ローカルが教える名店 四姉妹と町の人々をつなぐ映画『海街diary』、是枝監督が語る鎌倉の魅力とは?

FOOD 2022.07.10

映画『海街diary』の舞台となった鎌倉。是枝裕和監督に話を聞きました。

姉妹の記憶の量を、食を通して表現する。

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鎌倉を舞台に、四姉妹の絆と町との関わりを描いた漫画『海街diary』。物語は、15年前に家を出た父親の訃報から始まる。葬儀に参列した三姉妹の幸、佳乃、千佳が出会ったのは、腹違いの妹、すず。不倫をして家を出た父が遺した妹である。三姉妹の前でだけ涙を見せたすずの姿に、いっしょに暮らすことを提案。鎌倉の古い一軒家での四姉妹の暮らしが始まる。

この原作を読み、自ら映画にしたいと考えたのが是枝裕和監督。舞台はもちろん鎌倉で、鎌倉名物ともいえるおいしそうな食べ物が、物語の随所に登場する。たとえばしらす丼。ほかほかのご飯に、獲れたての生しらすをたっぷりのせた一杯は、新鮮さが命。海辺の町だからこそ堪能できる味である。

すずと父親の思い出の味、しらす丼。姉たちに素直に明かせない、ふっくらと甘く、懐かしい記憶。
すずと父親の思い出の味、しらす丼。姉たちに素直に明かせない、ふっくらと甘く、懐かしい記憶。
姉たちの前では、初めて生しらす丼を食べるようにふるまうすず。姉たちから父を奪った後ろめたさからの嘘だった。後に千佳には父がよく作ってくれた味だと告白。父親の記憶がほとんどない千佳。姉妹の間での記憶の量の違いが、しらす丼を通して浮き彫りになる。

このしらす丼は、映画のなかで三女・千佳と四女・すずの父に対する思いの違いとして登場する。「父親の記憶のない三女と、父親のことを話せない四女という関係のなかで、しらす丼は微妙な位置にありますよね。同じ姉妹なんだけど、父に対する記憶の量の違いを食で出そうと、あのシーンを撮りました。食というのは、記憶の量が反映されるものなんだなと思ったんです。

〈池田丸 腰越店(いけだまる こしごえてん)〉/腰越
店主が早朝から船を出し、水揚げした魚をその日のうちに提供。透き通った生しらすの姿は新鮮さの証。生しらすにはしょうが、釜揚げしらすには大根おろしをのせた2 色丼が人気。海と江の島を見ながら、すずのようにかっこんでみて。2 色丼1,300円。
■神奈川県鎌倉市腰越2-12-10
■0467-32-2121
■11:30~14:30、17:00~21:30 不定休
■28席

鎌倉にある宿り木のような食堂。揚げたてのアジフライに、温かいご飯。いつもの店がいつも通りある幸せ。
鎌倉にある宿り木のような食堂。揚げたてのアジフライに、温かいご飯。いつもの店がいつも通りある幸せ。
アジフライがおいしい〈海猫食堂〉。重病を患う店主の二ノ宮がすずにかけた言葉は、自分の存在が姉たちを傷つけると悩むすずを、やさしく包み込み、鎌倉にいていいと思わせてくれる。

アジフライを食べる海猫食堂も同じです。あの店で誰と何を食べたのかっていうのは、みんな違う。この映画では、誰とどこで何を食べるかをすごく考えました」と是枝監督は言う。アジフライも鎌倉ならではのおいしさがある。近郊で獲れたばかりのアジは、ふっくらとした身とカリッと揚がった尻尾がたまらない。劇中では、すずは初めて口にするが、姉たちの思い出話を聞きながら、父親の様子を想像する。

〈楽縁(らくえん)〉/小町
カリッとした衣にふんわりやわらかなアジの身。鎌倉近郊で獲れたアジを使い、その日の状態を見ながら、油の温度や時間を調整。塩だけでも十分アジの旨味を感じられる。カリカリの尻尾までいただくのが『海街diary』流。アジフライ定食1,090円。
■神奈川県鎌倉市小町2-11-11 大谷ビル2F
■0467-67-9444
■11:00~22:00 不定休
■14席

風景も食も堪能できる、鎌倉という場所。

「この映画で、食は重要な要素です。食べ物が、いなくなった人と今いる人を結ぶ。食べ物に残る記憶は見えなくても、味といっしょに受け継がれる。そういうことをやりたいな、と思いました」と是枝監督は言う。記憶の量の表現、気持ちを吐き出すきっかけ、思い出を受け継ぐ存在。人と人、人と町をつなげる食。鎌倉ごはんを食べれば、四姉妹の記憶を共有できるかもしれない。『海街diary』とあなたをつなげるアジフライやしらす丼が、鎌倉にはある。

映画では、鎌倉の四季を追って撮影しているのも特徴である。すずが人や町とつながる様子を一年かけて撮り続けた。桜並木を自転車でかけぬけたり、浴衣姿で花火をしたり、梅仕事をしたり……。息を飲むほど美しい映像と、四姉妹の交差する思いが重なり、鎌倉という土地の魅力を伝えてくれる。

「これからの季節だと、サルスベリが見られるんじゃないでしょうか。二ノ宮さんの葬儀の舞台は極楽寺ですが、まわりのサルスベリがとても美しくて、印象に残っています。それに、撮影していてありがたかったのは、鎌倉に住む方々がほどよい距離感でいてくれたこと。顔を合わせれば気持ちよく挨拶してくれて、でも、野次馬的にぐいぐい撮影を見に来るわけではなく、ほうっておいてくれる。素敵な人たちだなあと改めて思いました」

外から来る人を受け入れながら、過剰な干渉をしないのが、鎌倉流なのかもしれない。ぶらり散策していても、飲食店に入っても、その穏やかさは伝わってくるはず。「材木座もいいですよね、すいてて(笑)。のんびりするにはいちばんいい場所じゃないでしょうか。あ、あと、わらびもちもうまかったなぁ。あとから子どもを連れていったくらいですよ」と話す是枝監督からは、鎌倉を楽しみ、堪能していた様子が伝わってくる。海や山が近く、土地ならではの食があり、迎えてくれるやさしい人たちがいる。風景の美しさも、旬のおいしさもすべてを味わえる鎌倉へ、ぜひ。

FROM COMIC

〈高崎屋本店(たかさきやほんてん)〉/御成
酒好きの佳乃が通う酒屋には、その場で飲んだり食べたりできる「角打ち」がある。〈高崎屋本店〉にも一角に同じスペースあり。全国各地から取り寄せている地酒はなんと80種以上。量り売りの焼酎や紹興酒もあり。鎌倉散策の仕上げに、ぐいっと一杯どうぞ。
■神奈川県鎌倉市御成町5-36
■0467-22-1881
■10:00~19:00 水、第3 木休

Profile…是枝裕和(これえだ・ひろかず)

1962年生まれ。映画監督。初監督作品『幻の光』で第52回ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。以来、作品は海外でも注目される。最新作『ベイビー・ブローカー』は5月に第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出される。

※インタビューはHanako 2015年6月25日号鎌倉特集の記事を再掲載しました。

(Hanako特別編集『鎌倉びいきが教える鎌倉の答え。』掲載/photo : Yoichi Nagano, Sachie Abiko text :Kaori Hareyama edit : Rie Muraoka)

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