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“おいしい”のその先を求めて。Meet the Chef おいしくてカラダが喜ぶものが食べたい! ワガママな私の願いを叶える魔法のスリランカカレー
ジュワッと体の隅々に広がる幸せ。本当においしい料理を口にした時にだけ味わえるこの感覚は、けっして価格や食材の良し悪しだけではなく、作り手が歩んできたヒストリーや、その中で醸成されてきた料理への想いが生み出しうるもの。様々な視点から“おいしいをデザインする”星子莉奈さんが、“おいしい”の先を求めて、極上の料理と作り手の素顔に迫ります。今回はご夫婦で営むスリランカ料理の専門店〈SERENDIB〉にお邪魔しました。
蔵前で見つけたリトルスリランカ
蔵前のグルメストリートこと国際通りに面した〈SERENDIB〉は、ご夫婦で営むスリランカ料理の専門店。ランチタイムには本場スリランカの味わいをそのまま再現したスリランカカレーを求める女性たちが押し寄せ、連日行列ができると噂。

やみつき感のある親しみ深い味わいに夢中になり、週に何度も通い詰めている常連さんも少なくないんだとか。今回は母国の味で見事に日本人の胃袋を掴んだスリランカ出身のシェフ、ラヒル・タラカさん、パートナーの金澤恵美さんにお話を伺いました。

“健康な未来を育む食事を提案したい”という想いをカタチに
前職は製薬会社に勤め、がんの治療薬を担当していたという恵美さん。
「治療の大変さをよく知っていたので、病気になる前に何か予防できることはないのかなと思って、色々調べていたらアーユルヴェーダに行き着いたんです。アーユルヴェーダでは不調を整え、病気の予防をするのに食事はとても大切な要素だと教えられました。
特に甘味、酸味、塩味、辛味、苦味、渋味の6つの味をバランスよく摂取すると食事の満足度が高まり、健康にも良いと言われています。ちょうどスリランカカレーがその条件に当てはまっていたので、夫にスリランカカレーをメインにお店をやりたいと相談したら、二つ返事で承諾してくれました。」
こうして生まれた名物のスリランカカレーには、タラカさんが幼い頃から親しんできたお母さんの味を再現したカレーとアーユルヴェーダの要素を取り入れた副菜がたっぷりと盛り付けられています。運ばれてきた時に漂うスパイシーな香りとカラフルなビジュアルに魅せられ、私も一目惚れ。
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
この日は4種の個性豊かなカレー(じゃがいものカレー・ビーツのカレー・鶏肉のカレー、ダール(レンズ豆)のカレー)があいがけに。お米はバスマティライスというインド米と、スリランカの赤米が入っており、赤米はGI値が低くミネラルと食物繊維が豊富なので糖分を気にする方におすすめとのこと。
副菜にはケールのサンボル、ココナッツのサンボル、ブロッコリーのマッルン(ココナッツ炒め)、パパダンという豆の煎餅が加わり盛り沢山。
「サンボル」や「マッルン」など日本では聞き慣れない言葉ですが、サンボルはココナッツ、ライム、塩、ブラックペッパーで食材をシンプルに和えたもの、マッルンはココナッツを加えてサッと炒めたものを意味します。
いずれもスリランカでは定番の家庭料理なんだそう。スリランカではココナッツを料理に用いることが多く、どの家でもココナッツを育てていて、必要があればすぐに庭の木からとってくると言います。
タカラさん曰く、日本でいうところの《味の素》のような万能調味料で、スリランカの食卓にはなくてはならない存在のようです。
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これだけ具沢山だとなにから食べたらいいの?と迷子になってしまい、ごちゃ混ぜにしてしまう人もいるそうですが、自分の好きな具材を少しずつ寄せ集め、口へ運ぶのが正解。好きなものをちょっとずつ手掴みで食べる現地の食べ方に寄せて味わって欲しいとのこと。
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巧みなスパイス使いの虜になり、一口食べるともう一口、と止まらなくなり、気がついたら完食しているというのがお決まりのパターン。食べた直後はしっかり満腹感を得られるのですが、消化を促進するスパイスの効果もあってか夕方頃にはちゃんとお腹がすいています。
スタイルと味わいはスリランカ、食材は日本の旬のものを
「お店を立ち上げる前はホテルで働いていました。料理は未経験だったので、母を手本に見様見真似で作ってみようと思いました」(タラカさん)。
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故郷の村でも料理上手と評判のお母さんが作る味を忠実に再現するため、作り方はもちろん、スパイスの調合や分量を教えてもらい、タカラ家秘伝のカレーをそのまま再現しているんだそう。
唯一日本向けにアレンジをしているのは、ルーを多めに入れていること。
「スリランカでは手掴みでカレーを食べる習慣があり、ルーがほとんどないので、そこは日本人の方向けに調整しています。」
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また、季節にあわせて現れる体の不調を改善する旬の日本食材を取り入れるのもこちらならでは。
「冷えが気になる寒い時期には体を温める南瓜、季節のうつり変わりの時期には免疫力を高めるブロッコリーを、という感じでその時々の旬食材を楽しんでもらいながら健康に繋がるメニューを考えています」
恵美さんはその食材が持つ効能についてインスタグラムを使って発信していて、「食材の持つ力やメリットを伝えることで、お客さまにカラダが喜ぶ選択をしてもらえたら嬉しいなと思っています」と想いを語ってくれました。
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扉を開くとスリランカ愛あふれる空間が広がる
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店名の「セレンディッブ」とは、スリランカの昔の国名にセレンディピティという造語をかけ合わせ、名付けたそう。「偶然手に入れた幸せ」と言う意味を持つセレンディピティのように、スリランカの食文化を知らないお客さまが、スリランカカレーに出合って幸せを感じてくれたら嬉しいという想いが秘められています。
本場の味わいにこだわったスリランカカレー、もちろん“味わう環境“にもこだわりが。現地感を演出している置物や器は、そのほとんどがスリランカから取り寄せたもの。ギョロっとした目が印象的なお面は現地の伝統舞踊でかぶるもので、魔除効果があると言い伝えられているそう。
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シーサーの横に山積みになっている器はワランと呼ばれるスリランカの素焼きの器。向こうでは巨大なワランでカレーを作ったり、食事を盛り付けて食卓に並んだりと、古くから親しまれているようです。
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一点一点表情が違うクラフト感のある器が素朴でかわいいこと。こちらは夜のおつまみメニューを提供する際に登場します。
“食べることは整うこと”だと教えてくれた一軒
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「おいしいものは食べたい、けれど体に悪いものはできる限り控えたい。健康的なものは好きだけれど、おいしいと思えないものは食べたくない」。そんな、ワガママな私の願いをすべて叶えてくれた魔法のカレー。
食べ終わる頃には体温が上がり、額にじわり汗を感じます。この体の変化に気がついて、なんだかとても優しい食体験だなぁ…。と、しみじみしてしまう。みなさんもお二人の元へぜひ足を運んでみてくださいね。
INFORMATION
今回うかがったお店:SERENDIB
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場所:〒111−0042 東京都台東区寿3−8−3-1F
営業時間:ランチ 11:30〜14:30、ディナー 18:00〜22:00(ラストオーダー 21:00)
定休日:毎週火曜日(その他不定休あり)※土曜、日曜、祝日はランチのみ営業
TEL:03-6231-7325
公式HP:https://www.serendib.jp/