苅田梨都子の東京アート訪問記# 14 没後初の大規模個展が開催。「ケンゾー」の足跡を辿る。『髙田賢三 夢をかける』東京オペラシティアートギャラリー

CULTURE 2024.08.23

ファッションデザイナー・苅田梨都子さんが気になる美術展に足を運び、そこでの体験を写真とテキストで綴るコラム連載です。第14回目は、東京オペラシティアートギャラリーで開催中の『髙田賢三 夢をかける』へ。

今回は初台にある東京オペラシティアートギャラリーで現在開催中の『髙田賢三 夢をかける』へ訪れる。

連載では初めてのファッションの展覧会。私自身もファッションデザイナーであり、一世を風靡した髙田賢三氏のクリエーションが気になる。

KENZOの創設者、髙田賢三(1939 - 2020)は、日本人のファッションデザイナーとしていち早くパリに進出し、斬新なアイディアで常識を打ち破るスタイルを次々に生み出した。

苅田梨都子の東京アート訪問記

会場の入り口には大胆なバラのモチーフを背景に、展覧会タイトルが掲げられている。
現在のKENZOのイメージは虎モチーフやカジュアルな服が多い印象だ。創立した髙田氏がデザインしてきたものについてあまり知らないので、これを機に学んでいきたい。

苅田梨都子の東京アート訪問記

会場に入ってすぐ、展示室中央には新人デザイナーの登竜門と呼ばれる「装苑賞」(第8回)を受賞した際のドレスが佇む。太めのベルトがポイントのドレスは、ジャケット部分がショート丈。女性の身体がより綺麗に見えるようにシェイプされたウエスト部分が際立ち、身頃と袖丈を同じ長さにすることでバランスも良くすっきりとしたデザイン。青や紫、綺麗な緑色のバラのモチーフのハットが全体をよりまとめているようで大変素敵だ。

この会場には髙田氏のタイムラインが壁にずらりと貼られていて、彼の人生史を読みながらぐるりと会場を周る。

タイムラインを読みながら驚いたことが、1965年26歳の頃パリでデザイン画を持ち込み、お店がその場でデザイン画を買い取るといった内容が示されていたことだ。私の中では服に仕立て上げ、服として物を販売するといった流れでお金を得る流れが主流と思っていたので、デザイン画も買い取っていただけることがあるんだと気づきになった。

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次のエリアへ移動すると、主に1970年代にデザインした服がずらりと並ぶ。ビビッドなオレンジやブルーのパキッとした色合いのドレスや、アクリルのショーケースにはニットアイテムが並ぶ。KENZOといえばニットといわれるほど、髙田氏の色遣いや大胆なテキスタイルなどで人気があった。

髙田氏は「木綿の詩人」と称されたように、積極的に木綿素材を使用した衣服を展開する。
こちらはしぼりやちぢみ、つむぎや浴衣地などの日本の生地を使ったワンピース。

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柄は着物のように渋めだが、シルエットが洋風でそのバランス感が素敵だ。
よく見ると、胸元に切り替えがあって表からステッチがかけてある。一見シンプルに見えても細かなディティールを見つけると流石だなと感じる。

私が学生の卒業シーズンごろからブランド開始時にかけては、母親が和裁師であることから着物の反物を使用したビスチェやパンツなどを制作していた頃がある。このドレスを見て過去の作品についての思いが蘇った。

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他にも、レースのセットアップに目がいった。50年ほど前にデザインされたものも、現代に着用できそうなものばかり。こちらはヨーロッパの司祭服からイメージしたルック。

また、会場の壁面にはモデルの山口小夜子さんが着用している写真が何枚か展示されていることも印象に残った。髙田氏にとってブランドのミューズだったのではと思えた。

苅田梨都子の東京アート訪問記
苅田梨都子の東京アート訪問記

そして後半のエリアに移動する。カラフルな展示台の上にずらりと並べられたマネキンたち。まるでファッションショーを見ているようで、圧倒された。中でも個人的にお気に入りだったルックはカラフルな花柄のドレス。裾からチラリと覗いてみえる赤色や、ウエストマークした別の黒地ベースの花柄のベルトと同色の黒のハットが効いている。私自身も着用してみたいと感じた一体だった。

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壁面にはさまざまな花柄のテキスタイルが展示されていた。髙田氏にとって花柄はアイコンであり、多色遣いの天才だと感じた。髙田氏本人も「ケンゾー・カラーの特色は単色よりも配色にあると思う。配色は2色より3色、つまり多色配色でとりわけ原色どうしの組み合わせは僕のモードのポイントとなっている」と語る。

会場を出るとコリドールの壁面にはずらりとデザイン画が貼られていた。一つ一つ力づよく、資料として残っていることも貴重だと感じた。

最後には、髙田氏が1999年にインタビューを受けている映像も鑑賞することができる。31歳でお店を出した髙田氏に自身を重ねるが、私も30歳で事務所兼お店をオープンさせた。生きる時代は違っても、髙田氏の築いてきたものたちを今この目で見ることができて嬉しい。同じファッションデザイナーとして、たとえアプローチの仕方は違ったとしても尊敬できる生き方を垣間見ることができた。

会期は9月16日迄。ぜひ足を運んでみてはいかがだろう。

edit_Kei Kawaura

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