花街の舞台裏を支える、毎日のやさしいごはん。/第12回 ヒコロヒーのナイトキャップエンタメ
CULTURE 2023.05.15
疲れた心と体に染み込む、ナイトキャップ(寝酒)代わりのエンタメをヒコロヒーが紹介。第12回は、是枝裕和監督初のNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』。
『舞妓さんちのまかないさん』
季節を感じる食材、香り立ちそうな湯気。おいしいごはんってつくづく癒しだと思う。食欲をそそる料理につられて観始めたら止まらなくなった。本作は京都の花街を舞台に、舞妓たちが共同生活を営む屋形の「まかないさん」になった主人公キヨの日常を中心に描いている。いくらでもシリアスにできる題材なのに、最後まで心地よい物語に仕上がったのはキヨを演じる森七菜ちゃんの存在が大きい。屋形の中心に台所があり、そこに集う舞妓にもキヨの温かみややさしさは伝播(でんぱ)していく。あの笑顔で迎えられたら、私も邪念が吹っ飛びそうだ。また、売れっ子芸妓の百子を演じる橋本愛ちゃんも見逃せない。所作や姿勢も美しく、意志の強い女性を見事に演じていた。ほかにも癖の強い役者たちそれぞれの魅力が存分に出ているのは、さすが是枝組といったところだ。
舞妓というと傍(はた)から見れば華やかだが、内情は閉ざされた厳しい世界。そこで成功するには相当の辛抱と鍛錬と覚悟が必要となる。その点、本作は花街に強く疑問を持つキャラクターも登場しており、この世界をただのファンタジーとして描かないという監督の思いも透けて見えていた(のちに監督は声明も出している)。私はフィクションとして楽しく鑑賞したが、知らない文化も多く、観ていて学びにもなった。背景にある美しい街並みも素敵だったし、久しぶりに行ってみようかな、京都。