「27年間で3000食は食べてる」YOU常連のカフェ〈BOWERY KITCHEN〉の魅力
山本宇一とYOUが見た、レジェンドカフェの27年間。
駒沢公園通りにある〈BOWERY KITCHEN〉(以下バワリー)に入店するやいなや、店のスタッフたちと談笑を始めるYOUさん。その光景を微笑みながら見守る山本宇一さん。お互いのことをういちゃん、YOUちゃんと呼ぶふたりは同世代で、同じ時代を過ごしてきた昔からの遊び仲間。オープン当初から変わらず〈バワリー〉に通い詰めるYOUさんのように、この店に魅了されて長く通う人は多い。「ここはカフェではなく東京の食堂」と山本さんは言うが、〈バワリー〉の存在は、東京のカフェに大きな影響を与えてきた。地元の人がここで日常を過ごし、遠方からもこの店を目指して人が集まってくる。それは27年経った今も変わらない。どうして〈バワリー〉は、こんなにも人々に愛されるのか…。その理由は、ふたりの会話の端々に盛り込まれていた。
やまもと・ういち/東京都出身。〈BOWERY KITCHEN〉、表参道〈Lotus〉などのオーナー&プロデューサーで東京カフェ文化の立役者。
ゆう/東京都出身。モデル、バンド「FAIRCHILD」のボーカルとして活動後、タレント、俳優として幅広く活躍。
YOUちゃんとは、共通の友達も多いし、ここができる前からの長い付き合いだけど、こうやって対談するのは初めてだよね。
もう遠い昔のことだし、いつ出会ったかなんて覚えてないよね。みんな同じようなところで遊んでばかりいたから「はじめまして〜」とか挨拶することなく、気づいたら仲間になっていた。うちらが最初に会ったのは、たぶんどこかのクラブか、ういちゃんがバイトしていた青山の〈SARA〉か…。
そうだね。〈バワリー〉を始める前に、飲食業の経験が全くなかったから24時間営業のレストラン〈SARA〉でバイトしてたんだよね。そこは夜遊び好きの人たちが集う場所で、西麻布の〈SPACE LAB YELLOW〉とか、クラブ帰りの仲間たちがどんどん流れてきて、朝の7時ぐらいには知り合いだらけになることも多かった。
当時のクラブキッズはみんな〈SARA〉でごはん食べてから帰ってたよね。踊りまくるからお腹が減るんだよ。〈SARA〉までたどり着けない時は南平台の〈デニーズ〉に行くか。朝方ごはんが食べられる場所は当時本当に少なかった。
でも僕は、渋谷とか西麻布とかで店をやる気は全くなかった。家賃も高いしね。駒沢周辺は幼少期に、父親によく車で連れてきてもらった場所で、なんとなくいいイメージを持っていたからここらへんで物件を探してね。当時は周辺に飲食店はほとんどなかったけれど、この店を内見している時に外車がいっぱい通ったから、感度が高く、遊びが分かる人が住んでいる街だからいけるかもと思った。
そうそう、遊び仲間もこのへんに住んでいる子が多かったから、〈バワリー〉ができた時はみんな「やった!」と大喜びしてた。そしたらあっという間に、人の流れが変わった。
車で来る人も多くて、店の前に車が並ぶの。数えたら30台停まっていたこともあった。
通報されないの?
当時はそこまで駐禁に対して厳しくなかったからね。でもレッカーで移動されないように30分ごとにスタッフが駐禁チェックしてた (笑)。
今じゃ考えられない…。
夜もお客さんが絶えなくて、最初は深夜3時閉店にしたんだけど、深夜2時を過ぎても行列ができていたから、4時閉店に延ばしたんだ。
YOUちゃんは家族や友達と来ることが多いよね?
うん。私の息子がちょうど今27歳だから、生まれた時からカゴに入れて連れてきた。
息子さんはここのごはんを食べて大きくなったもんね。
だって〈バワリー〉は何といってもごはんがうまい!私なんてこの27年間で3000食は食べてると思う。
世間ではカフェブームの草分け的存在とか言ってもらえるけれど、僕が作りたかったのは食堂。メニュー表にも「東京の食堂」って書いてあるしね。
ういちゃんのお母さまが書いた文字なんだよね。
そう(笑)。〈バワリー〉のメニューはパスタもあれば、チャーハンもあるし、スープもある。家庭の献立みたいに。
ジャンルに縛られない自由さがいいの。肉や魚料理も豊富だし。私がよく食べるのはミートソースフィズィリとハンバーグ。これは本当に最後の晩餐にしたいぐらい。それ以外も何を食べてもうまい! 本当何か変なものが入ってるんじゃないかって思うぐらいの中毒性。
何も入ってません(笑)。オープン当初からうちのごはんを作ってくれているふたりのシェフは〈SARA〉で知り合ったんだけど、その前にフレンチのシェフとかもやってたから何でも作れるんだ。メニューは70種類以上はあるんじゃないかな。
ファミレスより多いよね。定番メニューがあって、そこに新しいメニューがぽつぽつ増えていく感じ。そのほかにパンケーキやデザートもあって、アルコールも飲める。お茶しに来て、お腹空いたからごはん食べて、そのままお酒飲んで、気づいたら半日いるとか。様々なシチュエーションで便利に使える。
お客さんが長くいると、お店も寂しくならないでしょ。
その自由さが気に入って、一度来たらリピーターになるから、ファンがどんどん増えていく。我々の遊び仲間が、毎日〈バワリー〉に来たいからってこの近くに引っ越してきたぐらいだもんね。その人は今も1日5回ぐらい来てるんじゃないかな。私もそうだけど、みんなここが自分の家だと思っている。
芸能人もそうじゃない人もみんなフラットで、ここは誰もがニュートラルに過ごせる場所かもしれない。都心から少し離れているし、駒沢公園も近いから、みんなモードがオフになっている感じもいい。
私はクーラーがガンガンあたる入口に近い場所がお気に入りの席。外から丸見えだけど、お客さんも気さくな人ばっかりだから、ここで知り合った人もたくさんいるしね。スタッフの子たちも適度にほうっておいてくれるから居心地もいい。
そういう人間関係が店の中でしっかりできてはいるかな。
ういちゃんの姿勢から学んでいる部分が大きいんだと思う。そういえば昔、3人の新人ちゃんが入った時、赤いストローを店内の壁のあちこちに貼ったことがあったよね?
テーブルごとに赤いストローを貼ることで、それがチェックポイントになり必然的にお客さんが視界に入るから、何か必要なものや、さげるものはないか確認しやすくなるという…。
あれは面白かった。そうやって学んでいくことでスタッフも接客を楽しんでいる感じがしたもん。〈バワリー〉は、「雰囲気がよくて、ごはんがおいしくて、人がいい」。この3拍子が揃う店って、そうそう見つからない。幅広い世代の人はもちろん、子供やペットも来るし、垣根がない社交場みたい。それがカフェというものなのかな?
〈バワリー〉は自分の価値観を持っている人がたくさん集まる場所。職業も世代も異なるけれど、お店が持つ独特な価値や軸に寄り添った人が来るから、偶然隣に座った者同士で会話が弾んだり、何かが生まれたり。来る人が変わっても、27年間それが繰り返されてきた。そういう楽しいことが自然と起こる場所のことをカフェというならば、〈バワリー〉もそうなのかもしれないね。
住所:東京都世田谷区駒沢5-18-7
TEL:03-3704-9880
営業時間:11:00(土日祝10:00)~24:00
定休日:無休
席数:53席
1997年オープン、カフェブームの草分け的存在。東急田園都市線駒沢大学駅から徒歩約17分という立地ながら、昼夜多くの客でにぎわう。