【関東編】おひとり様、初心者でも楽しめるお祭り・盆踊り

【関東編】おひとり様、初心者でも楽しめるお祭り・盆踊り
【関東編】おひとり様、初心者でも楽しめるお祭り・盆踊り
TRAVEL 2024.08.08
猛暑が続く今年の夏も、各地でさまざまなお祭りや盆踊りが開催されています。ここでは、おひとり様や初心者でも楽しめる関東で開催されるお祭りや盆踊りを、文筆家の大石始さんがご紹介。それぞれの歴史や理由を詳しく知ることで、お祭り・盆踊りがもっと好きになれるかもしれません。今年の夏はお祭り・盆踊りで乗り切りましょう。

隅田川とうろう流し(東京都台東区・墨田区

写真提供:浅草観光連盟 365ASAKUSA

毎年8月、隅田川では灯篭を静かに浮かべる「隅田川とうろう流し」が行われている。

隅田川に灯籠を流す風習は昭和21年、浅草復建自治会(現在の浅草観光連盟)が実施した「浅草復興祭」の一環として始まった。灯籠を海や川に流し、死者の魂を弔う風習は世界各地で行われているが、東京大空襲の際に多くの遺体が流れた隅田川でも戦没者の供養を目的として灯籠流しが行われるようになった。

その後隅田川の夏の風物詩として定着。最盛期には3000個もの灯籠が川を彩ったという。だが、川の水質悪化や護岸工事の影響から昭和41年に中止に。浅草観光連盟の旗振りのもと再開されたのは2005年のことだった。

現在では灯籠を事前販売しており、ネットでの販売も行われている。側面に願いや死者へのメッセージを書き込み、川へと流す。岸辺には灯籠が流れる光景を一目見ようと見物人が集まるものの、決して大規模な花火大会のような騒々しさはなく、厳かな祈りの雰囲気に包まれている。川面に灯籠の淡い明かりが反射する光景は幻想的なもので、夏の暑さを少しだけ忘れさせてくれるはずだ。

ひとりでふらり隅田川を訪れ、流れゆく灯籠に向かって静かに手を合わせる。そんな夏の夜の過ごし方はいかがだろうか。

※とうろうは当日も14時から18時まで販売します。

森戸の浜の盆踊り大会(神奈川県三浦郡葉山町)

夏ともなると多くの海水浴客で賑わう三浦半島西部・葉山町。その一角に広がる森戸海岸では、毎年生バンドによる盆踊り大会が行われている。レパートリーは「炭坑節」や「東京音頭」といったスタンダードな盆踊り歌だが、大所帯バンドで演奏されると、誰もが知るスタンダードがまったく違うものに聞こえてくるから不思議だ。

森戸海岸で盆踊りが行われるようになったのは昭和30年代のこと。当時の葉山には会社の寮も多く、夏のあいだ寮で過ごしていた家族がこぞって盆踊りにやってきたのだという。だが、平成に入るころには衰退。活気も失われていたと聞く。

復活を遂げたのは2000年代以降。音楽好きが集まる海の家「OASIS」の面々によって再開の気運が高まり、2006年に「森戸の浜の盆踊り大会」として本格的な復活を遂げることとなった。生バンドでの盆踊りタイムはそれ以降の風習だ。

「森戸の浜の盆踊り大会」の魅力は、葉山らしいピースフルな雰囲気だ。裸足になって砂浜の感覚を楽しみながら踊るのもよし、ビール片手に遠くから盆踊りの風景を楽しむのもよし。ひとりで訪れても決して寂しくなることはないだろう。潮風を感じながら生バンドで盆踊りを踊るという体験は、森戸の浜ならではのものだ。

長瀞船玉まつり(埼玉県秩父郡長瀞町)

提供:一般社団法人長瀞町観光協会

埼玉の夏祭りでひとつ挙げるとすれば、何にするべきだろうか。おそらく意見が分かれるところだろうが、ここでは荒川上流の長瀞岩畳周辺で開催される長瀞船玉まつりを挙げておこう。

長瀞船玉まつりの原点となるのは大正時代。船下りの船頭が水上の安全を祈願して水神様を祀ったことが起源とされている。見もののひとつ、提灯をつけた万灯船の運航はそうした原点を伝えるものでもある。また、万灯船運航運行の際には秩父を代表する祭りである「秩父夜祭」の屋台囃子が演奏される。華やかなバチさばきが聴きどころだ。

日が沈んだころ、多数の灯篭が川面を照らし出す灯篭流しが行われる。お盆の時期、先祖を送り出す送り火が焚かれるが、灯篭は送り火の一種とされている。長瀞船玉まつりの灯篭流しもまた、祖霊が無事に戻れるよう願う祈りの儀式でもあるのだ。その後3000発を超える花火が打ち上げられて長瀞船玉まつりはクライマックスを迎える。

毎年約7万人の人出で賑わう祭りだけあって、都心の祭り同様に会場周辺は大変混雑するが、普段の長瀞は静かで風光明媚な土地だ。もしも「船玉まつり」で長瀞を気にいった方は、ぜひ普段の長瀞にも足を運んでいただきたい。

面掛行列(神奈川県鎌倉市)

少々渋めではあるものの、夏の終わりの鎌倉を楽しめるこちらの祭りもおすすめだ。

「面掛行列」は毎年9月18日、御霊神社(鎌倉市坂ノ下)の例祭の一環として行われる恒例行事だ。御霊神社は江ノ島電鉄の線路を少し入ったところに鎮座しており、平安時代の武士である権五郎景政を祀っていることから、地元住民からは「権五郎さま」として親しまれてきた。

御霊神社の例祭では、境内に作られた神楽座を舞台にして、さまざまな神楽が披露される。クライマックスは釜に煮立てた湯の中に笹を入れ、参拝客に湯を撒き散らすことで無病息災を祈る「湯立神楽」だ。かつては釜に湧き上がる湯玉でその年の吉凶を占っていたのだという。

神輿の渡御に続いて行われるのが、面を装着した男たち10人からなる「面掛行列」だ。男たちの前には2頭の獅子頭。爺、鬼、異形、鼻長、烏天狗、翁、火吹男、福禄寿の面が並び、最後にはおかめの面を付けた妊婦と産婆が続く。その佇まいはどこか異様な雰囲気があり、横で見ているだけでゾクゾクしてしまう。

御霊神社は江ノ島電鉄・長谷駅からも近く、由比ヶ浜海岸までも歩いてすぐ。「面掛行列」で中世の鎌倉までタイムスリップしたあと、鎌倉の街や浜をそぞろ歩くのはなかなかおもしろい体験だ。

たちかわ妖怪盆踊り(東京都立川市)

近年、盆踊りは多様化しつつある。地域の信仰に根ざした伝統的な盆踊りが各地で続けられている一方で、新しいスタイルの盆踊りが各地で産声を挙げているのだ。櫓の上にDJセットを組み、クラブでのプレイのように曲を繋げていくDJスタイルの盆踊りが定着しつつある一方で、ロックやポップスで踊る盆踊りも各地で増えているようだ。

この夏も各地でそうした新しいスタイルの盆踊りが行われているが、その一例として東京都立川市で開催される「たちかわ妖怪盆踊り」に注目したい。こちらの盆踊りでは無料エリアと有料エリアがあり、石野卓球や切腹ピストルズ、こでらんに~らが出演するメインステージ(やぐらステージ)に入るにはチケット+ドレスコードをクリアすることが必要となる。ドレスコードは①妖怪になること、②和装(浴衣など)、③妖怪盆踊り公式グッズ着用という3点。このうちいずれかをクリアすれば入場することができる。

なお、「妖怪になること」はもちろんメイクやコスプレでも可能。仮装盆踊りの歴史は案外古く、山形県大蔵村や宮城県刈田郡蔵王町などでは100年以上の歴史をもつ仮装盆踊りも続けられている。たちかわ妖怪盆踊りはそうした仮装盆踊りの最新系と考えることもできるかもしれない。

text_Hajime Oishi illustration_Wasabi Hinata edit_Kei Kawaura

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