ふっくらジューシーな鯖は、一度食べたらヤミツキに! 「もの凄い鯖」を食べられるお店とは?いま話題の「もの凄い鯖」、ラブコール続出中!
今や、入手困難。今ドキ食堂からレストランまで大人気の、ものすごい鯖があります。ふっくらジューシー、異次元のおいしさのヒミツを探りに、茨城へ。
大人気の「もの凄い鯖」のものすごさはどこにある?
東京から車で3時間余り。茨城の海沿いの小さな町・波崎に、目指す〈越田商店〉はあった。「もの凄い鯖」を作り続ける、ものすごい町工場だ。いや、超優秀な町工場みたいなスピード感と緻密さとユニークさを持つ干物工房である。創業は1947年。現在の主は、3代目の越田英之さん。
ともかく、「もの凄い鯖」というネーミングに心惹かれ、鯖の概念が変わるほどのおいしさに震え、そのナゾを探るべく、どうしても製造現場を見学したくなったのである。もちろん、ただ押しかけたわけではない。この鯖の名付け親であり、各方面との太いパイプ役を果たす堀田幸作さんにご案内いただいたのだ。
中には大きな木の作業台があって、越田さんと娘さんの朱華さん、4代目の竜平さんが、一分の隙なく、まるで武士の立ち合いのような緊張感の中で仕事をしていた。英之さんが、ものすごい勢いで鯖をさばいていく。1尾につき、ほんの4〜5秒。頭を落とした半解凍の鯖の中骨ギリギリに包丁を入れ、骨にジャリジャリと包丁が当たる音を立てながら、あっという間に三枚におろす。骨は骨のみ。身はまったくついていない。身の側を見ると、骨の間が白く点々と見える。それが骨髄だ。この骨髄も大切な旨みの要素となる。鯖はノルウェーで9月の第3週あたりの、脂がのっている状態のいいものを1年分一括購入。前日の晩に大きさを選別済みである。
おろした鯖は、朱華さんが内臓を取り除く。それを水洗いし、漬け汁に漬けるのは竜平さんだ。この漬け汁こそ、〈越田商店〉の宝、「ものすごさ」のヒミツなのである。塩を継ぎ足し継ぎ足し、使い続けること46年。底からすくうと、中から塩などが湧いてくる。最初は塩だけだったのだが、そのうち、鯖から出てくる旨みエキスが液状になり、熟成したものだ。
「年月が経って角がとれ、塩が枯れて(熟成して)滑らかになってるの。なめてみるかい?」と、越田さん。ホントだ、まろやかぁ。しかも生臭みゼロ。なぜ?「最近わかったんだけど、酵母菌や乳酸菌などが48種も含まれているんだって。中には、チーズの発酵に使う菌や新種の菌までいたんだよ。そのおかげで塩が旨みに変わっていったみたい」
鯖の大きさや、その日の気候条件によって漬け込む時間は変わるが、この日は30分。漬け込んだら竜平さんが外に持ち出し、天日に干す。鯖と漬け汁と太陽のセッションが織りなす極上の味。こうして、1日2000尾の「もの凄い鯖」が誕生していく。
今でこそ入手困難なほどの人気だが、かつて、この漬け汁を捨ててしまおうかと思った時期もあった。「切磋琢磨した仲間たちが、どんどん離れていってね。ご飯離れとともに売れなくなったし、生臭みのない魚を求めてた人が多かったんだ。悩んで悩んで、じいさんのお墓にすがりに行ったこともありました」
踏みとどまったのは、東京・高田馬場の食堂のおばちゃんからの一本の電話だった。おたくの鯖じゃないとダメというお客さんがいる。すぐに送ってほしい、という内容だった。うれしくってうれしくって、すぐさま鯖を運んだという。「この鯖でなきゃ、というお客さまがいる限り、この漬け汁で作り続ける」。越田さんの新たな一歩が始まったのである。「もう、感謝しかない。お客さまはもちろん、みなさんのおかげで今がある。精一杯の思いを込めて作る。それがすべてです」
「もの凄い鯖」を食べられるお店とは?
現在、生産が追いつかない状態だが、フレンチやイタリアンなど食べられる店舗は40軒以上。
なかでも注目は「もの凄い鯖」だけの塩焼き専門店〈鯖なのに。〉。このプロジェクトが始まったきっかけは、めずらしい、鯖の塩焼きに出会った社長が「これだ!」と思ったその時、「もの凄い鯖」を知った社員が偶然、鯖の話を持ってきたことからなのだとか。
昼は2階の相席テーブルで定食が食べられ、夜は1階を立ち飲みスペースにして、鯖をつまみにお酒も楽しめる。魚臭い匂いもないとリピーターも多い。昼はお弁当(700円~)も販売している。「鯖の塩焼き定食」1,000円
お味噌汁は具だくさんで旬の野菜おばんざいもついている。ぜひ、お試しあれ。
(Hanako1156号掲載:photo : Kenya Abe, text : Michiko Watanabe)