「家族はわかっていた。けれど…」山崎怜奈が観た映画『どうすればよかったか?』のやりきれなさ。

「家族はわかっていた。けれど…」山崎怜奈が観た映画『どうすればよかったか?』のやりきれなさ。
統合失調症を患い、自宅に閉じ込められた姉を20年撮り続けた弟。
「家族はわかっていた。けれど…」山崎怜奈が観た映画『どうすればよかったか?』のやりきれなさ。
CULTURE 2024.12.13

「これは他人が観てしまってよいのか?」。統合失調症が疑われた姉と、病気を認めず、病院の受診から遠ざける両親。姉が発症したと思われる日から18年後、映像制作を学んだ弟は帰省ごとに家族の姿を撮り始める。状況は悪化し続け、両親は玄関に鎖と南京錠をかけて姉を閉じ込めるようになる…ドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』。20年にわたって家族が壊れていくさまは観るものを呆然とさせ、言葉を失わせる。この作品に衝撃を受けたタレントの山崎怜奈さんが家族について考えたこと。

COMMENT
山崎怜奈
山崎怜奈
タレント、ラジオパーソナリティ

やまざき・れな/1997年生まれ、東京都出身。2022年乃木坂46を卒業。TOKYO FM『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』などでラジオパーソナリティを務める。Hanako webではエッセイ『山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」』(マガジンハウス)の連載も。
Instagram:rena_yamazaki.official
X:@ymzkofficial

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DOCUMENTARY
『どうすればよかったか?』
『どうすればよかったか?』

面倒見がよく優秀な姉に統合失調症の症状が現れた。父と母は玄関に南京錠をかけ、彼女を閉じ込めた。弟であり監督の藤野知明は20年にわたって家族の姿を記録し、対話を重ねるが…。

配給:東風

ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町、第七藝術劇場で公開中。12月14日よりシアターキノほか全国順次公開。©2024 動画工房ぞうしま

家族のことになると、人は”理”ではなく、”情”に流されてしまう。

山崎 タイトルの『どうすればよかったか?』に対する答えはわかっているんですよね。できるだけ早い段階で娘(監督にとっては姉)を病院に連れて行くべきだったと。でも人間って必ずしも正しいことを選べるわけではなくて。特に家族のこととなると、人は客観的な事実や論理といった”理”に目を背けて、プライドや見栄といった”情”に流されてしまう。特にこの家族は両親ともに医者という、論理や倫理を重んじる職業人だったにもかかわらず、娘が統合失調症であることをどうしても認められず、ずっと専門医に娘を診せなかったことに少し驚きました。外からうらやましがられる、エリートで豊かな、いい家族像を壊したくない、という見栄や、娘の病気を認めることへの羞恥心もあったのかもしれない。

――この作品を語ろうとすると、どうしても登場人物の非を責めているように見えてしまうかもしれない。が、聞き手の私も山崎さんもそのような意図はまったくなく、ただ少しずつ歯車が狂っていってしまった家族の20年間にわたる圧倒的な事実を眼前に突きつけられ、ただひたすら「どうすればよかったか?」と考えさせられ、そしてこのやるせなさを誰かと共有したくなる。

山崎 実は一人で観ると耐えられないかも、と思って、友人と観ました。でもきつかったですね…。家族全員が好きなタイミングで喋るし、お互いの話もあまり聞いていない。家族ってもう自他が溶け合って、お互いのことは全部わかってる、という思い込みがある。はいはい、もうわかってるからいいよ、みたいな感じ。でも、家族とはいえ、他人なんですよね。冷たく聞こえるかもしれないですが、他人だからこそ何を考えているかわからないし、ちゃんと話を聞かないといけない。そして互いに尊重されなくてはいけない。作品の後半、姉はついに病院にかかることで回復し、炒めものを作ったり、お皿を洗ったり、と家事ができるようになります。人としての営みが彼女に戻りはじめていくわけです。そうした営為や努力の積み重ねが人を成長させていくのに、以前の両親が娘のことを何でもやってあげたり、本人の意思を確認せずに試験を受けさせたりするのは娘のことを軽んじていると思いました。

――ときに荒れ狂う姉、思い込みが激しくなっていく母、何かをあきらめたかのように遠くを見る父。カメラを向け続けた監督(弟)と、向けられ続けた三人の非対称性について。

山崎 カメラを向けられることを受け入れているんですよね。外の人には娘の窮状を隠しているのに、内では息子に修羅場を撮られることを受け入れている。そうした矛盾が成立するのが家族という特殊な関係なんでしょうね。今思うと、誰が悪い、というわけではなくて、みんな少しずつよくなかったのかもしれない。どうすればよいのか、みんなわかっていたのかもしれないけど、絡まりあった糸をほぐすことがどうしてもできなかった…。このやりきれなさ、わりきれなさに答えを出そうとするのではなく、観た人それぞれが考えていく契機となる、そんな映画なのかもしれません。

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