苅田梨都子の東京アート訪問記# 12 夢二の描く女性たちは美しい所作が想像できる。『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』東京都庭園美術館

CULTURE 2024.06.26

ファッションデザイナー・苅田梨都子さんが気になる美術展に足を運び、そこでの体験を写真とテキストで綴るコラム連載です。第12回目は、東京都庭園美術館で開催中の『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』へ。

今回は目黒・白金台にある東京都庭園美術館で開催中の『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』を訪れる。
竹久夢二の名や作品は日常の中で自然に触れていたが、語れるほどまで知らないでいた。展示会場である東京都庭園美術館の本館は、1933(昭和8)年に朝香宮家の自邸として建設された。
歴史ある建造物、そして随所に多彩な装飾が施された空間。アール・デコの可愛らしさも合間ってより一層、夢二の描く世界に引き込まれていきそうだ。そんな思いが高まる気持ちでいざ入り口へ。
まず目にする展覧会ビジュアルが大変にすてきで、思わず撮影してしまう。

竹久夢二は1884(明治17)年岡山県生まれ。絵や美術の専門的な美術教育を受けることなく独学で自身の画風を確立していった。目や手が大きく、色白で夢見るような表情の女性たちの絵は「夢二式」と称された。夢二は大正ロマンを象徴する画家であり、詩人でもあった。また、グラフィックデザイナーの草分けとしても活躍し、本や雑誌の装丁や日用品・雑貨なども手がけ、暮らしの中の美を追及した。

入り口を通ってまずはじめに現れるのは、幻の名画《アマリリス》だ。ターコイズブルーの壁に絵が映えていて思わずグッと引き込まれてしまう。

《アマリリス》1919年(大正8年)頃 油彩、カンヴァス 夢二郷土美術館蔵
《アマリリス》1919年(大正8年)頃 油彩、カンヴァス 夢二郷土美術館蔵

こちらに描かれた女性は、モデルとして働いていた「お葉」さん。手前には大きなアマリリスがあり、まるで女性が髪飾りを身につけているかのように描かれている。テーブルには他にもコップと、手元には本を持っている。日常のワンシーンを切り取ったような絵だ。私たちは普段洋服を着るけれど、着物姿にはやっぱり憧れる。赤と緑の縞模様に帯の組み合わせも素敵だ。夢二の油彩画は現存するだけでも約30点と大変貴重で、東京では《アマリリス》の公開は本展が初だそう。

さらに奥に進むと、手前の掛け軸が目に留まった。赤から緑、淡い朱色が綺麗で美味しそうな《林檎》の絵。

《林檎》1914年(大正3年)絹本着色 夢二郷土美術館蔵
《林檎》1914年(大正3年)絹本着色 夢二郷土美術館蔵

こちらの絵が描かれた時期は「夢二式美人」という呼称が世に広まった頃で、夢二の初期の代表的な作品である。
女性らしいしなやかな体のポーズや手の位置、結った髪の姿などトータルのバランスすべてが愛らしい。妻の岸たまきをモデルに描いたという。手に持ったカゴから林檎の葉が垂れている様子のバランス感も絶妙で、小物の描き方からも色気を感じた。

隣の部屋の天井には、ガラス工芸作家“ルネ・ラリック”によるフルーツモチーフの照明器具があしらわれていて、《林檎》の絵ともリンクしているところにもピンと来た。1914(大正3)年に描かれたとは思えないような色遣いも巧みで、うっとりしてしまう。

その後、階段をぐるりと上ると、目の前には体よりも大きなバナーが色鮮やかに登場する。

会場風景
《封筒「どくだみ」》、《封筒「つりがね草」》のデザインがあしらわれている
会場風景
《封筒「どくだみ」》、《封筒「つりがね草」》のデザインがあしらわれている

こちらは二階奥の部屋に展示されている封筒のデザインを大きく出力したものだそうだ。作品からはまるで絵葉書や消しゴムハンコのような温かみが感じられて、はじめて見たのにどこか懐かしく、落ち着くデザインだ。
特に青の背景に赤のコントラストが美しい《封筒「どくだみ」》に一目惚れ。今日着てきた自身のブランドのワンピースともどこかマッチしているよう。ここは撮影もOKで、ぜひ訪れた記念に撮影してみては。

次に二階をぐるり巡った後、新館へ移動する。

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絵の具やパイプなど、夢二が愛用していた貴重なアイテムも並ぶ。

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夢二の絵をみていると、日本に生まれた私はより一層日本らしさを意識する。そして、現代の流れに反してでも古風なものをより愛したいと思える。そんな気持ちがふわりと浮かんでくる。
また、背筋も自然と伸びる気がする。眺めている絵はすべて静止画なのに、夢二の描く女性たちが動いていたら隅々まで所作が美しいだろうな、と想像することができる。

展示風景
展示風景

私は普段ファッションデザイナーをしながらこうしてコラムの連載をしたり、アクセサリーのデザインやお茶の販売などファッションのみならず暮らし全体について常に考えており、夢二の生き方にどこか通ずる点があるなと感じながら展覧会を見ていた。絵のみならずさまざまなことに挑戦し、生活を豊かにしていく夢二の姿勢に刺激をいただきながら、今後も活動していきたいと感じた。

最後に、旧朝香官邸(現・東京都庭園美術館)自体、暮らしの中の美を体現することができる唯一無二の邸宅空間であり夢二と時代の空気が調和し、とても満足度も高かった。竹久夢二を知っている人もこの会場ならではの空気にぜひ触れてほしいと思うほど贅沢な時間であった。

本展は東京以外に岡山の夢二郷土美術館で9月から、大阪のあべのハルカス美術館では2025年1月から巡回展が始まるそうだ。ぜひ近くの人は足を運んでみては。

edit_Kei Kawaura

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