作り手も食べ手も地球も、みんなが幸せになるパン。 真のサステナブルなパンに会いに行く。命を繋ぐ未来のパン屋さん〈KURKKU FIELDS〉の全貌。
最近、よく耳にする「サステナブル」。“持続可能な”という意味をもつこのキーワードをパンの世界に落とし込んだなら?千葉県・木更津市の広大な農場を舞台にした複合施設〈KURKKU FIELDS〉に、その答えはありました。
牛、鶏、植物...命を繋ぐ未来のパン屋さんのカタチ。
「すごいプロジェクトがはじまっていますよ!絶対に面白いと思うので一緒にどうですか?」いつも以上に目を輝かせる池田さんに誘われ、暮れも押し迫った昨年末、取材班は千葉県・木更津へと向かった。
お目当ては3カ月前に開業したばかりの〈KURKKU FIELDS〉。施設入り口に立ち、まず感じたのは〝とにかく空が広い〞ということ。それもそのはず、30ヘクタールもの敷地に建物は数カ所だけ。それらも点在しているので、いちばん遠くに見える建物との距離感がつかめないほどだ。でも、ベーカリーだけはすぐわかる。なぜなら、バターのいい香りが建物をそっと包み込んでいたからだ。
その年の天候によって小麦の味も変わるから面白い。
この地でベーカリーを担当するのは、藤田麻依さん。〈代々木VILLAGE by kurkku〉のベーカリー〈プルクル〉に携わっていた経験をもつ。だがあるときから、ある想いがあったという。「様々な考え方がある中で、材料として使う素材のストーリーを知り、そのうえでそれをパンに込めて伝えたい。そんなときに声を掛けてもらって。3年越しの夢が叶いました」彼女の夢とは、自分の目で確かめ、信じられるものだけを使ったパン作り。
ブルーベリーやホエーなど身近にあるものを発酵種に。
〈KURKKU FIELDS〉は、広いフィールドの中に農業、食、アート、プレイ&ステイ、自然、エネルギーという6つのカテゴリーが共存。それぞれが連携し、「サステナブルな営み」に取り組んでいる。
目指すのは良質でシンプルに素材の味を引き出すパン。
ベーカリーの店頭には、この地の在来種の枝豆をペースト状にして練り込んだ「枝豆パン」、ミルク、卵、バター、チーズなど、ここで採れた材料だけで作ったクロックムッシュほか、〝made in〈KURKKU FIELDS〉〞のパンがずらりと並ぶ。卵が足りなくなれば取りに行き、ハーブが必要となれば摘みに行く。敷地内にはシャルキュトリーもあり、猪などをハンターが仕留めて30分以内に加工して、ソーセージやハムにしているというから驚きだ。パン作りに欠かせない小麦もそう。
農業と食のプロが問う消費や食のあり方。
グランドオープンを迎えるよりずっと以前から、農場づくりは行われていたそうで、「ゆめかおり」や「春よ恋」などの品種は畑で育てていたのだとか。それを毎年5〜6月に収穫し、膨大な時間をかけて選別し、製粉する。「その年によって小麦の出来もまったく違うので、まだ試験段階の部分も大きいです。でも一度、『ゆめかおり』でバゲットを作ったら、独特のライ麦パンっぽい香りがしてすごくおいしくて。去年は大雨の影響で不作でしたけど、今年はどうなるか楽しみです」
大地の力強さを存分に味わえる“命のパン”。
「ほかのパン職人さんから、羨ましがられるのでは?」。池田さんのその問いに、「はい、とっても(笑)」と答える藤田さんの笑顔は、充実感に満ちていた。〝サステナブルなパン〞とは、作り手も食べ手も地球も、みんなが幸せになるパンなのかもしれない。
〈KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)〉
音楽家、小林武史氏が手掛けるサステナブルファーム&パーク。農業、食、アートを軸とした複合施設として昨秋オープン。草間彌生作品の展示も。
■千葉県木更津市矢那2503
■9:00〜17:00(各店舗の営業時間はHPで確認を)火水休)祝の場合営業)
■入場料平日無料、休日大人1,000円、子供500円
■禁煙
Navigator/池田浩明(いけだ・ひろあき)
パンの研究所「パンラボ」主宰。パンライター。自称「ブレッドギーク」(パンおたく)。NPO法人新麦コレクション理事長として、日本においしい小麦を普及する活動も行う。
(Hanako1182号掲載/photo:Taro Hirano text&edit:Yoshie Chokki)