今のあなたにピッタリなのは? 女優・入山法子さんのために選んだ一冊とは/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』
さまざまな業界で活躍する「働く女性」に、今のその人に寄り添う一冊を処方していくこちらの連載。記念すべき20回目のゲストは女優の入山法子さん。15年来の付き合いとなる彼女に、仕事からプライベート、人生の転機となった出来事を深掘りさせていただきました。
今回のゲストは、女優の入山法子さん。
高校卒業後に『InRed』や『SPRiNG』などでファッションモデルとして活躍。その後、女優の道へ。料理と音楽、洋服、ベランダ菜園、猫を生活の癒やしとしながらも、趣味らしい趣味がないことが最近の悩みなのだとか。
私も頑張らなきゃ!って奮い立たされていた。
木村綾子(以下、木村)「久しぶり! ノリちゃんとはもう15年くらいの仲になるけど、こうして会うのはすごく久しぶりな気がするね。前はあんなに頻繁に会ってたのに」
入山法子(以下、入山)「うん、月1ペースとかで会ってたんじゃないかな。仲良しグループのなかに、おもてなし上手な子がいて、誰かの誕生日やお祝い事があると、いつも家に招いてくれてね」
木村「総勢10人以上いたから、毎月誰かしらをお祝いしてたっていう(笑)。でも考えてみれば、いつも大勢で集まっていたから、こうして二人でじっくり話すのは初めてな気がするの。なので今日は、いまさらだけどノリちゃんがどんなキャリアを歩んできたのかを教えてほしいです!」
入山「ふふふ。改まると気恥ずかしいね…。えっとね、高校を卒業した頃から、『InRed』や『SPRiNG』などの、宝島社系のファッション誌のモデルとしてお仕事をさせてもらうようになったのがこの世界に入るきっかけだったの。そこから徐々に女優のお仕事もいただけるようになって、大学卒業をきっかけに、本格的に女優の道に進み始めたという感じです」
木村「私たちが出会ったのって、ノリちゃんがモデルを始めたての頃だったんだね。ってことは、入山法子の飛躍をずーっと、アリーナ席で見させてもらってきたってことか(笑)。身近で見てきた者としても、着々とキャリアを重ねていったように思えるんだけど、本人的にはどう?」
入山「全然! むしろずっとジタバタしている感じだよ」
木村「え、そうなの!? 私のなかで印象的なエピソードを挙げるとね、ノリちゃん、大学卒業後に語学留学のためにシドニーに行ったでしょ? 当時のノリちゃんっていえば、雑誌はもちろん、CMやドラマでもよく見るようになってて、引く手数多だったと思うの。乗りに乗ってる仕事をすべてお休みして単身海外に行くって、そう簡単にできることじゃない。「いま目の前のこと」だけじゃなくて、「先を見据えた今」を見つめられる子なんだなぁって感心していたんだよね」
入山「実は今だから言えるけど、あの留学はむしろ迷走の果ての行動だったの…。当時の私ってコンプレックスの塊で、「何かしなくちゃ!」って焦りの方が大きかったんだ。っていうのも、仲良しグループの子たちみんな、自分の名前と得意分野でお仕事をしていたじゃない? 職種はばらばらだけど、好きなことを仕事にしてて、忙しそうなのにすごくキラキラして見えて…。そういう中にいたから、私も頑張らなきゃ!私にはこれがあるってものを見つけなきゃ! って、いつも奮い立たされていたんだ」
エピソードその1「自分なりにいっぱい悩んで…」
木村「最近は女優業に専念してるってことをさっき話してくれたけど、お芝居一本でやっていこうと思ったきっかけって、何かあったの?」
入山「やっぱり『きみはペット』で主演を務めさせてもらったのが大きかったかな」
木村「大抜擢をみんなでお祝いしたよね! そこでお芝居の楽しさに目覚めたとか?」
入山「じゃなくて…。ある日の現場で、監督から突然背中を叩かれて、「お前、いまのままだとみんなから嫌われるぞ」って言われてしまったことがあって」
木村「こわー!」
入山「私も、「それは嫌ー!」って食い下がったんだけど、監督がくれたのはその一言きりで、「なぜか」も「どうしたらいいのか」も教えてくれなかったの。その答えを探しながら、お芝居を続けてます」
木村「自分ごとに置き換えたら絶対味わいたくないホラーだけど、その言葉で奮い立つところがノリちゃんらしいなぁ。…監督はなんでそんな風に思ったんだろう」
入山「最近思うのは、もっとがむしゃらになれってことだったのかなぁって」
木村「ノリちゃん真面目だから、「入山法子」っていう枠を自分で作って、そこからはみ出さないような、人の期待に応えられるような演技をしなくちゃって思ってたのかな?」
入山「それは結構あったかもしれない。求められる像を一生懸命こなすことが良いことだと思い込んでいたんだけど、この頃から徐々に仕事の向き合い方が変わっていって。自分のことを怖がらずに見せられるようにもなったんだ。芝居が好きだって気持ちもどんどんと増していったし、少なくともいまではもう、自分のイメージを自分で作ってそこに囚われるようなことはなくなったかな」
木村「「嫌われるぞ」という一言が、ノリちゃんの人生のターニングポイントになったんだね」
処方した本は…『女の節目は両A面(岡田育)』
木村「『女の節目は両A面』は、人生におけるターニングポイントをテーマにしたエッセイ集なんだけど、ちょっと手にとって中を見てみて」
入山「…ん? 縦書きの文章が、途中から横書きになってる。どういうこと?」
木村「実はこの本、タイトルにもあるように“両A面”のミラー構造になってるの。表紙から読むと、これから起こるであろう節目に対する考えが綴られていて、裏表紙から読むと、いままで経験してきた節目を回想できるという仕掛け」
入山「ホントだ。“これから”パートには、「まだ見ぬ、マイホーム」「まだ見ぬ、出産」「まだ見ぬ、介護」「まだ見ぬ、閉経」「まだ見ぬ、私の葬式」…。“いままで”パートには、「初めての、恋」「初めての、犯罪」「初めての、肉体関係」「初めての、泥酔」…って。体験談には具体的な年齢も記されててリアルでドキドキしちゃうけど、自分の経験と照らし合わせながらも読めるね」
木村「そうなの! 例えば今回の私たちみたいに、長く親しくしてる友だちがいても、それぞれの節目や、その節目とどう向き合ってきたかをじっくり話す機会って、実は少なかったりするじゃない? あるいは人によっては、渦中にいるときは、大事な友だちに心配かけたくないという思いから、悩みを打ち明けられず一人で抱えてしまうタイプもいるだろうし…。そういう人に寄り添ってくれる一冊でもあると思うんだ」
エピソードその2「改めて、自分と向き合ってみたい」
木村「ねね、私ノリちゃんのアメブロが好きだったんだけどね。日々の徒然や仕事のこと、そこから得た気づきなんかが肩肘張らない自然体の文章で綴られていて。いまはインスタでノリちゃんの生活に触れられるけど、インスタの作り上、最初に目に入ってくるのが写真だから、“写真に添えられた文章”って読み方をしてしまうんだよね。ブログはそうじゃなくて、言葉と写真とがフラットに並んであって、なんか良かったんだよなぁ」
入山「わー、ありがとう。綾子ちゃんが読んでくれてたの知らなかったから恥ずかしいけど、でも嬉しいなぁ」
木村「あとね、言葉でもっとノリちゃんのことを知りたい!とも思っていたんだけど、文章で自分を表現するみたいなことには興味はないの?」
入山「それがね! 実は一度、本を書いてみませんか?ってオファーを頂いたことがあったの。2年間くらい、書いては消してを繰り返している間に、時間切れになっちゃったんだけど…」
木村「そうだったんだ!どんなことを書いてたの?」
入山「エッセイで、「入山法子」を惜しみなく書いて欲しいってことを言っていただいて。小さい頃から好きだだったこととか、仕事に対しての思い、生活、恋、家族…とにかくなんでも言葉にしてみる作業を続けていました」
木村「文章を通して自分と向き合ってみて、どうだった?」
入山「めちゃくちゃ難しかった! 私は自分を表現する言葉をまだ全然持ってないんだってことに唖然としてしまったんだけど、嫌いじゃないなとも思ったの。でね、時々思うの。今の私だったら、等身大の言葉を使って書けるんじゃないかって」
木村「えーいいじゃない!書こうよエッセイ。出そうよ本!!私、マガジンハウスに企画書書いてみようかな(笑)」
処方した本は…『蝶の粉(浜島直子)』
木村「ノリちゃんがエッセイを書くならここを目指してみては?とひらめいた一冊がコレ。我ら思春期時代の憧れモデル、“ハマジ”こと浜島直子さん初のエッセイ集です! ちなみに『mc Sister』とかって読んでた!?」
入山「読んでた読んでた! 私もハマジさん好きだったなぁ。飾らないキャラクターで、モデルさんなのにどこか身近な存在に思えて。この表紙の女性も、どことなくハマジさんっぽく見えるね」
木村「この黒のタートルニットのエピソードもエッセイに綴られてるんだよ。ハマジさんがまだ札幌の田舎に住んでた高校2年生のある日、憧れていたドゥファミリィのニットを買いに一人でデパートに行くっていうエピソード」
入山「ドゥファミリィ懐かしい!そんな宝物みたいなエピソードに「初恋の手ざわり」ってタイトルをつけるのも、素敵だなぁ」
木村「ページをめくっていくと分かるように、モデルさんの本=スタイルブックではなくて、活字のみの骨太のエッセイ集なんだよね。自分という実体ありきで仕事してきた人が、活字だけで自分を伝えるって、相当な覚悟が要ったと思うんだけど、読んでみるとね、文章から読み取れる生き方の軸だけじゃなくて、言葉の選び方や表現ひとつひとつに彼女の輪郭が立ち上がってくる素晴らしい内容だったの」
入山「それってすごいことだよね!先を行く先輩がいつまでもカッコいいのは、生きる指針になるなぁ」
木村「ナチュラルだけど、好き嫌いはしっかり言う。お砂糖とピリリと効いたスパイス。自然体になったノリちゃんが今、目指すべきはここじゃないかなって思ったんだ」
エピソードその3「良き理解者としてやっていけると思う」
入山「綾子ちゃんには個別にご報告もしてたんだけど、私、昨年、離婚をしまして…」
木村「うん。伝えてくれてありがとうね。あの時久しぶりに、仲良しグループのLINEで長くやりとりしたよね。ノリちゃんの人生の転機を受け取って、それぞれどう思ったかとか、会ってない期間に自分にはこういうことがあって、こういうことを考えていたよとか…。ノリちゃんの決断をきっかけに、みんな改めて自分の立っている場所を見つめるきっかけを得たような気がしたんだ」
入山「みんながくれた言葉、あの後も何度も読み返したなぁ。離婚って言葉にするとネガティブに響いてしまうかもしれないけど、お互いがお互いの生き方や大切なものを尊重した結果の選択だったんだよね。相手をこの先もずっと尊敬できるように、自分の人生を自分で好きだと思い続けられるようにって」
木村「恋人同士から結婚、離婚という過程を知っている者として感じたのは、社会の制度で名付けられたもの以上の家族的関係を、二人はすでに築いているなぁってことだったの。その特別な関係性は、結婚という契約が解消されたからといって、ほどけてしまうものじゃないだろうし。だから勝手に、これからの二人と、それぞれの人生を期待してるんだ」
入山「私もね、この先どうしよう…って不安よりも、この変化が私をどう変えていくんだろうっていうワクワクのほうが、実は大きいんだ」
処方した本は…『私の家(青山七恵)』
木村「ちょうど「家族」っていうワードが出てきたから、私も思い切って話してみようと思うんだけど。家族と暮らした年月より東京暮らしの方が長くなった、30代後半くらいかな。「家族」とか「家」って、いったい何なんだろうってことをずっと考えていたの」
入山「家族、家、かぁ。人それぞれに、イメージするものが違いそうだよね」
木村「私はまだ独身だから、「家族」といえば生まれたときすでにあったものになるんだろうけど、彼ら以上に長い時間や多くを分かち合ってきた人たちを「家族」と感じることもあるの。さらに「家」となると、それはもはや故郷の家ではなく、一人暮らしの家がパっと浮かぶんだよね。だからといって仮住まいだから、いつまで経っても根無し草みたいな気持ちもあって…」
入山「わぁ、わかるなぁ。一般的な言葉の意味と、自分にとってしっくりする意味合いがズレていく感覚」
木村「そんなときに出会ったのがこの小説だったの。恋人と別れて住む家を失い実家に帰ってきた娘を軸に、年の離れたシングルマザーに娘以上に親身になる母や、幼い頃に住んでた家に似た家に、家族の目を盗んで通い続ける父、何年も音信不通の伯父、孤独を愛して生涯独身を貫いているのに、他者から生活を乱される大叔母など、三世代からなる一族一人一人と「家」との関わりを、それぞれの視点からすくい上げて紡がれていくのね」
入山「へぇ、面白そう! ひとくくりに「家族」とされていても、みんなそれぞれ違う価値基準で生きてるところがリアルだね」
木村「そうなの。そのすれ違う様に、どこかホッとしたんだよね。家族だからって分かり合えるとも分かち合えるとも限らないし、それを悲観する必要もないんだって。家にしても、その場所があることで安心する人がいたり、逆にそこから逃げることで自由になれる人がいたり、幻影を追い求める人がいたりと様々で面白いなって。一本の木に成るりんごみたいに、形も色も味も異なってていい。ほんとは柿に生まれたかったのになぁとか思ったっていいんだって(笑)」
入山「柿になりたかったりんご(笑)。でも、うん。家族や家に対しても、「こうでなくちゃ」とか決め込まないほうが自由に生きられるんだろうね」
木村「その考え方って、さっきノリちゃんが話してくれた、仕事に対する向き合い方にも通じるものがあるね!」
入山「ほんとうだ! 改めて「家族」について考えている私にとって、いま必要な本に出合えたような気がしてきたよ。綾子ちゃんありがとう!」
対談を終えて。
対談後、『私の家』と『蝶の粉』を購入してくれた入山さん。 「しばらく会えていなかった時間の空白を、本が埋めてくれたような気がして満たされました」と話してくれました。私も大好きな入山さんのInstagramアカウントはこちらから。愛猫マタがとにかく可愛いので、みんなで愛しましょう。