古川日出男、大森克己、開沼博が福島で制作し続ける理由 | ハマカルアートプロジェクト #1「福島芸術講」
福島県の12市町村のゆるやかな発展を支援する「ハマカル」。このプロジェクトの最初の試みとして、芸術家が地域に滞在しながら創作活動をする〝アーティスト・イン・レジデンス〟が行われた。Hanako が注目した参加作家は、社会学者・小説家・写真家の3人による「福島芸術講」。ウェブ上で公開されている作品とともに、その活動を紹介します。
<ハマカル>とは?
「ハマ」は福島県の浜通り。正式名称はハマカルアートプロジェクト。2011 年の東日本大震災を発端とする福島第一原子力発電所の事故によって、住民が避難を余儀なくされた12の市町村(田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯館村)。この地域に「アーティスト・イン・レジデンス」の場を設け、助成金などの支援を行なっている。アーティスト・イン・レジデンスとは、芸術家たちが、ある場所に一定期間滞在しながら創作活動をすること。映画を撮る、立体作品をつくる、パフォーマンスをする......といった創作活動を通じて、地域住民や企業との交流が生まれ、地域の活性化にもつながることが期待される。
1.ハマカルアートプロジェクトの一つ、<福島芸術講>の3人と話す。
<福島芸術講>とは?
社会学者の開沼博・小説家の古川日出男・写真家の大森克己の3人によるプロジェクト。経産省の「令和5 年度予算 芸術家の中期滞在制作支援事業」の助成を受け、2024年月より福島県の相双地方12 市町村で滞在制作。開沼によるフィールドレコーディング、古川による文章、大森の写真からなる作品を、公式サイトで公開中。3.11 からの復興プロセスを残すというテーマのもとに定期的に集まり、日常性・持続性の上に成り立つ創造をする、ゆるやかな集団だ。
2.写真家・大森克己の「SIGHT/SEEING On the Pacific Coast of Fukushima」
「まなざしの公共性ということを、意識して撮っていたような気がします」
「SIGHT/SEEING On the Pacific Coast of Fukushima」
2024年1月から2月にかけて、福島の12 の市町村をめぐり、撮影した作品群。大森いわく「『誰が見ても絶対そう撮るべきという感じでそこにあるので、誰が撮ったかすら重要でなくなってしまう写真』を撮ることに挑戦している」。
3.作家・古川日出男の「作文(一)から(三)」
「言葉には、まだ名前のない想いに自分で命名する役割があるんです」
福島滞在中のフィールドワークをもとに創作された、古川のテキスト。古川が見て聞いて考えたことは、「俺」の物語でも「私」の人生でもなく、何者にも分類されない話として記された。「そこにたどり着くまでに小説1 本分くらいの追い込みが要りました」と古川。
4.社会学者・開沼博の「まつりのあと」
「音は嘘をつけない。全てを記録してしまうし、それが許されるメディアなん
です」
2024 年1 月に、福島の12 の市町村でフィールドレコーディングされた作品。食堂の調理場、工場の機械音、誰かの会話、鳥小屋(どんど焼き)の茅が燃える音、今年も川に飛来してきた白鳥の鳴き声。フィールドレコーディングは、サウンドスケープや環境音楽に象徴される音楽ジャンルであると同時に、人類学や民族音楽学などで研究手法として広く行われてきたものだ。