○分の1への想像力。 映画監督・ヤン ヨンヒさんが伝えたいこと。「恵まれているからといって、ありがたがってばかりではいけない」

SUSTAINABLE 2022.08.06

食べ物、水や電気などのインフラ…私たちには当たり前の生活環境を持たない人々が世界にはいる。“じゃない方”の彼らをときに思いやることができたら。自身を「マイノリティの中のマイノリティ」と話す、映画監督ヤン ヨンヒさんを訪ねた。

「恵まれているからといって、ありがたがってばかりではいけない」

「他者を思いやるためには、知ること、考えること、ときには怒りの声を上げることが大切です」と映画監督のヤンヨンヒさん。その理由を自身の経験から教えてくれた。「私の場合、世界を知りたいと思って30代の頃アジア各国を回りました。バングラデシュから帰国したときには日本の水道水と調理油のきれいさに気づかされたり。また、何十年も前に兄たちが渡った北朝鮮へも実際に何度も足を運んでいます。そんななかで気がついたのは、私がとても恵まれた環境で生きているということ。在日コリアン2世で、なおかつ両親が北朝鮮を支援する組織で活動したマイノリティの中のマイノリティであっても、言論の自由があって、学校に行けて、お腹が空いたら食べられるのですから。でも、恵まれているからといってありがたがっているだけでは他者のことは思いやれません。

どうして“じゃない”人々がいるのか?その理由や解決策を考える必要があります。この不平等に解決はないけれど、『仕方ないよね、開発途上国で生まれたのだから』と突き放してはいけない。何事もそうだけれど、『仕方ない』と戦い続けなきゃ。そうして考えながら、その立場に身を寄せて、一緒に怒りの声を上げることも必要ですね。そういう意味では、この数年、SNSに希望を感じています。大勢から声が上がる瞬間を共有できるし、自分で発信もできる。そうやって少しずついい社会に変わっていくのではないでしょうか」

【10分の1】その日に食べるものが手に入らない人。

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世界最大の人道支援機関で、主に食料支援を担うWFPなどの発表によれば、飢餓に苦しむ人は最大8億1100万人に上る。なかでもサハラ以南のアフリカや南アジアの状況は深刻で、5歳未満の3人に1人が栄養不良の状態にある。WFP(2021年)

【5分の1】紛争下で暮らしている子供

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世界で約4 億2000 万人の子供が紛争地域で生活している。この数は1990年代半ばと比べると2倍以上。紛争に巻き込まれて重傷を負ったり、亡くなるケースも少なくない。2014年以降は毎年1万人ほどの子供がそうした被害に遭っている。Peace Research Institute in Oslo(PRIO),’Children Affected by Armed Conflict, 1990-2017

【3分の1】管理された飲み水を利用できない人。

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安全な飲み水にアクセスできない人は世界で約21億人。また、工場排水などが流れ込んだ河川の水や、汚染された地下水を飲んだことが原因で亡くなる人は年間150万人に及ぶ。さらに整った下水設備を利用できない人は世界で45億人にも及ぶ。Progress on Drinking Water, Sanitationand Hygiene: 2017 Update and SDG Baselines(WHO, UNICEF)

【10分の1】生活に電力がない人。

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世界で電力を使えない人は約7億7000万人。その多くはサハラ以南のアフリカなど、開発途上国に集中している。電気がないために料理や洗濯をはじめとする日常生活に困難があり、医療や教育などの社会生活も充実しにくくなっている。IEA「 SDG7: Data and Projections」

【4分の1】パートナーから暴力を受けたことがある女性。

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世界保健機関WHOの調査によると、約7億3600万人の女性が夫や恋人からドメスティックバイオレンスの被害を受けている。性暴力、殴る、蹴るなどの暴行はもちろん、暴言や生活に必要なお金を渡さないといったこともDVに当たる。WHOの調査(2000~2018年)

【4分の1】都市部でスラム、またはそれに近い場所で暮らす人。

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スラムとは、都市部にあって主に経済的に恵まれない貧困層が集まり過密化したエリアのこと。世界では都市部に住む人のうち、4人に1人がスラムに住んでいる。都市部に住む人は1950年に30%、2018年には55%と、人口が集中している。国連「World Urbanization Prospects2018」

【2分の1】インターネットにアクセスできない人。

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電気・水道・ガスのように日々の暮らしに欠かせない存在になりつつあるインターネットだが、使えない人は世界に約35億人いる。その普及率は、先進国で80%、開発途上国で45%、特に開発が遅れている国では20%と大きな格差がある。Measuring the Information Society Report 2018(ITU)

【6分の1】15歳以上で読み書きのできない人。

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世界の15歳以上のうち、約7億5000万人が読み書きができない。そのうち3人に2人が女性。これは女の子が小学校に通わせてもらえない地域が多いことが原因のひとつになっている。また全世界を通じて、成人識字率は男性より女性のほうが低い。Literacy Rates Continue to Rise fromOne Generation to the Next(UNESCO,2017)

【4分の1】出生登録がない子供の数。

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2019年の時点で、世界には生まれた記録が存在しない子供が4人に1人いる。2000年の段階では5人に2人で、徐々に改善されつつある。出生登録がないと医療や教育を受けることができず、より深刻な場合、人身売買の被害に遭っても国に戻れない。UNICEF『Birth Registration for EveryChild by 2030: Are we on track?』

【10分の1】5〜17歳のうち、働いている子供。

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約1億6000万人の子供が学校に行くことができず、働いている状態だ。多くは途上国の子供たちで、背景には貧困がある。なかでも近年は5歳から11歳の子供の割合が増加。また、世界の15歳から24歳のうち仕事がない人の割合は22%ほど。ILOとUNICEFの共同報告書(2021年)

参考書籍:『るるぶ マンガとクイズで楽しく学ぶ! SDGs』(JTBパブリッシング)、『 未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(紀伊國屋書店)

Speaker…ヤン ヨンヒ

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映画監督。1964年大阪府生まれ。オモニ(母親)がかつて経験した「済州島四・三事件」を軸に、家族を描く映画『スープとイデオロギー』が全国公開中。小説『朝鮮大学校物語』が文庫化。

(Hanako1210号掲載/photo : Kengo Shimizu illustration : moka text : Ryota Mukai)

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