苅田梨都子の東京アート訪問記# 15 箱根は温泉以外にもアートを巡る場所がある。『カラーズー 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ』ポーラ美術館
ファッションデザイナー・苅田梨都子さんが気になる美術展に足を運び、そこでの体験を写真とテキストで綴るコラム連載です。第15回目は、ポーラ美術館で開催中の『カラーズ ー 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ』へ。
今回は東京を抜け出して、神奈川県・箱根にあるポーラ美術館で現在開催中の『カラーズ ー 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ』を訪れる。
“箱根”と言えば、温泉旅行! と代名詞にもなっている温泉地だが、箱根には幾つかの魅力的な美術館があり、アートを堪能するにはもってこいの場所である。
私は箱根で最も好きな美術館といえば“ポーラ美術館”と即答できるほど、お気に入りだ。
ポーラ美術館へは、強羅駅よりバスに揺られて十数分。箱根の澄んだ空気の中に佇んでいる。外観はガラスの透き通った緑青色が綺麗で、思わず体が引き込まれてしまう。
今回は、『カラーズ ー 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ』のタイトルにあるように、さまざまな色の作品に触れながら、色の秘密を紐解いていきたいと思う。
さて、私たちの身の回りにあるスマートフォンやPCモニターは約10億色を超える色の再現力をもつと言われている。知らないうちに生活する上で複数の色に囲まれながら、現実にある自然や建物などの「現実の色」より、「架空の色」に慣れつつある。
本展覧会では、近代から現代までのさまざまな美術家たちが表現で示してきた「色彩」に注目し、自身の中に眠っている「本当の色」を呼び覚ますよう、巡っていく。
今回は複数の作家やアーティストの作品が並ぶので、特に印象に残った作品や、好きだった作品にフォーカスして綴っていこうと思う。
入り口からすぐには、日本の写真家・現代美術家・建築家・演出家とさまざまな表現で活躍中の杉本博司による写真が迎えてくれる。
杉本博司の写真は初めて見ることとなったが、美しくてダイナミックな建築と同様に、写真も吸い込まれるような美しさがあり見惚れてしまった。
写真は12月14日〜2月26日迄の前期と、2月27日〜5月18日の後期によって全10点を入れ替えで展示とのこと。
次に進むと、クロード・モネやアンリ・マティス、レオナール・フジタ、パブロ・ピカソらの絵画が並び、さまざまなタッチや色彩に魅了される。
写真撮影はNGだったが、セクション7「色彩の共鳴」、セクション9「色彩と空間」に並ぶドナルド・ジャッド、桑山忠明による立体作品がすごく好みだった。絵画とはまた違う、立体作品ならではの存在感と、巧みな色彩感覚でインテリアに近い作品たちは、生活や暮らしのことについても想起させられた。
続いて進むと、「色彩のゆらめき」へ。
こちらはシンガポール出身の作家、グオリャン・タンによる作品。半透明の布を支持体にし、水を多く含んだアクリル絵具を布に染み込ませて抽象画を制作しているそうだ。
透き通るような淡いグラデーションが綺麗で、目や心にも癒しを与えてくれるような空間だった。
向かいには、本記事の冒頭にも登場したヴォルフガング・ティルマンスによる初公開作品が並ぶ。
私はティルマンスの写真集を持っているが、展示構成やポートレート写真の印象が強く、あまり“色”のイメージがなかった。しかし本展でこちらの作品を見ることができて、ティルマンスの新たな側面が垣間見えた気がして嬉しかった。
続いて進むと、「Polychrome(多色性)とPolymorphism(多様性)」と題された門田光雅による作品が目に留まった。
門田光雅は過去と現在の作風をつなぎ、新しい価値を与えることを試みるシリーズなどを制作している。絵具の質感や筆の動きのなかで、色や顔料の制限から解放された新しい絵画のあり方を探求する。
こちらはソファの《マレンコ》をアートに昇華しており、目を奪われた。マレンコ特有の丸いフォルムやベーシックなカラーに色とりどりの絵具を纏って鎮座する様にはまた新たな表現を感じた。インテリア好きな私には心が踊って、アートでありながら実際に座ってみたいとも思わせてくれた。
続いて、「やきものの色、うるしの色」へ。
陶芸家の伊藤秀人による、平面での展示。
陶芸と聞くと立体造形が思い浮かぶが、絵画のようにずらりと壁面に平面作品が並ぶ。青磁の色味がとても綺麗で、どの部屋よりも透き通った空気が漂っていた。
“カラー”と聞くと私は複数の派手な色のことを想起させるが、似て非なる個々の“青”を堪能できた。青磁には歴史的な背景も感じられ、自然的な色の美しさに感動した。
今回初めて伊藤秀人のことを知り、好みで気になったので調べてみたところ、立体の陶芸作品のフォルムも大変美しく、いつか入手したいと思わされた。
ラストは「無限の色彩」へ。
草間彌生による空間作品。
スタッフの方にドアを開けていただき、30秒間鏡に囲まれた空間へ入ることができる。複数の色に照らされたオブジェが鏡に反射し、近未来のような異空間へタイムスリップしたようだ。本展の“カラーズ”というタイトルに一番しっくりくる、色に圧倒された空間であった。
今回さまざまな色の作品に触れて、新たな自分の好きな色や心地の良い色、元気が出る色などを知ることができた一日であった。
会期は2025年5月18日迄。長い期間開催しているので、ぜひ観光のお供にいかがでしょう。