コーヒーもパウンドケーキのフルーティーな印象を引き立てる相乗効果を感じられるのではないでしょうか」と藤原さん。
④ 半熟ガトーフロマージュ × CAFE@HOME with チーズスイーツ

最後は、2種類のチーズを使用したチーズケーキと、チーズを使ったお菓子と楽しむためにつくられた〈CAFE@HOME with チーズスイーツ〉という「同調・増幅」と「補完」、ふたつの効果を狙った組み合わせ。
チーズケーキの焦げ目の苦味とコーヒーの苦味、質が似ているもの同士を合わせることで生まれる味の重なり合いを楽しみつつ、チーズの塩味とコーヒーの酸味というお互いの味を補い合うもの同士を組み合わせて奥行きを与えることで、より立体的で深みの増す味わいを体験します。

単品では、それぞれ苦味とコクのあるコーヒーと、濃厚な味わいのチーズケーキという印象でしたが、一緒にいただいてみるとチーズのコクがより増して感じられ、甘味も増すような感覚に。
「濃度感のあるコーヒーと濃厚なフロマージュの同調効果によって、より奥行きが生まれると思います。また、チーズの塩味がコーヒーの酸味との補完効果によって、より角が取れてまろやかな印象になりませんか?」と藤原さんは説明します。
4つのペアリングを終えて、最後にこれまでのお話を通しての質疑応答タイムに入ります。多くの参加者から、普段の生活のなかで生まれるコーヒーについての疑問が投げかけられました。

例えば、カフェオレに合う豆を教えてくださいという質問。それに対して、藤原さんは「コロンビアやブラジルがおすすめ。特に焙煎度合がポイントで、深煎りが相性いいですよ」と回答してくれました。
続いて、コーヒー豆の鮮度を保つために冷凍保存するのは合っているかという問いには、「問題はありませんが、結露を防ぐため、なるべく1回分ごとに豆を小分けにしておいた方がよいです。難しい場合は冷蔵庫での保管をおすすめします」と教えてくれました。
充実した時間を終えて、参加者に感想を伺うと「普段からコーヒーをよく飲むんですが、産地によって味がどのくらい違うかなどは知らなかったので、新しい情報を取り入れたうえで飲んでみて、よりおいしく感じました」「コーヒーとスイーツの合わせ方を理論に基づいて学べたので、これから参考にしたいと思いました」などの声が聞かれ、とても満足している様子がうかがえました。
photo_Hikari Koki text_Mae Kakizaki



















