全米大ベストセラーの恋愛青春小説も。 本読みのプロおすすめ!読書の秋に読みたい、心を揺さぶる本6選 vol.2
読書の秋に読みたい、心を揺さぶる本とは?胸キュン必至の人気漫画から、全米大ベストセラーの恋愛青春小説まで。豊嵜由美さん、トミヤマユキコさん、瀧井朝世さんをナビゲーターにお迎えしてお届け!
1.フィリップ・クローデル『リンさんの小さな子』
祖国の土を入れた鞄と赤ん坊を抱きしめ、船を降りたリンさん。戦火に追われてやってきた見知らぬ土地で、男と出会い友情を結ぶ。静謐な美しさに満ちた寓話のような物語。(高橋啓・訳/みすず書房/1,800円)
戦争で息子夫婦を失ったため、生まれたばかりの孫娘を連れ、難民として渡仏したリンさんは、バルクさんというフランス人と知り合いになり、言葉がわからないながら気持ちを通い合わせていく。最終章、「よかった!」と安心した途端「そ、そんな」と絶句するのは必至。その後、「えっ!」という驚きがもたらされ、最後の最後で──。落涙二段構えのトリッキーな感動作だ。(豊嵜由美)
2.朝倉かすみ『タイム屋文庫』
薪ストーブ、猫に本。《おばあちゃん家の居間》をテーマに、温かなものが配置された貸本屋が開店した。小樽の街に立つここを訪れるのは、16歳の時に好きだった彼か、それとも?(マガジンハウス/1,500円)
101歳で亡くなった祖母の家で、タイムトラベルにちなんだ小説ばかりを置く貸本屋を始める31歳の柊子。柊子がさまざまな人と出会い、交流を深めていく物語の中に、過去に存在するいろんな自分が未来を決定していくということ、過去の経験にはちゃんと意味があることが描かれていて、読後、心の芯まで温まること間違いなし。気持ちが前向きになれる小説なのだ。(豊嵜由美)
3.眉月じゅん『恋は雨上がりのように』
黒髪と制服のスカートを翻し、横浜を颯爽と歩く(時々走る)美少女。大きな瞳が見つめる先には10円ハゲも痛ましいバツイチおじさん。純愛っぷりにしびれる人続出の人気漫画。(小学館/既刊6 巻 各552円)
冴えない中年ファミレス店長と、アルバイトの女子高生。普通であれば、仕事以外の接点などなさそうな二人が、優しさを積み重ね、あくまでピュアに距離を縮めていきます。ヒロインのあきらちゃんが、当て馬男子(イケメンだしいい奴)には目もくれず、店長一筋なのが本当に胸キュン。《あなたの魅力はあたしだけのもの》というセリフは、何回読んでも悶絶します。(トミヤマユキコ)
4.長嶋 有『愛のようだ』
日産ラシーンに初心者マークを貼り付け、伊勢神宮へ、草津へ、新潟へ。目的地に向かう密室を満たす音と匂い、高揚感を含んだ空気に包まれて、読者も一緒に旅に連れて行かれます。(リトルモア/1,200円)
40歳にして運転免許を取得した、バツイチのフリーライター《俺》を語り手にしたドライブ小説。車中ではいろんな話題が飛び交い、iPodに入っている曲が流れて楽しい。その上、《「泣ける」恋愛小説》でもある。「愛のようだ」としか言いようのない恋に落ちた《俺》の想いは、常に車中にあり、だから最後、カーラジオからある曲が流れてきた瞬間……。胸、張り裂けます。(豊嵜由美)
5.大島弓子『ロスト ハウス』
《うちで遊んでもいいよ》と言ってくれたその人の家は、チリが積もって蜘蛛が巣を張っていた。不思議な解放感があった。居場所を探す少女の姿を描く表題作に加え、4つの短編を収録。(白泉社文庫/620円)
新聞記者の鹿森が住んでいるマンションは、散らかっていて、鍵すらかかっていない。でも、隣に住んでいる保育園児・エリは、そんな部屋が大好き。しかし、大切な解放区は、ある日突然失われてしまう。やがて大学生になったエリは、まだそのトラウマを抱えたままだったのだが……という物語。喪失と再生を繰り返し生きる人間の切なさと美しさが、胸に迫ります。(トミヤマユキコ)
6.ジョン・グリーン『さよならを待つふたりのために』
癌を患う少女と義足の少年。病と闘う彼らの姿は軽やかで、まっすぐに語られる言葉は強くユーモラスで気持ちがいい。若い二人の愛と生を描く爽やかな感動作。(金原瑞人、竹内茜・訳/岩波書店/1,800円)
アメリカで大ベストセラーとなり、映画化もされた恋愛青春小説(邦題『きっと、星のせいじゃない。』)。病気の少年少女が主人公と聞けば安直な悲しい話と思われそうだがさにあらず。これは理不尽な病気になるわ大人は頼れないわの不完全で欠陥だらけの世界の中で、恋に落ちた若い二人が懸命に生きる物語。流れる涙は同情の涙でなく、彼らの力強さに圧倒されての涙。(瀧井朝世)
豊嵜由美(とよざき・ゆみ)/書評家。文芸誌から女性誌まで多数の連載を持つ。著書に『ニッポンの書評』『まるでダメ男じゃん!「トホホ男子」で読む、百年ちょっとの名作23選』など。
トミヤマユキコ(とみやま・ゆきこ)/ライター、研究者。少女漫画、文芸、サブカルにまつわる執筆や連載を抱える。著書に『パンケーキ・ノート─ おいしいパンケーキ案内100』がある。
瀧井朝世(たきい・あさよ)/ライター。TBS系『王様のブランチ』本コーナーのブレーンを務める。WEB本の雑誌「作家の読書道」など連載のほか、作家インタビューや書評の寄稿も多い。
(Hanako1127号掲載/text:Hikari Torisawa)