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【カレーときどき村田倫子】 失恋を原動力に!経堂〈彼女のカレー〉で愛情のこもったチキンカレーに胸キュン。
「カレーときどき村田倫子」へようこそ。食べたいカレー屋さんを訪ね、自身でつらつらとカレーに対する想いを綴る、いわば趣味の延長線ともいえるこの企画。あぁ、まだまだ寒さが残る冬。なんだか人肌恋しい。豪華な外食でもなく、レパートリーに乏しい自炊でもなく、もっと温度が通ったもの、人がつくった手料理が無性に食べたい。さて、そんな渇望を満たすため今回訪れたのは経堂。こちらに、さみしんぼ胃袋を癒す、すばらしいお店がある。〈彼女のカレー〉だ。
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名前通り、彼女がつくったカレーを食べれる場所。みなさんは自分の大切な人(家族、友人、恋人)に手料理を振る舞ったことはありますか?キッチンで、あーでもない、こーでもない…と鍋を振るう。そのとき、あなたのゴールにあるのはきっと“相手の喜ぶ顔“。そんな優しくてあたたかな気持ちを抱きながら紡ぐ料理。ここでは、そんな過程と温度を大事にしたカレーが待っている。
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店を切り盛りする“彼女“さん。彼女がこの店をはじめた理由。それは失恋だった。彼を見返したくて、やけくそになってはじめたのか?そんな生半可なものではない。彼女は、この失恋と十分に向き合い、咀嚼し、消化した上で、新たなスタートを切ったのだ。
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「しばらくは本当にショックで何も手がつきませんでした。でもこのままではダメだと思ったときに、自分が好きだった料理のことを思い出したんです」。失恋をプラスの動力に変換。本業と並行しながら、昔からの夢でもあった飲食経営の道を歩みはじめた。振られた彼の好物である“カレー”で勝負をはじめたのも、アイロニックな話。彼女の意思の強さを感じる。この覚悟はなかなかできるものではない。私だったらメソメソくすぶって、自分の外で原因探しをしてしまうだろう。
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勇ましく新たなスタートをきった彼女が丁寧に紡ぐ、「彼女のカレー」。野菜とキノコがたっぷり溶け込んだルゥにごろりと横たわる手羽元。ほくほくの五穀米、鮮やかに散りばめられたケールと、ローストナッツ。彩りを添えるキャロットラペとほうれん草の胡麻和え。ほっこり可愛らしいチキンカレーだ。
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あぁ、卵が定番の半熟ではなく固ゆで卵っていうのも、即菜がアチャールではなく胡麻和えっていうのも、なんだか家庭っぽくていい。「大事な人にはずっと元気でいてほしいから。なので栄養面には気を遣ってます」。
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よい、非常に彼女感ある。わたしが彼氏だったら、この時点でもうぎゅっと抱きしめているだろう。実は栄養士の資格をもっている、彼女さん。その領域のプロが仕込むなんて説得力しかない。
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ほっくりとした甘さ。そして一呼吸おいて広がる爽やかで優しい辛味。余韻に残るのは、凛といた旨味。本格的なのに、どこか懐かしく柔らかくわたしを包み込む。「専門店のカレーとも、お家で食べるカレーとも一味違う。自分の為に色々考えて作ってくれたんだな…と思ってもらえる、そんなあたたかみのあるカレーを目指してます。それが彼女のカレーの真骨頂だと思うんです」。
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もうね、ビンビンに伝わってますよ。なんだか身体が熱ってきたのはスパイスの効果?それとも愛?
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家庭感を保つために、スパイスもできるだけ最小限に抑えて旨味を引き出しているのだとか。この引き算を割り出すのに、試行錯誤の日々だったという。彼女の愛ある奮闘の答えは、今目の前にある一皿を食べれば一目瞭然。もう一回ハグしていいですか?(好きとありがとうが止まらない)
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ここは飲食店の間借り営業ではなく、レンタルスペース。そのため、営業日は朝早くからお店に入り、お店のセッティング、カレーの仕込みをはじめるという。
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「バタバタですが、妥協はしたくなくて…」と柔らかに微笑む健気すぎる彼女さん。
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カレーでほっこり癒された後は、季節ごとにフレーバーが変わる「彼女の気まぐれラッシー」を。この日は柚子ジンジャーフレーバー。濃密なラッシーと柚子の風味にうっとり。
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甘いものが恋しい方は、彼女さんお手製のスイーツまで楽しめるという、至れり尽くせりコースだ。
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「本日のケーキ クラシックショコラ」。この日はバレンタインが近かったため、ハートのあしらいが…!こうゆう気配りもポイント高い。彼女のカレーとは、“自分のことを大事に思ってくれる人(彼女)”が“私”にむけた愛と感謝の形。美味しいのはもちろんだけども、その“想い”が一番のスパイスになって、私の身体と心を癒す。
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好奇心と、挑戦に燃える愛しい彼女の姿を覗きに、なんだか元気になるあたたかいカレーを食べに、また彼女に会いに行こう。
〈彼女のカレー〉
■東京都世田谷区経堂2-7-14 〈リリィスタジオ&カフェ内〉
■不定期営業 12:00〜15:00(ルーが無くなり次第終了)、17:00〜21:30(L.O21:00)
詳しくはインスタグラムをチェック @kanojyo_curry
(photo:Kayo Sekiguchi)