食体験からその人の魅力を紐解く。
タレント・YOUの〈味の履歴書〉

FOOD 2024.06.12

その人の食体験を知れば、その人の魅力がもっと見える。YOUさんの〈味の履歴書〉を紹介します。

親になって初めて気づいた、母から受け継がれていた食育。

パンと菓子だけでよかったが、食の転機は出産後。「体は食べ物でできている! と私が言うなんて」と立ち返るのは親心。

YOUさんから語られる「味の履歴書」は、東京のカルチャーをたどる旅のようなもの。誰もが憧れるトレンドのど真ん中にいながらも、YOUさんの〝舌〟を射止めたのは、意外にもクラシックで実直な食ばかり。そのコントラストがなんとも興味深い。

家のゴハンがおいしくないと気づいてしまった幼少期。

「母は2、3年前に他界したんですけれど、おいしいものを作るとか、料理が好きな人ではなかったんですよ」と幼少期を振り返るYOUさん。
「小学校高学年になると、友達の家でごちそうになる機会も増えてくるじゃないですか? 比較対象ができたことで、母の料理があまりおいしくないことに気づき始めたんですね。家でパンやお菓子を焼いたり、おせちを作ったり、満遍なく料理はできる。でも、味にこだわりはない。探究心がないっていうのかな。20種類くらいのレパートリーをローテーションするのが我が家の食卓で、残念ながら印象に残っている母の味ってないんですよ。ただ、化学調味料や冷凍食品を使うことは一切なくて、母なりに栄養面や体のことを考えて、ちゃんと手間をかけて作ってくれてはいたんだろうなと」

反抗期もあって、母の手料理に敢えて意見することもなかった。食に興味が湧くのも、母に感謝するのももう少し先の話。
「数少ない大好物がパン。小1くらいで出会ったメロンパンは大人になるまで食べ続けたし、スナックパンは袋ごと〝抱え食い〟して、家にストックがないと不機嫌になったほど」

1971 メロンパンに開眼。ブームは20歳まで続く。

とにかくパンが好きな子どもだった。愛してやまないのは昔ながらのメロンパン。クッキー生地のフチが分厚く、中身は味気なくただ白いだけ、それがいい。
1971 メロンパンに開眼。ブームは20歳まで続く。


とにかくパンが好きな子どもだった。愛してやまないのは昔ながらのメロンパン。クッキー生地のフチが分厚く、中身は味気なくただ白いだけ、それがいい。

ハンバーグに誠実な店なら、何を食べてもおいしいはず。

会社勤めの父は、平日は仕事で土日はゴルフ。ゴルフのない日曜には家族で外食するのが恒例だった。当時、まだできたばかりだった〈京王プラザホテル〉でハンバーグステーキを食べる。子ども時代のごちそうだった。
「フォークとナイフで食べる優越感も芽生えつつ、それ以来、どこの店に行っても頼むのはハンバーグとオレンジジュース。大人になった今も、初めて訪れるお店ではまずハンバーグを食べます。ハンバーグがおいしければ、ほかのメニューもきっと間違いないはずですから」
 ハンバーグへの信頼は絶大だ。チーズが入ったものや、熟成肉を使ったものなど、手が込みすぎたり奇をてらったりしたタイプは苦手。あくまで好みの話だが、シンプルに肉質と味付けと焼き加減の調和が重要だという。

幼少時代、日曜はときどきホテルのレストランへ。ハンバーグ&オレンジジュースが定番で、ナイフとフォークを使う食事が子ども心に誇らしかった。
幼少時代、日曜はときどきホテルのレストランへ。ハンバーグ&オレンジジュースが定番で、ナイフとフォークを使う食事が子ども心に誇らしかった。

バブル時代は財布いらず。食の世界が開けていった。

原宿でモデルとしてスカウトされたのが1983年。高校時代は原宿・竹下通り、20代になると西麻布のディスコやクラブで朝まで遊び倒す日々。
「もうなくなっちゃったけど、夜遊びのあとに青山の〈SARA〉でゴハンを食べてから、朝、家に帰って寝る。で、夕方に起きてまた遊びに出かける。20歳くらいの頃はバブル景気で、大人たちが立派なレストランで毎晩ごちそうしてくれました。その流れで、憧れの〈キャンティ〉に連れて行ってもらって。ユーミンを聴いて育っているから、都会のカッコいい人たちが夜な夜な集まっている場所にめちゃくちゃ緊張しました。今は、海外から帰ってきた友達と落ち合ったりすることが多いかな。たまに行くと、いまだに変わってないことに感動します。食事だけじゃなくて雰囲気も楽しめる店って、案外ないじゃん。憧れの場所が今も特別なままでいてくれるってすごいことだよね」
 キャリアは歌手、タレントへ。バンド仲間から〈名代 富士そば〉を教わった。中でもコロッケそばの衝撃は今でも忘れない。「『ダウンタウンのごっつええ感じ』に出演中は、ダウンタウンのおふたりがお酒を飲まなかったし、お忙しい。だから収録終わりの朝方、共演者の西端弥生さんとプロデューサーの3人で〈カフェ ラ・ボエム〉へ繰り出してました」。〝大ブラック〟時代、自炊とは無縁で、自分のためには何一つ作らなかった。彼氏が家に来たときに料理をするくらいで、そのときも決まってハンバーグ。ブレないのだ。

1985〈キャンティ〉に集うのは都会のカッコいい大人たち。

思い出の店がどこもかしこも改装される中、変わらぬ佇まいに特別感と安心感を覚える。食事はもちろん、一緒にいる人と雰囲気を楽しむ店でもある。
1985〈キャンティ〉に集うのは都会のカッコいい大人たち。


思い出の店がどこもかしこも改装される中、変わらぬ佇まいに特別感と安心感を覚える。食事はもちろん、一緒にいる人と雰囲気を楽しむ店でもある。

子どもが生まれた。せめて安心できる食材を。

1997年、息子を出産。その頃はとにかく仕事が忙しかった。さらに幼稚園から高校までお弁当持参だったので、「義理の姉の協力なしには乗り切れなかった」と振り返る。とにかく暑いのが苦手なので、夏になると水着のトップスにエプロンをつけた妙ちくりんな姿でキッチンに立ったことも。
「不思議なんだけど、母がそうしてくれたからなのか、私も料理をするときに冷凍食品や化学調味料は使わないんです。別に使ってもいいし、悪いものとも思ってないけれど、使わないという選択をしてきた。食の基盤のようなものは、母から刷り込まれているんでしょうね」
 実は化学調味料を摂るとYOUさんの顔はパンパンに腫れる。その体質を知ったのは親元を離れてから。「外食の翌日に顔が腫れてないと、いい店(笑)」。母はちゃんとしたものを食べさせてくれていたと気づいたときには、もう大人だった。
 出産と同時期、昔からの仲間の空間プロデューサー・山本宇一さんが〈バワリーキッチン〉をオープン。「死ぬ前の最後の晩餐なら、〈バワリー〉でハンバーグやミートソースフィズィリを食べたいくらい好き。おいしいものにたくさん出会ってきたけれど、最後は食べ慣れたものが一番だし、日常の中のリアルな食事こそ大事だから」
 最近、息子がついに自炊するようになったが、産地のよくわからない食材を買ってくることがあり、親としては心配に。
「できるだけ自然な食材を買い与えたくなるわけで。料理するなら冷蔵庫にあるものを自由に使ってねと伝えて、平飼いの卵や、野菜と肉も安心できるものを買い込んで、冷蔵庫にぎっしりと詰め込んでいます。まさか自分が『体は食べ物でできてるんだから!』なんて言う日が来るとは思わなかったよね(笑)」

2001 夏のお弁当作りは、水着にエプロンが日常。

息子の友達が遊びに来たときも同様で、この姿で唐揚げやチャーハンを作り大皿にどっさり盛る。一人っ子のYOUさんにとって、大皿料理は憧れてやまないもの。

2001 夏のお弁当作りは、水着にエプロンが日常。


息子の友達が遊びに来たときも同様で、この姿で唐揚げやチャーハンを作り大皿にどっさり盛る。一人っ子のYOUさんにとって、大皿料理は憧れてやまないもの。
1997 最後の晩餐をするなら〈バワリーキッチン〉。

「どれを食べてもハズさない」と太鼓判。中でも肉の旨味しっかりの「ミートソースフィズィリ」は、人生最後の一食に挙げるほど、食べ慣れたホッとする味わい。
1997 最後の晩餐をするなら〈バワリーキッチン〉。


「どれを食べてもハズさない」と太鼓判。中でも肉の旨味しっかりの「ミートソースフィズィリ」は、人生最後の一食に挙げるほど、食べ慣れたホッとする味わい。

上京してきた若者たちを東京のおいしいお店へ。

息子はもちろん、若いコたちの食生活が気になって仕方ない昨今。お気に入りの店に人を連れて行くこともよくあり、〝おいしいの輪〟を広げるのも楽しい。「あ、もちろん人は選びますよ」と、抜かりないのもYOUさんらしい。
「いいヤツなんだけど、うるさかったり、下品な人もいるじゃない?(笑) お店にふさわしいかどうかはチェックします」
〝おばと甥〟の契りを結ぶ、藤井隆さんはグルメ仲間でもある。
「隆はね、ご両親もお兄さんも料理上手。お母様の白和えなんて絶品でね。隆が独身のときは、よくゴハンを作ってくれたの。餃子を焼いてくれたりしてね。おいしいものが好きな人だから、おすすめしてくれる店も信頼できる。教えてもらった汐留あたりの小料理屋もおいしかった」
 すっかり大人になった息子とも飲み屋情報を共有するようになった。食に無頓着だったYOUさんの子とは思えないくらい食に貪欲で、「住んでいるエリアについては、むしろ彼のほうが詳しくて、最近は教えてもらうことが多いんだよね」と言う。
 不定期で出演しているフードバラエティ『人生最高レストラン』で、ゲストが紹介した店に実際に足を運ぶこともある。
「森泉ちゃんが紹介してくれた〈ルイ プリマ〉は、あの森家の御用達ということですぐさま行ってみて、今ではすっかり行きつけ。知った顔がいる安心する店も必要だけれど、それだけじゃ面白くないよね」
 我が道をいきながらも、軽やかでフレンドリーに食を楽しむ姿は、YOUさん自身の生き方そのものにも重なるようだ。

2024 「森家の御用達」が今や自分自身の行きつけに。

不定期出演中のフードバラエティ『人生最高レストラン』で、ゲストの森泉さんが紹介したレストラン〈ルイ プリマ〉に足繁く通う。番組をきっかけに、新規開拓することも多いとか。
2024 「森家の御用達」が今や自分自身の行きつけに。

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illustration_Mihoko Otani text_Hazuki Nagamine

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