「伊太利亜 ミラノ村からBuongiorno!」第8回 心にはいつも親愛なるイタリア。想いを胸に、トリノの街をめぐる。
人生の転機でミラノへ引越しした元築地OLによる『伊太利亜通信』。ミラノのリアルな日常をお伝えしてきましたが、昨年5年にわたるイタリア生活を終えて帰国。帰国後も季節ごとに訪れているイタリア各地をレポートします。第8回は、1年前に訪れたトリノの街をご紹介。
がんばれイタリア!Ce la faremo!
いかなる時もユーモアに富んでいる国、イタリア。今回の疫病で大変な事態ですが、家に留まりウィットを交えお互いが励ましあっている姿からも、改めてこの国に暮らす人たちの底力を感じます。心の豊かさや持ち前の陽気さで必ずや乗り越えてくれることでしょう。早くいつもの活気あるイタリアが戻りますように。いつかこれを読んだ人が足を運んでくれることを願って。
2020年も早数か月。あれやこれやあるうちにいつの間にか春が来ていて、気が付けば桜の木もピンクから緑に。1年後、半年後、はたまた1か月後にどんなことが起こっているのかなんて、わからないもの。だからこそ1日1日を丁寧に、心豊かに過ごしていきたいですね。
1年前のちょうど今頃…自分の星座(おうし座)の新月という1年で最も特別な日の行き先に決めていたのは、ミラノから特急電車で1時間の街、トリノ。理由は単純、まさにトリノのシンボルが私の星座と同じ「雄牛」だから(笑)。2019年5月5日は新元号がスタートしてからの最初の新月ということもありタイミングに後押しされ、ちょっくらゲン担ぎに出掛けたのでした。
※イタリア語で雄牛は「Toro(トーロ)」。「Torino(トリーノ)」という名前の響きが「小さい雄牛」を連想させることから、トリノのシンボルに雄牛が使われるようになったのだとか。
1.ミラノと雄牛
今はすっかり人影もなく空虚の美を放つ〈ヴィットーリオ・エマヌエーレⅡ世のガッレリア〉。床面にモザイクで描かれた雄牛が有名で、いつもは絶えず人が押し寄せるミラノの超有名アーケード。
雄牛の股間の上に右足かかとをつけて3回転すると“ミラノに戻って来られる”とか“幸せになれる”といった言い伝えがあるため、無数の人に踏まれ続けた股間は窪んでいく一方。幾度も修復されてきました。実はこれ…かつてイタリア王国初の首都であったトリノに支配されるミラネーゼたちが「打倒トリノ!」の意味を込め、トリノを象徴する雄牛の大事なトコロを踏むようになったのが始まりなのだとか。
ミラノのVia Torino(トリノ通り)には、2018年5月までの3か月間の期間限定で雄牛のブロンズ像が置かれていました。見慣れた景色の中に、ある日突然3メートルを超える巨大な雄牛が現れたものだから…通行人はみな仰天。そして、トリノ通りに雄牛の像を置くというユーモア!ミラノの地図の上に頭から裏返しの迫力ある雄牛は、強さ、そして困難に直面したときにさらに力強く再スタートするための勢いを表現しています。過去の作品ですが、これから再スタートを切ろうとするイタリアに重なるものが。
2.トリノの老舗喫茶店〈Caffè Torino〉
さて、かの新月の日の朝のこと。トリノに到着するやいなや真っ先に向かった〈Caffè Torino〉は、街の中心に位置する歴史的な喫茶店。フランス貴族サヴォイア家の統治のもと古くからフランスの影響を受けていたこの街の雰囲気は、どこかエレガント。この喫茶店も例外ではありません。まるで20世紀初頭のまま時間が止まっているかのよう。
雄牛の上をしっかりと3回転し、ゲンを担いで入店!
3.トリノのアイコン〈モーレ・アントネッリアーナ〉
ミラノのアイコンがドゥオモだとすると、トリノのアイコンは国立映画博物館を有する〈モーレ・アントネッリアーナ〉。欧州連合のユーロ硬貨の裏面には発行国ごとにその国を象徴するものが描かれていますが、イタリアが発行する2セント硬貨にはこの建物が。
ポケットの中で眠っているかもしれない、1セント硬貨。もし、この硬貨の裏面に〈モーレ・アントネッリアーナ〉が描かれていたら…なんと25万倍の価値(約30万円)にもなるのだとか!本来は2セント硬貨に施されるはずだったデザインが手違いで7,000枚の1セント硬貨にされ、そのまま出回ってしまったそう。
コスト削減のため、イタリアでは2018年に1セント・2セント硬貨の新規発行を中止しています。いま出回っているものも、貴重になるかも。
4.偉人が愛したチョコレートドリンク
チョコレートの街とも言えるトリノですが、チョコレート作りの歴史もサヴォイア家の時代にまで遡ります。哲学者ニーチェや文豪ヘミングウェイ、小説家ウンベルト・エーコなどの多くの偉人に愛されたチョコレートドリンクが「ビチェリン」。トリノ最古の喫茶店〈Caffè Al Bicerin〉が発祥地です。
※「小さなグラス」を意味する「bicchierino(ビッキエリーノ)」が訛り、ビチェリンと呼ばれるように。
もちろんこちらの喫茶店でも三日月形のチョコレート「ジャンドゥイオット」を目にします。ナポレオン帝政時代にカカオが不足し、それを補うためにチョコレートの中にヘーゼルナッツを混ぜ合わせたのが始まり。風味豊かで口どけなめらかなトリノ発祥の名産品として世界中の人に愛されるようになりました。
門外不出のレシピと材料を日本の店舗にも送り、日本でも変わらぬ味のビチェリンを提供しているとのこと。「日本の店員はみんな良く働いてくれていたよ」なんて言っていたっけ。元気かな。
5.イタリア再スタートの時
2020年2月に行われたばかりのサンレモ音楽祭(日本でいうレコード大賞)で大賞に輝いた「Fai rumore」。これを歌うディオダートは「家でできることは沢山ある。一人一人が自分の役割を果たし、できる限り家に留まろう、そしていつかみんなで賑やかにやろう!」とSNSを通し、曲のタイトルに重ね合わせたメッセージを送っています。
そしてこの曲を病院の廊下で歌った医師のアイディアにイタリア中が感銘を受けています。医療従事者の努力は治療の範疇を超え、愛する家族のもとを離れている患者たちを音楽で癒す試みにまで及んでいます。張り詰めた現場の空気を和らげようとした医師の気持ちを思うと、目頭が熱くなります。しかもとっておきの美声で。
世界が一日も早く日常を取り戻せますように。#distantimauniti