第11回 写真家・田尾沙織の『Step and a Step』500gで生まれた赤ちゃん 【田尾沙織のStep and a Step・11】分裂している細胞と老化している細胞
写真家・田尾沙織さんに、500gで生まれて、軽度の知的障害とADHDだと言われている息子、奏ちゃんの子育てと日常について綴っていただくこの連載。
2人の日常を、田尾さんによる色鮮やかな写真と共にお届けします。
5歳になった奏ちゃんに記憶力がついてきた一方で、40歳になった私の記憶力は確実に衰えていっています(40前から思い出せないことが多かったけど・・・)。
先日、近所のドラッグストアに買い物に行く前に「洗剤、シャンプー、ゴミ袋、牛乳と、のり(文房具)買わないとね」と奏ちゃんに話しかけるように言いながら家を出ました。
そして買い物中、必要な物は全部カゴに入れ終わり、レジへ並ぼうとした時に奏ちゃんが「のりは?」と聞いてきたのです。私は「海苔は今日はいらないよ。お家にあるから」と、何を急に言い出したんだろうという感じで答えました。でも奏ちゃんが「ちがうよ、のりだよ、のり!」と何回も言うので「?」と思って、少し経ってようやく思い出しました。工作に使うのりが欲しかったことを・・・。
赤ちゃん扱いしていた奏ちゃんの方が、私よりもよっぽど記憶力が良いことに絶句しました。
最近は、忘れそうな買い物があると前もって奏ちゃんに伝えておきます。
例えば「明日は療育の帰りに奏ちゃんの保育園用の靴買いに行くよ」と伝えておくと、朝起きた時、保育園に行く前、療育の前、何度も「きょうは りょういくのあと くつ かいにいくんだよね」と、奏ちゃんが言ってくれます。私の頼れるリマインダーです。
また別の日「あ~疲れた」と私が言うと、奏ちゃんが「なんでつかれるの?」と聞いてきたので、なんで疲れるのか、疲れるってどういうことなのか、言葉で教えるのは難しいと思いつつ「子供より大人の方が疲れやすいんだよ」と答えました。
それでも「なんで?」と何回も聞き返されたので「箱から出したばかりの新いトミカはさ、ピカピカで壊れてなくてよく走れるでしょ? でも古くなったトミカはドアが取れたりタイヤが取れたりして、うまく走れなくなってくるでしょ? 新いトミカが子どもで古いトミカが大人なんだよ」と教えてみました。
「わかった!」と爆笑しながら理解を示してくれました。
そう、私は古いトミカみたいなもの。新いトミカにどんどん追い越されていくだろうけど、まだなんとか走れるかな。