食通が集う池尻大橋の秘密基地〈ビストログルトン〉の小更耕司さん|星子莉奈のMeet the Chef

FOOD 2023.01.17

レストランのプロデューサーやディレクション、PR、ライターとして活躍する星子莉奈さんが、気になる店のシェフをクローズアップする短期連載。第2回は、池尻大橋にあるフレンチレストラン〈ビストログルトン〉の小更耕司さんの登場です。

〈ビストログルトン〉の小更耕司さんにインタビュー

食通が集う池尻大橋の秘密基地〈ビストログルトン〉の小更耕司さん|星子莉奈のMeet the Chef

みなさんこんにちは。年末年始はいかがお過ごしでしたか?私は元旦から韓国へ食い倒れ旅行に行ってきました。サムギョプサルやカンジャンケジャンといった韓国料理を心ゆくまで堪能し、ここ数年の韓国欲ならぬ韓国食欲がようやく満たされたお正月でした。

さて、本日の主役は池尻大橋にお店を構える〈ビストログルトン〉の小更耕司シェフです。

パリっぽさを演出する絵画。
パリっぽさを演出する絵画。

〈ビストログルトン〉は、日本を代表する三ツ星レストラン〈ジョエル・ロブション〉で腕を振るった小更シェフが、奥様と2人で2014年にオープンしたフレンチビストロ。
真っ赤な壁とシックな緑のいす、そしてキャッチーな絵画が、どこかパリのビストロを思わせる雰囲気たっぷりの店内には、夜な夜な食いしん坊(=フランス語でグルトン)な“池尻ジェンヌ”が集まります。

店名は、フランス語で食いしん坊を意味する「GLOUTON」。
店名は、フランス語で食いしん坊を意味する「GLOUTON」。

扉を開けるとカウンター越しに温かい笑顔の奥様が迎え入れてくれ、そっと優しい接客でゲストを和ませてくれます。グルトンのごちそうと奥様の接客に胃袋と心を掴まれ、1人で通う常連さんも多いのだとか。

カウンターは全8席。
カウンターは全8席。

「レストランは空間が1番大事」と語る小更シェフ。ゲストに心地よい時間を過ごしてもらえるようにと、カウンター席には工夫が詰まっています。
「わずか9坪と小さなお店なので、窮屈さを感じさせない店作りを意識しています。カウンターの仕切りをなくし、余計な物は一切置きません。それから、お客さまとの目線も大事にしています。通常は調理場の方が高くなってしまいますが、見下ろすでも見上げるでもない、フラットな高さになるよう調整してもらいました。その方が親しみやすくて、リラックスできるかなと」。
どこまでもお客様目線でお店作りに取り組まれているのが伝わってきます。

黒板の定番メニューのほか、シーズン毎の隠れメニューも。
黒板の定番メニューのほか、シーズン毎の隠れメニューも。

お客様への思いやりから生まれるこだわりは、メニューにも。
「黒板に書かれたメニューはオープンのときからほとんど変えていません。次に来たときはアレをたべよう!と心に決めているお客様の楽しみがなくなっちゃうでしょう」。

全メニューコンプリート宣言中の私。
全メニューコンプリート宣言中の私。

小学生の頃には料理の道へ進もうと心に決めていた、と語る小更シェフ。しかも、きっかけはテレビ番組だというから驚き!
「『料理天国』という番組が大好きで、毎週楽しみに母と観ていました。今まで自分が食べたことのない料理がたくさん登場して、興味が沸いたんです」。
『料理天国』の番組監修をしていたことが決め手となり、辻調理専門学校へ進学。卒業後は乃木坂の〈Restaurant FEU〉で4年間修行し、渡仏。フランスではブルゴーニュ、ルクセンブルク、ブルターニュのレストランで経験を積み、帰国後、〈タイユバン・ロブションのカフェフランセ〉に入社。その後、知り合いのお店を転々とし、〈ジョエル・ロブション〉へ。
「ロブション時代に、料理の構成を複雑にしないという教えが身に付き、今でもシンプルでわかりやすい直球料理を作ることを心掛けています。手間をかけ過ぎず、お皿の中に詰め込みすぎない。それから、ネーミングと料理がきちんと一致するのも大切にしているポイントです」。
視覚も味わいも明瞭でシンプルだけど、とびきりおいしい。グルトンでいただくお料理のどれもが、確かにそうでした。

思わず目を輝かせてしまう、大変リッチな「カニクリームコロッケ」はグルトンの看板メニュー!カリッと薄めの衣にナイフを入れて、まずは断面図にうっとり。生まれてこの方、こんなにぎっしりと身が詰まったカニクリームコロッケに出会ったことがない…。ワタリガニからとった濃厚なビスクソースをたっぷりと衣につけてパクり。ビジュアルが物語るように、蟹の旨味たっぷりで口福感に包まれます。

「カリフラワーのムース 蟹と雲丹のコンソメジュレ」 ※3月末までの事前予約必須メニュー。仕入れ状況により提供できない場合がございます。
「カリフラワーのムース 蟹と雲丹のコンソメジュレ」 ※3月末までの事前予約必須メニュー。仕入れ状況により提供できない場合がございます。

こちらは、初来店の際に度肝を抜かれた「カリフラワーのムース」。このムースは、小更シェフがロブション時代に担当していたカリフラワーのブランマンジェからインスピレーションを受けて開発したそう。ふわふわのカリフラワームースの下には、蟹と雲丹の具だくさんなジュレがお目見え。カリフラワーの繊細で優しい味わいと魚介の旨味が絡み合う逸品です。

「白菜とブルーチーズのグラタン」。
「白菜とブルーチーズのグラタン」。

こんがりとおいしい焦げ目が愛おしい、「白菜とブルーチーズのグラタン」。定番のフランス料理であるチコリとハムのグラタンをアレンジした、ここでしか食べられないオリジナリティあふれるメニュー。濃厚なブルーチーズの味わいがダイレクトに楽しめる、ワインと好相性な1皿。

真剣味を帯びた表情で語る小更シェフ。
真剣味を帯びた表情で語る小更シェフ。

「自分らしい、変わらないものを大切にしたいんですよね。作り続けるうまさってものが、やっぱりあると思います」という一言が印象的。お話の中で、ベースは同じものを作り続けながらも、日々ブラッシュアップを重ねられている様子もうかがえました。

手作りの自家製パン。
手作りの自家製パン。

最近も、お店で手作りしている自家製パンをソースが染み込みやすくなるように、あえてキメを粗くしたそう。先ほど登場したカリフラワーのムースも、元々は流し込んで固めていたものをエスプーマで絞りたてを出すように仕様変更し、食感に変化を与えています。スタイルは決してぶれず、マイナーチェンジしながらおいしさを追求するのが小更スタイル。

女性1人でもふらりと立ち寄れる気軽さもうれしい。
女性1人でもふらりと立ち寄れる気軽さもうれしい。

いつも変わらぬおいしさで受け止めてくれる安心感は、小更シェフの弛まぬ努力と強い意志によって生み出されているもの。1日の終わりに、迷いなくおいしいものが食べたい夜はグルトンへ。小更シェフ、ありがとうございました。

〈ビストログルトン〉

■東京都世田谷区池尻2-33-7
■03-3410-5517
■18:00〜22:00(21:00LO)
■日、第3月休

photo:Wataru Kitao

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