第9回 写真家・田尾沙織の『Step and a Step』500gで生まれた赤ちゃん 【田尾沙織のStep and a Step・9】すぐ手を出す子供の気持ちがわからない
写真家・田尾沙織さんに、500gで生まれて、軽度の知的障害とADHDだと言われている息子、奏ちゃんの子育てと日常について綴っていただくこの連載。
2人の日常を、田尾さんによる色鮮やかな写真と共にお届けします。
先日Instagramで、奏ちゃんがすぐに蹴ったり叩いたり物を投げて困っているという話をチラッと書いたところ、「うちも同じで困っている!」というメッセージをたくさん頂きました。
本当に、悩みますよね。友達に嫌な思いや怪我だけはさせて欲しくない、そういつも願っています。
今回はなんで叩いてしまうのか、考えていることを書こうかと思います。
まず奏ちゃんの場合、コットに寝ていた0歳の時から、お医者さんに「奏ちゃんは癇癪もち」と言われるくらい、お腹が空いていたり、なにか気にいらないと大泣きで足をばたつかせてコットを蹴っていました。なので、癇癪はある程度覚悟ができていました。その後も、言葉が出る前は、嫌なことがあると頭を何度も壁や床に打ち付けたり、物を投げて怒りをアピールしていました。
蹴られたりぶたれたら悲しい気持ちだと伝えるとか、ぎゅっと抱きしめて上げて心を落ち着かせるとか、鬼の電話に電話するとか、いろんな方法を勧められますが、実行しているんです。それでもその時は謝ったり落ち着いたりしても、また繰り返します。
言葉が出て来て気持ちを伝えられるようになってから、癇癪が少し減ったのも事実です。物を投げるのも食卓では投げなくなりましたし、減ってはいるんです。
でも、まだまだ投げる、蹴る、叩く…。
療育の先生にも相談しているのですが、先生にも分からないのが、奏ちゃんが蹴ったり手を出すのは、決して機嫌が悪くて怒っている時だけじゃないことです。私もそれが謎です。お友達と遊んでいて、使っているおもちゃを取られてしまったり、押されたりして、怒って手が出てしまうのは理由がわかるのですが、奏ちゃんは楽しくてテンションが上がっても手が出てしまいます。
物を投げたり力一杯ぶつってほどではなくても、お友達に手を出したり、作っていたブロックを壊したり、パチンコ玉がピンにぶつかるみたいに、わざと左右にいる人にぶつかりながら歩いたりします。「今日は落ち着いているな」と先生が思う日でも、急にスイッチが入ったようにそうなる時があります。全然奏ちゃんの気持ちがわかりません。
歩きながら、猫がわざとテーブルの上の物にすり寄って落として行くように、近くにある物を投げたり落としながら歩いたりもします。これに関して先生も理由がわからなくて、今先生と一緒に悩んでいる最中です。
保育園の先生にも以前から相談していて最近言われたのは「年少さんの時はこんなにしなかった」という話でした。(私から見ると年中している気がするのですが)
「年中さんになって教室が年長さんと一緒になってから、年長さんに一人叩いたり物を投げてしまう子がいて、その子を見て増えた気がします」
と言われたのです。ありえるな、と思って、奏ちゃんに「お兄さんのマネしてるの?」と聞いたら、「うん! だってぼくマネっこだいすきだから!」と言われました。本当に年長さんの影響かはわかりませんが、いい影響も悪い影響も両方あるみたいです。
最近「こわす」という単語も「ぶっこわす」と言うことがあって、良くも悪くも成長したなと思っています。
結局のところ、まだ解決方法は見つかっていなくて、蹴る投げる叩くがあるたびに叱っては、「将来お友達が離れていってしまったらどうしよう」と暗い気持ちになることもありますが、よく考えると大人になっていきなり蹴ったりぶったりしてくる人や、いきなり物を投げる人は、まずいません。いるかもしれないけど、多分ほとんどいないと思います。私の周りではいません。小学生くらいの時はいたかもしれませんが、今はいません。
そうやって考えると、いつかはやらなくなると希望が見える気がします。
そんな小さな希望を胸に、なんとか怒りを押さえながら注意している毎日です。