文学に、自然に、温泉を満喫。
〈城崎温泉〉でワーケーション。
リモートワークが普及し、働き方が見直される中、仕事と休暇を組み合わせるワーケーションに注目が集まっている。日本各地でリモートに適した施設が次々に誕生しているが、城崎温泉は町全体でワーケーション等の滞在スタイルに対応している。今回は長期滞在にもおすすめしたい城崎温泉の魅力をご紹介。
数々の文学が生まれた地、城崎温泉
兵庫県の北に位置する城崎温泉は、1300年もの歴史がある温泉街。多くの文化人たちからも愛され、彼らは滞在しながら作品づくりに取り組んだ。
「温泉はよく澄んで湯治によく、周囲の山々は緑で美しい。おいしい日本海の魚を毎日食膳に出し、客を楽しませてくれる。人の心は温かく、木造作りの建物とよく調和している。」
こう語ったのは、『城の崎にて』を執筆した志賀直哉。城崎温泉の湯、自然や美味しい食材、人々の温もりすべての調和が素晴らしい街だと評している。志賀直哉以外にも、与謝野晶子、司馬遼太郎、島崎藤村など文豪たちの作品の舞台として登場する。
今もなお、文豪たちが愛した柳並木が美しい大谿川の風情と情緒は健在で、昔にタイムスリップしたような町並みを残し、国内外問わず多くの方が訪れている。平成25年には「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン(改訂第3版)」で⼆つ星を獲得した。
城崎温泉街の魅力
城崎温泉と言えば、外湯めぐりが有名。
城崎では、旅館の中にあるお風呂のことを「内湯」、外にある共同浴場のことを「外湯」と言う。
城崎温泉街沿いに、さとの湯、一の湯、御所の湯、まんだらの湯、地蔵湯、鴻の湯、柳湯という7箇所の外湯が点在しており、それぞれに由来や言い伝えが残されている。例えば、鴻(こう)の湯は、別名コウノトリの湯。古く昔足を怪我したコウノトリが傷を癒やしていた場所をよく見ると、温泉が湧き出していたのが由来。
仕事の合間にも気軽に入浴できる外湯は息抜きにもってこい。1、2日ではなかなか7つ制覇は難しいが、長期滞在ならすべての外湯を制覇が可能。旅疲れにも、また、城崎では老若男女問わず浴衣で出歩くのが当たり前。浴衣を着て、旅情たっぷりに散策と外湯めぐりを楽しもう。
各温泉の現在の混雑具合も城崎温泉観光協会協力サイトでチェック。
https://kinosaki-spa.gr.jp/about/spa/7onsen/
旅館
数ある中でも、Hanako編集部がワーケーションにおすすめの宿を紹介。
三木屋
300年もの歴史を誇る老舗旅館「三木屋」。志賀直哉が定宿とし、『城の崎にて』を執筆した宿として知られている。国の登録有形文化財に認められた木造建築と300坪の日本庭園の風情はそのままに、ロビー・ダイニング・大浴場などの大規模リニューアルを行い、歴史とモダンが融合した現代の日本旅館に生まれ変わった。志賀直哉の心を癒した庭園を眺めながら仕事すれば、文豪気分が味わえるかも。ときには宿にこもって内風呂でゆっくりしたり、読書にふけったり、という楽しみ方もおすすめ。
小林屋
城崎温泉の中心地、一の湯のそばに佇む小林屋。登録有形文化財に指定された本館は、日本作家のテーブルや古来から受け継いできたヴィンテージの器、
客室の襖や障子はもちろん、壁や天井など広範囲に和紙を使用しており、館内はどこを切り取っても日本伝統の美学を感じられる。
昨年、2年間の休業を経て、客室全室、レストラン、レセプションなど全館リニューアルし、ラウンジスペース、ライブラリーも新設。空間設計はサポーズデザインオフィス、ライブラリーの選書はブックディレクター幅允孝氏が担当。
つちや旅館 UTSUROI TSUCHIYA ANNEX
自由度の高い旅を楽しみたい、一人旅を満喫したいなら、2022年温泉総選挙「テレワーク部門」関西エリア第2位受賞した、つちや旅館 UTSUROI TSUCHIYA ANNEXがおすすめ。つちや旅館の新館として2018年に城崎旧消防署をリノベーションして誕生。1階には自家焙煎の珈琲や人気のモーニングが楽しめるカフェと、日本画ギャラリーを併設。2階は全5室の宿泊施設で、1室につき1名もしくは2名が定員。白を基調とした清潔感あふれる室内に、壁一面に山田毅作の但馬の風景画が描かれている。城崎温泉街の夜を満喫するなら、宿はシンプルなプランを選択。
仕事が捗るスポット
舞台芸術を中心とした芸術活動のための滞在制作(=アーティスト・イン・レジデンス)を行う施設として、開館以来多くの国内外のアーティストを受け入れてきた〈城崎国際アートセンター〉。2022年4月1日、そんな同施設に、テレワーク拠点となるスペースが誕生した。
〈WORKATION IN TOYOOKA @KIAC〉
城崎国際アートセンターは、2014年にオープンした舞台芸術に特化したアーティスト・イン・レジデンス施設。ホール、6つのスタジオ、最大22名が宿泊可能なレジデンスやキッチンなどで構成され、アーティストが城崎のまちに暮らすように滞在し、創作に集中することのできる施設として、開館以来高い評価を受けている。
アートセンターのエントランスにオープンしたのが、〈WORKATION IN TOYOOKA @KIAC〉。メリハリをつけて仕事ができる環境をコンセプトに設計されており、ワーキングデスク11台と、オンライン会議にも対応する空間としてワーキングルーム2室を整備。仕事の気分転換にも最適なテラススペースも。利用者同士や利用者とKIAC滞在アーティストとのコミュニケーションが生まれる空間としても期待されている。
仕事の息抜きスポット
息抜きしながら、とことん城崎文学に浸れるスポットへ。
短編喫茶Un
ブックストアとカフェ、セレクトショップとテイクアウトの4つのカテゴリーから構成されていて、誰でも入場無料で店内設置の席で自由に全ての本が読み放題。ブックストアでは「小さな物語」の専門店として、独自セレクトしたエッセイや詩、俳句、絵本や写真集、アート、漫画など多彩なジャンルの小さな物語だけを集めている。企画棚もあり、「5分で読める本」や「30分で読める本」「1時間で読める本」「一生かけて読む本」など、新たな本選びの楽しみも体験できる。店内には本をモチーフとしたオブジェなどフォトジェニックな楽しさも。店内併設のカフェのオリジナル生バターどら焼きとドリンクを味わいながら、どっぷり本の世界へ。
城崎文芸館
温泉街の真ん中に建ち、城崎温泉にゆかりのある作家の作品を中心に展示。常設展では、志賀直哉や彼と共に近代文学を担った白樺派の作家たちの城崎の町や人と関わりを本や書簡を通じて紹介している。また、城崎と縁の深いコウノトリ伝説を始め、湯治の湯として歴史を積み重ねてきた城崎温泉らしく、入浴券の変遷や北但大震災からの復興など、様々な資料を通してその歩みが展示から読み解ける。
城崎の温泉旅館の若旦那たちが中心になって起ち上げたプロジェクト「本と温泉」の企画展も開催。プロジェクトでは、オリジナル書籍を企画・編集し、地元で地域限定発売している。「本と温泉」に『城崎裁判』を書き下ろした小説家 万城目学さんを紹介する「万城目学と城崎温泉」展を開催したり、
『城崎へかえる』を出版した湊かなえさんと城崎の関わり、人気作家の素顔を紹介。1階の「SHOP & SALON KINOBUN」では、城崎ゆかりの書き手にまつわる本やオリジナルの商品が購入可能。