代々木八幡〜代々木上原『坂の街の重なりと境界線はどこ』/高野ユリカ 第7回 だれかの住む街と菓子

FOOD 2022.11.16

写真家の高野ユリカさんが写真と文で綴る新連載。街や建築についてのお仕事をフィールドワークとする高野さんが、街を歩いて見つけたスイーツを切り口に“街と菓子”を語ります。

代々木八幡から代々木上原は地図で見ていると、なんとなく平らな街に思えるけれど、歩いてみるとなんて坂の多い街なんだと足首の角度で実感する。小田急線の高架下を潜くぐってたくさんの人が行き来しているのを見たり、井の頭通りの坂を上ったり下ったりしていると、緩やかに二つの街が繋がっていて、どちらの街の空気も似ているし、はたから見ていてもとても仲の良さそうな街。

代々木八幡で早朝からの撮影日、予想よりも早く終わったので、〈PATH〉の朝ごはんが食べたいと思い足早に向かった。すでにほぼ満席状態の店内のカウンター席に一人滑り込む。店先ではお店の方がクロワッサンの生地をコロコロと丸めている様子がとても可愛い。注文するとすぐに運ばれてきたカヌレ(流行りにいつも乗り切れないタイプの人間なので、〈PATH〉のカヌレは私にとっての人生初カヌレとなった…)は、外がかりんとうみたいな照り感でカリカリ、中がむにゅっとしていてフレンチトーストの中身みたい。後から外側の香ばしさが残るのいいな。食べながら横目にお店の前の通りを眺めていると、地元の方かなという白いTシャツにピンクのチノパンのお洒落なマダムが入って来られた。年齢不詳のイケオジや、タイトスカートにショートカットが似合う女性など、ふらっとお店に来て、サクッと朝食を楽しんで出ていく。ここの風景は…私が勝手に想像する代々木八幡に住んでいる人の朝食のイメージ。

富ヶ谷交差点近くのエアポケットみたいな場所に立つ〈ホルン〉のイートインスペースはちょっと特別。焼き菓子やクレープはもちろんおいしいけれど、テイクアウトするだけじゃもったいない空間が地下にある。暗めの灯りにコンクリートの壁面、晴れた日は小さな天窓から陽の光が差し込んでいて厳かで、(ちょっとだけ)コルビュジエのラ・トゥーレット修道院みたいな雰囲気。シンプルな白地に金のラインが一線入ったお皿にのせられて優雅に登場するパリブレストが本当に眩い。粉砂糖のかかるシュー生地に挟まれた、美しく絞られた生クリームとアーモンドのバタークリームとキャラメルソース。外からは見えないけれど、時々ザクッとしたナッツのプラリネの食感が効いていておいしい。清楚で甘めな雰囲気の女の子のあざとさにドキッとする感じに似てる。

〈メゾンビヤンネートル〉代々木上原を代表するパティスリー〈ビヤンネートル〉が、今年5月にイートイン専門店をオープン。パフェは季節替わりで1,980円〜。●東京都渋谷区上原1-17-11 3F ●03-5738-8827
〈メゾンビヤンネートル〉代々木上原を代表するパティスリー〈ビヤンネートル〉が、今年5月にイートイン専門店をオープン。パフェは季節替わりで1,980円〜。●東京都渋谷区上原1-17-11 3F ●03-5738-8827
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代々木上原駅前の坂の途中にある〈メゾンビヤンネートル〉から来る季節のパフェの予約開始のメールマガジンを毎月楽しみにしている一人だけれど、今月はどんな果物で、どんな層が重なっているんだろう…とただの文字情報だけでさえ、あの美しく設計されたパフェを想像できてわくわくする。私が食べた月は、西表島産のピーチパインを主軸にしたパフェ。黒糖ブランマンジェやライムジュレ、ピーナツバターのジェラートの層、爽やかさと濃厚な南国の組み合わせ。一層ずつ細かく味わってみたり、近くの層の重なりを楽しんでみたり、グラスの断面を指差しながら食べるのは楽しいよね。美学や幸福がたった一つのグラスに詰まっているなんて…昨今のパフェ事情、なんてきらきらしてるんだろう。

写真と文 高野ユリカ

こうの・ゆりか/写真家。新潟生まれ。ホンマタカシ氏のアシスタントを経て、2019年に独立。建築、環境、街などの分野を中心に活動。 https://www.yurikakono.com/

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