伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第11回
アイドルとしてはもちろん、ラジオパーソナリティとしても大活躍。乃木坂46の山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを、自由に綴ります。
(photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Yu Kuroda)
「根拠のない自信」
2021年は、葛根湯と栄養ドリンクを買いに走るところから始まった。原因は、私の体温調整が甘かったことにある。我が家は備え付けのエアコンとデスクの位置との相性が悪く、座っていると首すじに生ぬるい風が当たって気が散るし、乾燥も気になるのでどうしてもリモコンに手が伸びない。夏だろうと冬だろうと私の中でエアコンは存在しないことになっているので、部屋の中では厚手の部屋着にレッグウォーマーを穿き、毛布を羽織って湯たんぽを抱く、これが冬の定番スタイルになっている。全身が毛足の長いブラウンの布に包まれている姿はさながら山から下りてきた熊のようだが、とにかく寒さを凌ぐのが急務なのだから家に帰ってまでルックスを気にしていられない。先人たちから受け継いだ昔ながらの手法を駆使すれば、電気に頼らずとも寒さを凌げるでしょう……という根拠のない自信が通用せず、しっかり身震いしながら気合いと根性で迎えた新年、次の冬はコタツを買うと固く決意した。
年始の風邪はすぐに治ったものの、体力勝負はしばらく続いた。感覚的には「戦った」というよりも、深い深い渦の中でジタバタしていたという表現に近い。平日は決まった時間にFMラジオの生放送をしており、前後の時間でフリートークのネタを拾ったり、ニュースを見たり、次のゲストに合わせた準備をする。事前にインタビュー記事や著書を拝読する一方で、しれっと自分も本を出した。原稿のやり取り自体がそもそも初めてだったが、発売してからもコロナ禍で書店巡りやイベントができなかったので、Amazonの販売ページを何度も更新してレビューを読んだ。そうすることで、自分の名前で出された本が世の中に存在するということが、やっと実感として得られたのだ。
ラジオの準備も執筆も静かに内省していく仕事だからか、普段から落ち着いた所作や話し方をするようになったし、そういう自分でいることもしっくりきている。
ただその結果、初めて座長を務めるライブの前夜に「そのテンションでMCをするつもりなら違う人がやるべき」と演出家さんからお叱りを受けた。ライブの盛り上がりを私のMCで落ち着かせてどうする。当日はどうにか元気さを絞り出そうとしたら、声は裏返るわ最初の挨拶を飛ばすわで本来あるまじき姿をお見せしてしまったが、少しは改善できていただろうか……。
あれから一年。あっという間に2022年になり、すでに今シーズンのコタツ販売は終盤を迎え、お一人様でも使える小さいサイズは軒並み完売していた。今、私は懲りずにまた同じ手法で冬を越そうとしている。相変わらず暖房をつけず、着込める限りの布を着込んで、正月休みを襲う強烈な大寒波に立ち向かっている。アホすぎる。暖房つければ良いのに。
でも根拠のない自信を持つことこそ、私のようなゴールがない仕事をしている人には大切なのかもしれない。むしろゴールが来ないように手持ちの駒でやりくりしていかないといけないのに、自分ではどうにもならないことも多い。そんな時、まずは「できるできる大丈夫」といった言葉を呪文のように自分に言い聞かせて、なんとかなると思うことにした。当たり前だが、ブツブツつぶやくだけでぼんやり明後日の方角を見るのではない。その呪文を現実にするための努力をベタベタ上塗りしていくから、方向性を見直したり、微調整したり、ときには都合の良い解釈をして、なんとかしていくことができるのだ。
仕事が充実する傍ら、「私はどんどんおめでたい人間になってしまうのでは?」という危機感は常に差し迫ってくるけれど、昨年いろんな試練をちょっとずつ乗り越えてきた自分を、少しだけ信じてみたい。