「MASHING UP カンファレンス」で心に残った言葉をレポート! 国木田彩良さん・申真衣さんらが語る「よりよく生きるヒント」。自分らしい働き方から、レジリエンス、フェムテックまで。
コロナ禍により心身の健康についてあらためて考える機会が増えたいま、気になるスピーカーとテーマが目白押し!「よりよく生きるためのヒント」がつまったオンラインイベント『MASHING UP Women’s Well-being Updates 2021』が開催されました。合計19人が登壇したさまざまなカンファレンスのなかから、筆者の心に残った言葉を抜粋してレポートしたいと思います。
オリジナルな人生に誇りを。多様性のはざまで手にした居場所とレジリエンス。
スピーカーは、モデルやアートビジネスのほか多様性やSDGsにまつわる社会活動などでも活躍中の国木田彩良さん。イタリア人の父と日本人の母の間に生まれ、パリ育ち、ロンドン生まれ。多彩なバックボーンをもつ“コスモポリタン”です。
トークテーマは「レジリエンス」。逆境において自分を守り立てなおす“回復力”を意味する言葉で、ストレスフルな社会で役立つ能力として、いま注目を集めています。
国木田さんは言葉を選びながら、慣れない日本でのカルチャーショックや自身の闘病体験をシェアしてくれました。
「20歳の頃、レジリエンスという言葉と出合いました。人前でこういうことを話すのは初めてなのでとても緊張していますが……子宮内膜症になり、子どもをもつことが難しいと診断されたのです。母になるのは私の大切な夢の一つ。その時、人生はコントロールできないものだと学びました」(国木田さん)
悩んだ末、治療を決意した国木田さん。成功率は高くはなく、投薬の影響で体重や肌の調子が変わるためモデルの仕事を諦めるリスクを覚悟した上で、治療というチャレンジの道を選んだといいます。
「約3年間毎日、鏡に映る自分を見ながら子どもができないかもしれない現実と向き合い続けることで、人生観が大きく変わりました。コントロールできない現実を無視せず、まずは受け止める。そこから自分自身のタフネスを作る大切さを知ったのです」(国木田さん)
辛い治療の末、無事病気を克服した彼女。
遠藤編集長からの「心も身体もハッピーな状態でいるために、気をつけていることは?」との質問に、「今日は誰とも会いたくない、喋りたくないという自分の気持ちをスルーせず、あえて立ち止まること。そして心をピースフルに落ち着かせ“自分と過ごす”と、活力が戻ってくるのを感じます。好きな人と過ごし、しっかり運動するのも大切ですね」答えました。
しなやかに選びとる。折れない働き方、やわらかな人生。
「誰もが幸せに働き続けるために必要な視点って?」をテーマに、しなやかに生きるヒントを語り合うカンファレンス。ミレニアル世代とZ世代をそれぞれ代表するアントレプレナーである申真衣さんと、合田文さんが登壇しました。
申さんは11年間の証券会社勤務後、ゲーム関連のエンターテイメント会社を創業した経営者です。
まったく違う業界にキャリアチェンジした理由について「人生100年時代。働くことが大好きな私はきっと80歳くらいまで働くと思うのですが、その年までずっと一つの仕事だけやり続けるイメージが持てなかった。途中で大きく仕事を変え、そのために学び、柔軟にダイナミックにキャリアを設計できる人の方が幸せになれる。『LIFE SHIFT ――100年時代の人生戦略』という本でそんな考え方に感銘を受けたのが、きっかけの一つです」と語ります。
合田文さんはジェンダーやダイバーシティーについて漫画で紹介するメディアを運営中。前職ではスマホゲームをつくったり、人材系企業で働いていたりしました。
「前職時代、LGBTQの方たちの就活がめちゃくちゃ大変だという話を聞いて。彼ら彼女ら向けのイベントを企画したところ数百人規模の方に来ていただき、これは素晴らしいと感動したんです。現在の仕事を始めたきっかけです」(合田さん)
複数の仕事と子育てをこなす申さんのもとには、「どうやってやりくりしているの?」という質問がよく届くそうで。「うちの家庭では家事と育児を、夫と私が全部半々で分担しています。キャリアを築いていく上で、どういうパートナーを選ぶかはとても大切」と話します。
やがて話題はジェンダーバイアスについてへ。
「保育園に子どものお迎えに行くと、男の子は車のおもちゃで遊び、女の子はまったく別の遊びをしている……なんてことがあり。子どもに絵本を読んでいると『あれ? 男の子はつねに冒険して竜と戦っているよね? 女の子はいつもキレイなドレスを着ているし……なかには寝ているだけの主人公もいる』と気づく。こんなにも幼い頃から意図しない形で、男女のイメージをインプットされているんだなと驚いてしまいます」(申さん)
「私も、小さい頃から結構ボーイッシュなタイプだったけど、女の子だからと赤やピンクのモノばかり与えられて。本当は青色がよくても、前者を選ばないといけないんだろうなというプレッシャーを感じていました。本当は子どもたちがときめくものを自由に選べるのがベスト。小さい頃から『あなたがいいと思うものを選んでいい』と伝えることが大切だと思います」(合田さん)
「自分の子どもには、みんなが言うことは必ずしも正しいことじゃない、自分で考えて疑問に思ったら何で? と聞こうね、と日頃から話しています」(申さん)
各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数が120位(150カ国)の日本社会に対しては、二人とも、もどかしい思いを言葉にします。
「まだ“女性経営者”や“女医”なんて呼ばれ方をするし、とくに政治・経済分野に関しては、日本の女性はなかなか参加できていないと感じる。120位という数字はそんな現実を突きつけてきます。いま社会で、ようやくそれは問題だよねと言われる風向きになったと感じています」(合田さん)
女性の経営者だと資金調達しづらいとか、ビジネス上で性的な関係を要求されてしまったとか。そんな現実も耳に入ってくるそう。「働く上では男女間に大きなギャップがあるように感じる。自分も発信を通じて、少しずつ変化を促していければ」と語りました。
いまを変えていくことは、次世代の女性へのバトンリレーでもあります。
「私がこうして働けているのは多分、もっと大変な状況で働いていた上の世代の女性たちのおかげ。自分がいま頑張れば、次の世代に何かを残せるんじゃないか、残したいな」(申さん)
「たとえばボーイッシュなタイプの女の子だったり、異性愛者ではない女の子たちのロールモデルが日本には全然ないんですよね。海外で同性婚ができるようになるとLGBTQの方たちは、やっぱり希望を持って生きていけるということが数字でも現れているんですよ。従来の女性らしさに依拠せずとも、自分らしく輝ける、頑張れるんだぞっていう一例、一例を私も見せていけたら」(合田さん)
身体との向き合い方はどう変わる?
日本でも盛り上がりをみせるフェムテック業界。テクノロジーの力で、女性の健康課題に関するソリューションを提供するアイテムやサービスが、どんどん増えています。カンファレンスでは身体との向き合い方、性に関する悩みを解消しウェルビーイングにつなげる方法を3人が語り合いました。
登壇者は国内フェムテック市場を牽引するfermata 株式会社でGlobal Business Managerを務めるカマーゴ・リアさんと、オンラインED診療サービスを手掛けるメンテックカンパニー・SQUIZ 代表取締役の平野巴章さん。MCはメディア&コミュニティ「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 」コミュニティプロデューサーの井土亜梨沙さんが務めました。
カマーゴ・リアさんは、ナプキンがいらない生理用吸水ショーツや、オリモノの状態から排卵日を判別できる個人向けの妊活用ガジェット、PCマウスのようにも見えるデザイン性に優れたバイブレーターなどを手にアイテムの魅力を紹介。フェムテックに携わる動機の一つとなったエピソードをシェアしてくれました。
「アメリカ留学時代、友人のほとんどが月経カップを使っていて、日本から渡米した私はその名前すら聞いたことはなかったけど、使ってみたらすごく便利で。開放された感がすごかったんです。こうしたプロダクトを必要としている人たちの手に届けるにはどういうステップや手段が必要なのかを、考えるきっかけになりました」(カマーゴ・リアさん)
平野さんは成人男性の4人に1人がEDで悩んでいるにもかかわらず「なかなか他の人に言いづらく、オープンにしづらい」ことを指摘します。
「EDはこれまで男性だけの問題と捉えられてきましたけど、実は男女の問題だと思っていて。パートナーが『自分に魅力がないからかな?』と悩むケースも多いのです。いざ本人がクリニックに治療に行ってみても、『若い頃の自分を取り戻そう』みたいな宣伝コピーが目に入り、実は若い男性で悩んでいる方はかなりいるので……ED受診のハードルって意外と高かったりします」(平野さん)
カマーゴ・リアさんは、「もしかしたら今日みたいに、こうして女性と男性が並んでちょっと緊張しながらもカジュアルに、経血やEDについて恥ずかしがらず話すことが大切かもしれません。そこから性の話をオープンにすることへのタブー感をぶち壊せる気がします」と希望を語りました。
井上さんはカーゴマ・リアさんの意見に賛同した上で、以前在籍していたメディアで「女性が自分の身体についてもっとオープンに話そう」という企画の担当者だったエピソードを共有。
「どうしても性について話せない人はいるし、その人たちを否定したくはないと感じました。オープンに話すだけでなく、話す以外の選択肢があるかが重要だと思います。たとえばふらっと立ち寄った百貨店でフェムテック商品と出合い『自分はひとりで悩んでいるわけじゃない』と気づくことで救われたり」(井土さん)
私のシゴトに出会おう。心に眠るビジョンをビジネスに変える一歩。
リモートワークの普及など、働き方に大きな変化があったこの1年。「自分らしく働きたい」という気運も高まりました。結婚や出産、パートナーの転勤など外的要因の影響を受けやすい女性が、自分らしいキャリアを構築する方法とは、はたして? そんなテーマで語り合うカンファレンス。
登壇者は米国に本社を置くインテル株式会社の代表取締役社長・鈴木国正さんと、ミレニアル世代の女性向けキャリア支援スクール〈SHElikes〉のCEO 福田恵里さん。MCを株式会社Warisの共同代表/共同創業者・田中美和さんが務めました。
「女性は結婚出産を目前に『このままの働き方でいいの?』と一旦立ち止まって考える傾向があり、そのソリューションの一つとしてスクール事業を運営しています。デザイン、マーケティング、YouTube人気を受けた動画編集、SNSの活用方法など、いろいろなスキルの学習をつまみ食い的に体験できるのが特徴の一つ。場所や時間にとらわれず、女性たちがアイディアやクリエイティビティを活かして働ける仕事に人気が集まっています」(福田さん)
コロナ禍以降〈SHElikes〉の会員数は4倍に増加したそう。サービス業や営業職など対面の仕事に従事していた女性たちが、より柔軟な働き方へキャリアシフトする例が増えていることが伺えるといいます。
フリーランスで働きたい女性と企業をマッチングし、離職女性の再就職を支援する株式会社Warisの共同代表/共同創業者・田中さんは「うちもコロナ禍前に比べるとユーザー数が2倍以上に増えました」と語ります。
「自社アンケートによるとコロナ禍以降、70%の方の働き方の意識が変わったという結果に。組織型からプロジェクト型へ、会社から個が力をもつ社会へ。企業側は研修にお金や時間を以前のように使わなくなってきており、個人が自身でスキルを磨く必要がでてきたなと感じています」(田中さん)
複数の国で働きながら女性の社会進出やダイバーシティーの促進を目の当たりにしてきたという鈴木さんは、「コロナ禍で日本のデジタライゼーションの遅れに気づく人が増えてきた」と語ります。
「アジアの国々の方がリモート授業をスムーズに行っている……といった情報がSNSなどで入ってきた。この気づきは日本社会が大きく変化するいいチャンスでもあります。文科省が当初数年かけてPCを小学生1人1台に配布する予定だったのを、前倒しで実施できた例もあります。
今後、労働人口は減っていきますから、将来的には『デジタライゼーションを進めたフリーランスの方の仕事が溢れかえるのでは?』と予想します。これはIT業界に限らずすべての分野においても同じ。つまり、ボーッとしていてはダメで、環境整備やスキルアップなどの準備をいまからしっかりやていく必要があると感じています。インテルとしては、デジタルハリウッドさんと連携して、ママや主婦層の学びをサポートするなど、デジタル技術を使って女性の社会進出を強く応援していきたいです」(鈴木さん)
話題は企業の多様性にも及びました。
「管理職女性20%と定めていても社外取締役だけで女性20%とか、フロントに立っている方だけで女性比率が高いように見せるとか、目標を形骸化するのではなく。あくまで実行が大切。意思決定やマネージメントの部分に女性を入れていくのがとても大切だと思います」(福田さん)
社内にある多様な意見をどうやてうまく組み上げられるのか?という視聴者からの質問に、鈴木さんからは「なかなか上司に言いづらいことがあれば、個人ではなく、たとえば女性同士のコミュニティ全体の意見として会社に伝える。人事部や、国際的な会社であれば海外にある本社にそうした意見を汲み取る窓口を置くのもよいのでは」とアドバイス。
福田さんは「どんな意見でも口にしていい、会社の未来のためになるんだという心理的安全性を組織の中で醸成する。これがいろいろな意見を活発にする第一歩ではないでしょうか」と話しました。
・取材を終えて
コロナ禍以降、社会や組織の古い価値観が露見し多くの批判にさらされるのを目にすることが増えました。閉塞感や固定観念にとらわれることなく、つねに新しい情報を採り入れてアップデートすることが、より必要になったのかもしれません。今回のカンファレンスでは多彩な登壇者の意見に多くの刺激を受け、いろいろな方のエピソードに共感することで、自分も生きやすくなった気がします。
『MASHING UP』
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