【推しマンガ】アーティスト・ぼく脳さん「全コマ面白くてヤバイ。独自の解釈ができる“漫画”だからこそ成立するんだと思います」 | TVプロデューサー小山テリハの漫画交感 #5

CULTURE 2024.11.06

「あのちゃんねる」「サクラミーツ」などを担当するテレビ朝日のプロデューサーの小山テリハさんは実は漫画好き。毎回ゲストをお迎えして、互いに好きな漫画を交換、感想を共有し合う連載です。第5回目のゲストはアーティストのぼく脳さん!

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じっくり悩みながら記入してくれた。
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1.『ヤバイ』(ぼく脳さん→小山P)「スターの一言で世界が変わる。大袈裟だけど、ありえる話」

TVプロデューサー小山テリハの漫画交感
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小山さん
勝手ながら、ぼく脳さんは漫画をたくさん読んでいると思っていたんです。それが意外とそうでもないとか……?
ぼく脳さん
漫画をはじめ、いろんなカルチャーを網羅していると思われているんですけど、実際はほとんど知りません。テリハさんに『幽☆遊☆白書』をおすすめしようと思ったらもう読んでると聞いて、作品選びが結構大変でした。
小山さん
(笑)。ぼく脳さんの作品が大好きなのでアウトプットされているものはよく見るのですが、普段どんなところから影響を受けているのかはまったく読めなくて。たとえば学生時代はどんな感じだったんですか?  
ぼく脳さん
スポーツマンでした。高校もバスケで入学したし。
小山さん
バスケ経験者のバイブルのような印象が強いですが『スラムダンク』を読んだことはありますか?
ぼく脳さん
読んだことはあるんですけど、特別思い入れではないですね。マジすぎてツラくなる。テリハさんと話して思い出したのですが『ドラゴンボール』に『NARUTO -ナルト』、『ONE PIECE』など。有名作品はひと通り読んでますね。ただ、最後まで読み切ったことはない。
小山さん
漫画雑誌を買ったりは……?
ぼく脳さん
小学生の頃に『コロコロコミック』を買ってた時期はありました。『スーパーボンバーマン』の4コマは必ず読んでたな。毎回3コマ目で爆弾を見つけて4コマ目で爆発して終わるので実質2コマ漫画っていう(笑)。のめり込んだことはないけれど『クレヨンしんちゃん』のようにずっと年齢が変わらない作品が好きかもしれないです。終わりがないっていう安心感を持って読みたくて。
TVプロデューサー小山テリハの漫画交感
小山さん
だから今回おすすめしてくださった『ヤバイ』も読切作品だったんですね。すごく、ぼく脳さんらしさを感じました。
ぼく脳さん
え、本当ですか?嬉しい。この作品、最初はSNSで見つけたんです。“『ヤバイ』がヤバイ!”って謳い文句で宣伝されていて。読んでみたら本当にヤバかった。胃もたれ系というか。
小山さん
全体のボリュームは少ないけれど、心にグーッと入ってくる作品ですよね。
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ぼく脳さん
影響力が強すぎる罪で、バンドマンが死刑宣告をされちゃうっていう。読み始める前はまさかこんな話だとは思いませんでした。
小山さん
ポップだけど、壮大。もちろんフィクションだしSFの要素もあるけれど、物語の芯のようなところは現代に通ずるというか。
ぼく脳さん
現代っぽさを感じます。
小山さん
「些細な呟きにより大統領が一晩で代わり、大企業の株も乱高下」って、大袈裟じゃんと思いつつ現実的でもあるな、と思いました。実際、ひとつの発言が大炎上してこれまで積み上げてきたものを一気に失うみたいなこともあるし、スターの一言でみんなが頑張れることもある。プラスにもマイナスにも働くほどの影響力を持っているってすごいですよね。先日、宇多田ヒカルさんのライブで身をもってスターが放つ言葉の引力を感じたので余計に響きました。私たちを置いていかないエンディングを迎えたのも嬉しかったです。結局愛だった、っていう。
TVプロデューサー小山テリハの漫画交感
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ぼく脳さん
めちゃくちゃジャンプっぽい作品だと思います。元気になるというか。テリハさんに元気になってほしい、という気持ちでこの作品を選んだんですよ。
小山さん
ありがとうございます(笑)。確かにスーパースターが本当のスターを作った、みたいな終わり方も含めてジャンプっぽい。『ヤバイ』しかり、島袋光年先生の作品ってバランスが面白いですよね。
ぼく脳さん
僕も同じことを思いました。『世紀末リーダー伝たけし!』も『トリコ』も、ギャグとガチのバランスが絶妙。笑えるのに泣かせにかかってくるときもあるし、全コマ印象的で無駄なところがない。この作品のスピード感は読切だからこそ、な気がします。夢中で読みましたね。最後にライブをするシーンがあるんですけど、曲が万人ウケしなさそうなのもいい。ハードコアっぽくて歌なのかもわからないんですよ。読者自身の解釈に任せることができる“漫画”だからこそ成立する作品だと思います。
小山さん
たしかに。作中「愛してる」のルビにヤバイって振られてるんですけど、私自身もあるなと思いました。好きすぎたときにヤバイって言葉しか出なくなる、みたいな。事細かに伝えようって思いがちだけど、別にうまい言葉にする必要はない。そんなことを感じさせてくれる漫画でしたね。

ヤバイ

作者: 島袋光年
出版社: 集英社
発表期間: 2023年
『少年ジャンプ+』にて掲載。

ファンクラブ会員数が20億人を超えるバンド「ザ・ヤバイ」。影響力が大きすぎるあまり、フロントマンの謝花桃多武は死刑を宣告されてしまう。『少年ジャンプ+』で公開中の読切作品。

2.『雨宮さん』(小山P→ぼく脳さん)「何でもないところから自分の“好き”を見つけられる雨宮さんは、芸術家とも言える」

TVプロデューサー小山テリハの漫画交感
ぼく脳さん
興味深い作品でした。あらゐけいいち先生の存在は知っていましたが、この漫画もヤバイですよね。
小山さん
ぼく脳さんは、日常で私たちが見落としてしまうところに気付いて作品にしてくれていると思うんです。それらをどうやって発見しているんだろう、って気になることが多くて。主人公の雨宮さんが“好き”を喜べる感覚に共感されるのか、それとも違った感情を持つのかお聞きしたいと思っておすすめしました
ぼく脳さん
作ったのではなく見つけた人が芸術家になることってあると思うんです。僕が影響を受けた芸術家の一人に赤瀬川原平さんという方がいて。赤瀬川さんは登った先に出入り口のない階段など、“無用の長物”と呼ばれるものを「トマソン」と名付けたのですが、雨宮さんもそれに近い気がしました。自分では何も作っていないけれど、何でもないと思われているものを面白がれる人。雨宮さんに登場する親戚のお姉ちゃんもカッコいいですよね。先を行き過ぎている人って作品の制作を辞めちゃう人が多いんですけど、まさにそんな感じ。すごい人はやっぱり何もやらなくなるんだ、っていう。
小山さん
何も起きてないっちゃ起きてない、日常ベースの作品。本人はいたって普通に生きているけれど、周りでは変なことが色々と起こっているんです。そんな中で自分の癖がバレたらクラスメイトに変って思われるかも、と心配しているのが可愛いなと思いました。
ぼく脳さん
変なヤツだらけなのに(笑)。物語の軸は普通だからこそ、ありえないことが起きても成立する。メデューサとか天狗とか、そっちの方がよっぽど変わってると思いますよ。
TVプロデューサー小山テリハの漫画交感
ぼく脳さん
雨宮さんの好きを集めたらアレなんだ、って衝撃もありました。「デカプリオ」の「プリオ」とか、乾いた筆先に染み込む墨汁とか。音や感触にこだわってますよね。
小山さん
ぼく脳さんにも雨宮さんと同じような“好き”はあるんですか?  
ぼく脳さん
ズボンのチャックをパチっと中央にはめるのが好きです。雨宮さんがハードカバーの本をパンッ!と閉じるのが好き、っていうところにも共感できました。  
小山さん
わかります。私はノートの書く面がツルツルだと嬉しくなります。書きやすいから、というよりはなんか気持ちいい感じがする。
TVプロデューサー小山テリハの漫画交感
小山さん
今回の2作品同様、ぼく脳さんの作品からも無償の愛を感じるんですよね。
ぼく脳さん
雨宮さんにも通ずるかもしれませんが、子供の頃に水道の配管がクネクネしているのは水を楽しませるため、って思っていたんですよね。腸も同じく食べ物を楽しませるため、とか。今でもその感覚はあるかもしれません。
小山さん
それを聞くと、ぼく脳さんの作品を見て幸せになれる理由がわかります。大人になるに連れて感受性みたいなものが死んでいく中で、その心を思い返させてくれる貴重な存在です。いつもありがとうございます。ぼく脳さんのインスタ、本当にフォロー推奨です(笑)。
TVプロデューサー小山テリハの漫画交感
TVプロデューサー小山テリハの漫画交感
ぼく脳さん
効果音も可愛いかったです。かもめの「ニャーニャー」とか、カフェオレを作るときの「ギュニュー」「オレオレオレ」「ソルソルソル」とか。どうしてソルソル何だろうって思ってたら、砂糖じゃなくて塩を入れてたからっていう。
小山さん
私もオノマトペが好きなのでそこに注目していました。レタリングも素敵で。文字というよりは絵に近いのでこれだけ見ても楽しめる。とにかく可愛い作品ですよね。
ぼく脳さん
雨宮さんが初めて制作した作品もよかったです。柔らかくも硬くも見えるっていう。
小山さん
ゴツゴツしてそうでもある。ぜひ皆さんにも想像してみてもらいたいですね。
ぼく脳さん
これまでは途中で飽きてばかりでしたが、この作品は続きが気になる。今後も読み続けてみようかなと思います!

雨宮さん

作者: あらゐけいいち
出版社: 小学館
発表期間: 2022年〜
巻数: 既刊2巻

主人公の名前は雨宮さん。新しいスニーカーの匂いに、耳かきのボアボア、改札パンチなど。誰にも言えないフェティシズム溢れる彼女の日々。なんか好き!って気持ちは、やめられない!止まらない!

小山テリハさんからぼく脳さんへのメッセージカード

小山テリハさん ぼく脳さんへメッセージ

おまけ

TVプロデューサー小山テリハの漫画交感

小山さんはかねてよりぼく脳さんの作品のファンだったとか。対談日には、2021年にぼく脳さんが制作したバレンシアガオマージュのトートバッグを持ってきてくれた。

edit_Nozomi Hasegagwa photo_Hikari Koki illustration_Serena Nagai

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